ニュース勢力ます排外主義に国連が「平和の文化」を強調

勢力ます排外主義に国連が「平和の文化」を強調

【国連IPS=タリフ・ディーン

特定の宗教や移民、マイノリティーに対する不寛容が世界的に勢いを増している中、国連総会が「平和の文化」について討論するハイレベル・フォーラム(193加盟国、国連諸機関、市民社会、メディア、民間セクターなどが参加)を開催する。

このフォーラムの主唱者であるナシル・アブドゥラジズ・アルナセル国連総会議長は、「国連は対話こそが平和への最善の道のりであるという前提のもとに創設された組織」であり、「人類は、文化的多様性や思想の自由が保障された環境の中で、互いの理解を深めることによって、他者への尊敬の念や寛容な心を養うことができるのです。」と語った。

またアルナセル議長は、「国連は、国際社会が異なる信条や宗教から成り立っているという概念を是認しています。しかし今日、世界の一部の地域において、不寛容、外国人嫌い、憎悪を扇動する勢いが増しているのは残念なことです。」と付加えた。

 国連総会は、1999年9月に「平和の文化」に関する国連宣言と行動計画を全会一致で採択している。内容は、生命の尊重、人権の促進、開発への権利、国家主権の完全尊重、紛争の平和的解決、ジェンダー差別の解消などを謳ったものである。

 しかし、それから13年が経過したが、国際社会には引き続き人種や宗教による差別、同性愛嫌悪、移民やマイノリティーに対する差別、そしてとりわけイスラム教徒を標的としたイスラム恐怖症などが蔓延っており、多くの人々が憎悪犯罪の犠牲となっている。

先月、米国ではシーク教の寺院が襲撃され、6人の信徒が銃殺された。加害者は、ターバンをまいた人々をアフガニスタンのタリバン(イスラム教)に連なるものだと勘違いしてこの襲撃事件を引き起こしていた。

また2011年7月には、ノルウェーのウトヤ島で、イスラム教徒と移民を差別するノルウェー国籍の極右の人物(アンネシュ・ブレイビク)によって、ユースキャンプに集っていた77人の若者が殺害される事件が起こっている。

国連総会ハイレベル・フォーラムは、こうした国際社会が直面している現状を踏まえて、1999年に採択された行動計画の履行状況を審議するとともに、平和の文化を推進しようとする国際的な動きをさらに後押しすることを目的として開催されるものである。

本ハイレベル・フォーラムでは、基調講演者として、潘基文国連事務総長、アルナセル国連総会議長、フェデリコ・マヨールIPS理事長(平和文化財団会長)、コーラ・ワイス国際平和ビューロー元会長(ハーグ平和アピール代表)、アンワルル・チョウドリ国連総会議長上級特別顧問などが参加予定である。

アルナセル議長は、先月イタリアのリミニで開催れた会議で行った講演の中で、一部の社会では、文化が対話や人間としての連帯感に繋がる道筋ではなく、分断の原因とみなされている点や、一部の地域では、異なる宗教に属しているという理由で、マイノリティーの人々が、残虐行為や大量殺戮の対象とされている事例(例:ミャンマーにおけるロヒンギャ族)事実、さらに、聖書やコーランが焼かれ、宗教上のシンボルが侮辱の対象となっている問題を指摘した。

「これは私たちが住みたい社会ではありません。私たちは社会の中にある多様性を守っていくべきなのです。私たちが多様性の利点を実感し、グローバリゼーションの産物を全ての人類家族の間で公正かつ調和的に分配しない限り、こうした問題は引き続き頭をもたげてくるのです。」とアルナセル議長は語った。

Nassir Abdulaziz Al-Nasser/ UNAOC
Nassir Abdulaziz Al-Nasser/ UNAOC

またアルナセル議長は、「多民族、多宗教、多言語、多文化の社会は、全ての人類にとっての富の源と見做されるべき」と指摘したうえで、「対話が、平和と発展のために果たす重要な役割を考えれば、国連総会加盟国が『文明の同盟(U.N. Alliance of Civilizations)』(キリスト教を背景に持つ西洋社会とイスラム社会の溝を埋めることを目的に、スペインのホセ・ルイス・ロドリゲス・サパテロ首相の2005年の第59回国連総会演説で始まったイニシアチブ。トルコのレジェップ・タイイップ・エルドアン首相が賛同し、同年中に国連の枠組みのもとに発足)という枠組みを国連内に構築した英知を、私たちは正当に評価すべきです。」とアルナセル議長は語った。
 
「文明の同盟」は、文化の相違に根ざす深刻な対立が世界を席巻した時期(米国での同時多発テロ、アフガニスタン、イラクへの米英軍の侵攻、スペインのマドリードでのテロ事件:IPSJ)に創設された。
 
「この新たな枠組みは、国際社会が不寛容のうねりを食い止め、希望と友愛に基づく視点を提示していくための新たな希望として登場したものです。今日、様々なパートナーに加えて、107カ国以上の国連加盟国が『文明の同盟』のグループ・オブ・フレンズに加盟していることは励みになります。」とアルナセル議長は語った。
 
「私は、将来この枠組みへの加盟が普遍的なものとなると期待しています。」とアルナセル議長は語った。
 
「『文明の同盟』は、様々な活動を通じて、私たちの多様性に対するものの見方を転換させるうえで重要な役割を果たしました。このイニシアチブでは、多様性と開発の相関関係に焦点が当てられています。つまり、社会の中の異なるグループ間の調和がなければ、繁栄はもとより持続可能な経済開発を実現するとなど不可能なのは、明らかです。」とアルナセル議長は語った。

「文明の同盟」は、これまで、マドリッド、イスタンブール、リオデジャネイロと会議を開き、昨年12月には第4回フォーラムをカタールのドーハで開催した。

「来年オーストリアのウィーンで開催予定の次回フォーラムでは、今年取り上げた諸問題について、さらに前進が図られることを確信しており、開催を楽しみにしています。」とアルナセル議長は付け加えた。

アルナセル議長は、「異なった宗教が我々を分断することなく、我々をつなぎ合わせて、より平和で寛容な人間家族に向けた架け橋となるような」世界を目指すうえで、「『文明の同盟』には重要な役割があります。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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