ニュース米ロ対立で今後の核問題協議に悪影響か

米ロ対立で今後の核問題協議に悪影響か

【国連IPS=タリフ・ディーン】

ロシア政府が米国人内部告発者で現在はモスクワに滞在しているエドワード・スノーデン氏に一時的亡命を認めたことを引き金に、米ロ間の政治的対立が激化しており、国連を舞台とした両超大国間の関係にも悪影響が出かねない情勢となっている。

米国政府は8月7日、翌月初めにモスクワで開催することが予定されていたバラク・オバマ大統領とウラジミール・プーチン大統領による米ロ首脳会談を延期する決定を下した。しかし、スノーデン問題の余波はこれにとどまらず、両国間の対立は今後、シリアの内戦イランの核問題、核兵器削減提案などの政治的に微妙な問題にも悪影響を及ぼすとみられている。

ロシア政府は、シリア制裁を目的に欧米諸国主導で出された国連安保理決議案に対して、中国政府とともにすでに4回も拒否権を行使している。その結果、シリアに対する国連制裁が今後なされる可能性はきわめて低くなっている。

匿名を条件にIPSの取材に応じたあるアジアの外交官は、「今後米ロ関係が悪化すれば、国連安保理はさらに機能不全に陥っていくことになるでしょう。またそれは同時に、(米ロ両国が中東の関係国と開催に向けて困難な調整を進めてきた)『シリア問題をめぐるジュネーブ会議』の開催が不可能になることを意味します。」と指摘した。

また、米ロ超大国間の対立の悪化は、国連総会(193が加盟)が今年9月26日に史上初めて「核軍縮に関するハイレベル会合」の開催を予定している中で進行している。

オバマ大統領は、6月にベルリンのブランデンブルク門で行った演説の中で、(ロシア政府に対して)核兵器の一層の大幅削減を呼び掛けた。そしてその提案は、同じくベルリン演説で提案された2016年に開催予定の「第4回核安全保障サミット」において、議題に取り上げられるものとみられていた。

国際核兵器廃絶キャンペーン(ICAN)の共同代表でオーストラリア運営委員会の議長でもあるティルマン・A・ラフ氏はIPSの取材に対して、「米国政府は、スノーデン氏をめぐるロシア政府との不和を、核軍縮議論を進展させない口実に利用することが考えられます。」と指摘したうえで、「だからこそ、核兵器を保有していない184の国連加盟国は、9つの核兵器国の人質にされている現状に終止符を打つべきなのです。つまり、これらの非核兵器保有国が主導して核兵器禁止条約(NWC)の交渉を開始し、核兵器廃絶への道を切り開くべきなのです。」と語った。ラフ氏は、メルボルン大学ノッサルグローバル保健研究所の准教授でもある。

公式の核兵器国である国連安保理5常任理事国(米国、英国、フランス、中国、ロシア)の他に、インド、パキスタン、イスラエル、そしておそらくは北朝鮮の4か国が非公式の核兵器国となっている。

Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.
Photo: The writer addressing UN Open-ended working group on nuclear disarmament on May 2, 2016 in Geneva. Credit: Acronym Institute for Disarmament Diplomacy.

アクロニム軍縮外交研究所のレベッカ・ジョンソン所長は、IPSの取材に対して、「米ロ両国にはあまりにも多くの共通利害があり、ロシアがエドワード・スノーデン氏に一時的亡命の権利を与えたからといって、それらが損なわれることはないでしょう。」と語った。

「これは冷戦への回帰とはならないだろう」と、ジョンソン氏はそれほど悲観的な様子もなく語った。

ジョンソン氏は、「プーチン大統領は核科学者イーゴリ・スチャーギン氏を11年間も収監(1999年にスパイ容疑で拘束、04年に15年の禁固刑が確定したが、2010年に米国とのスパイ交換によって身柄を引き渡された)し、米国と同じように、安全保障に関する情報や諜報部門の活動やミスが露見することを避けることに熱心です。」と指摘した。

「したがって、米ロ両国はスノーデン氏をめぐって表向きは対立しているが、両国にとって最も重要な共通の利害とは、ある種の軍備削減関係を維持することにあるだろう。」と語った。

またジョンソン氏は、「核兵器が及ぼす非人道的帰結に対する懸念を表明する国がますます増える中、おそらくロシアと米国は、核兵器を世界的に禁止すべきとの高まる声を鎮めようとして、国連総会ハイレベル会合でP5(5大国)の強い連帯を見せようとするでしょう。」と語った。

ラフ氏は、「核兵器は、地球上の全ての人類に、想像を絶する致命的な危険をもたらすものなのです。」と語った。

ロシアと米国は、世界の1万7270発の核兵器のうち1万6200発(94%)を保有しており、この生存上の脅威を取り除くために重い責任を負っている。

「しかし、両国は新しい核兵器を開発し、核戦力近代化のために両国で毎年750億ドル以上を費やしています。これは米ロ両国が核を永久に保有し続ける姿勢のあらわれに他なりません。」とラフ氏は語った。

「核兵器を廃絶することは、世界で最も緊急な課題であり、その他の問題のために妨げられることがあってはならないのです。」とオーストラリア赤十字社の国際医療顧問でもあるラフ氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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