【アブダビWAM】
「ダマスカス郊外の3つの病院では担ぎ込まれた数百人の患者が、呼吸に苦しみながら横たわっていた。中には子供の姿も多く、医者や両親が懸命に蘇生措置を試みていた。霊安室には、銃弾や爆弾によってではなく、化学兵器によって命を奪われた多くの遺体が折り重なって安置されていた。21世紀の現代において、このような大規模な虐殺がおこなわれたのは前代未聞である。」とアラブ首長国連邦(UAE)の英字日刊紙が8月23日の論説の中で報じた。
従って問題となるのは、バラク・オバマ大統領が(1988年のフセイン政権によるハラブジャ事件を念頭に)シリア政府を牽制する意味で使用した「レッドライン」という言葉である。オバマ大統領はシリアが化学兵器を使用した(=レッドラインを越えた)場合の対応について明らかにしていないが、今回の化学兵器使用(*1)に対して具体的な行動がないとすれば、それは「レッドライン」の許容範囲が大統領の知らぬうちにシフトしたということになるのだろうか。それとも、シリアで起こっていることについて、国際社会が無関心になってしまったということになるのだろうか。シリアでは絶望感が高まっている。
「首都ダマスカス郊外で21日に勃発した化学兵器による攻撃がもたらした犠牲者の規模もさることながら、(長引く内戦にもかからず介入を躊躇してきた)米国への信頼、西欧諸国の誠実さ、そして国連の対処能力に対する疑問がシリア国民の間で高まっている。」とガルフ・ニュース紙は論説の中で報じた。
また同紙は、「国際社会は今回の惨事の規模に驚くあまり事態の把握ができなくなっているのだろうか?」と疑問を呈したうえで、「数千人の無辜の市民を攻撃した21日の化学兵器使用は、今後のシリア内戦の様相を変えていくだろう。」と報じた。
また同紙は、西側諸国はジレンマに直面していると指摘した。国連は既に2年におよぶシリア内戦を終結に導く政治的解決策を見いだせないでおり、事態打開を目指すいかなる試みも、国連安保理でロシアと中国が繰り返し拒否権を発動したことで、各国の意見対立のみが浮き彫りにされてきた。
これまで査察団は、シリアの化学兵器に関する包括的な査察を行うことができずにおり、結果的に内戦に火を注ぐことになった。しかし21日の化学兵器使用により、国際社会の介入を求める声は今後拡大していくもの思われる。米国と国連は、今後の対応がもたらす影響を慎重に考慮しながらも何らかの行動を起こすよう迫られている。
「一方で、化学兵器が再び使用され、オバマ大統領の所謂『レッライン』の許容範囲がシフトし続ける可能性もある。しかし、今回の事件でシリア紛争が抱える危険性の度合いが高まったのは確かである。」と同紙は報じた。
またガルフ・ニュース紙は、「これまで米国が中東危機に介入してきた成績は決して芳しくない。むしろ、通信簿の内容は近年悪化している。」と付け加えた。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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*1)1月21日の化学兵器使用はちょうどシリア政府の要請で国連査察団がダマスカスに到着した時期に起こったもので、シリア政府によるものかどうかについては定かではない。一方シリア政府は、化学兵器の使用は、外国の軍事介入を促すために反政府勢力が行った犯行と主張している。