ニュース│ベネズエラ│領域画定を求めるアマゾン地域の先住民たち

│ベネズエラ│領域画定を求めるアマゾン地域の先住民たち

【カニョデウーニャIPS=ウンベルト・マルケス】

「アマゾン流域の全ての国が『環境保護が大事』と言うが、実際にはいずれの国も多国籍企業と協定を結んで、地下資源の採掘や森林開発、道路建設を認めているのです。」とベネズエラ南部アマソナス州に住む先住民族クリパコの指導者グレゴリオ・ディアス・ミラバル氏は語った。

「ベネズエラでは先住民の権利を支持する50以上の法律や規定がありますが、適用が困難なため、先住民問題に関する決定については、主に政府に役職を有する先住民指導者に相談することになっています。」とアマソナス先住民連盟(ORPIA)の地域コーディネーターでもあるディアス・ミラバル氏は語った。

「しかしベネズエラのニコラス・マドゥーロ政権は、こうした手続きを経ることなく、ベネズエラ国内の採鉱調査を行う許可を中国企業『シティックグループ(中国中信集団有限公司)』に与える決定をしました。しかし私たちは採鉱場など望んでいないのです。また私たちは、(政府の決定に反対しているからと言って)政府から、犯罪者、社会に不安をもたらす者、米中央情報局(CIA)の手先呼ばわりされたり、或いは、あたかも他の外国の利益を擁護しているかのように、みなされたくありません。」

アマソナス州の11の先住民族団体が、6月以来、シティックグループによる採鉱調査の中止と先住民族の土地早期画定を求めて、マドゥーロ大統領に面会を要求している。

「私たちが唯一生き残る方法は、ここアマゾンの環境と生態系を守ることなのです。私たちはアマゾンの守護者として地球を救うお手伝いをしているのです。」とピアロア族の指導者ギジェルモ・アラナ氏はティラメリカの取材に対して語った。

アラナ氏は、ジャングルの奥地に切り立った台地が聳え立つアウタナ・テプイを背景に臨むカーノ・デ・ウーニャ村で暮らしている。

首都カラカスの南400キロにあるプエルトアヤクチョ(アマゾナス州都)からオリノコ川、クアオ川、アウタナ川をボートで数時間遡ると、ピアロア族の言葉で「ワハリ・クアワイ(生命の樹)として知られるアウタナ・テプイの光景が視野に入ってくる。

ピアロア族はジャングルの中に点在する川沿いの空き地で生活しているが、雨季(5月~9月)に当たる現在、川の水面は上昇し激しい濁流と化している。またこの地域の大地は花崗岩の岩盤でできており、表土層が浅く農作物の収穫が不安定である。

アマソナス州(184,000平方キロ)では、18万の人口のうち54%を先住民族が占めている。1989年の法律で鉱業は禁止されており、州内の大半の地域で何らかの環境保護法が施行されている。

他方、1999年憲法は、先住民族の領域を環境省の下に設置された委員会で画定するよう規定している。

委員会の最新の報告書によると、2009年以降、10の先住民族に属する73集落(合計人口1万5000人)に対して、40の集団的所有権が与えられた。

しかし、ベネズエラに40存在する先住民族のうち、部族全体に対して所有権が与えられたことはない。そのかわり、特定のコミュニティーを対象に所有権が与えられているが、アマゾナス州では依然として前例がないままだ。

「このプロセスに膨大な時間を要しているのは、先住民居住領域には環境、安全、開発、境界に関する様々な法規が決められている一方で、同じ地域内に複数の先住民族が居住しているという複雑な構造があるためです。ベネズエラ政府は、部族地域の領域画定問題について、まもなく進展を図るつもりです。私も年末までには進展があってほしいと望んでいます。」とアマゾナス州選出の国会議員(与党統一社会党)でクリパコ族出身のセサール・サンギネッティ氏は語った。

また同じく与党の先住民出身(ぺモン族)議員で国会先住民委員会の議長を務めるホセ・ルイス・ゴンザレス氏は、「私たち(先住民出身国会議員)が、もし必要ならば、先住民代表とマドゥーロ大統領の面談に向けた連絡役を務められると思います。たしかに、先住民の領域が確定すれば、各々のコミュニティーが共有財産に対する所有権を強めることができ、先住民の権利要求を強めることができるでしょう。しかしそれが実現したとしても、アマソナス州で横行している違法な採鉱活動を終わらせることはできないでしょう。」と語った。

シティクグループの専門家がベネズエラ各地で地下資源の調査を進めている一方で、複雑に入り組んだ地形をもつアマソナス州各地で、ブラジル、コロンビア等周辺諸国からアマソナス州に侵入したガリンペイロ(金鉱採掘者)らによる小規模な採掘作業が、急速に広がりをみせている。

「ティエラメリカ」が収集した事例証拠によると、数百もの金採掘業者がベネズエラ領内に侵入し、採掘地周辺の熱帯雨林を根こそぎ伐採するとともに、金分離の際に用いられる水銀で河川を汚染し、先住民を搾取している。

ブラジルと国境を接するオノリコ川上流のある場所で取材に応じたヤノマニ族の活動家ルイス・シャティエ氏は、「私たちは不法金鉱採掘者によって腕に数字の焼印をされた先住民らを見つけました。金鉱採掘者らは、先住民を所有物のように扱い、僅かな食料、ラム酒とマチェテ(山刀)の他はほとんど何も与えず、強制労働に従事させていました。先住民の男たちは荷役用の家畜のように扱われ、女たちも金鉱採掘者に奉仕することを強要されていたのです。」と語った。

ホセ・アンヘル・ディヴァソン(ローマカソリック教会)アマソナス代牧区長は、「ここの先住民たちは、憲法の規定にも関わらず、ベネズエラ政府がシティックグループに採鉱調査を認めた件について何の相談も受けていません。この地域、とりわけオリノコ川上流地域では過去30年以上に亘って違法な採掘作業が繰り返されてきました。今回の政府決定は、この地域の状況をさらに悪化させることになります。」と語った。

オリノコ川は690キロわたってベネズエラ・アマソナス州西部と隣国コロンビアを分かつ国境の役割も果たしている。アマソナス州側の国境地帯では、基本的な生活物資(食料、移動に不可欠なボート用の燃料、様々な器具、機材等)が不足しているため、住民は、両国間の物価の違いを利用して、様々な物資を密輸している。

ベネズエラでは、1リットルのガソリン価格が1.5セントに過ぎないが、越境してコロンビアに入るとその価格は100倍に跳ね上がる。

また、アマソナス州の先住民族らは、「コロンビア革命軍」(FARCが隣国コロンビアから越境侵入してきて、野営地を設置して物資を備蓄したり、果ては自前の法律を先住民居住地に施行したりすることに不満を持っている。

アマソナス州のリボリオ・グアルージャ知事(マドゥーロ政権に反対の立場をとる)は、「金とゲリラは、先住民らにとって極めて深刻な頭痛の種です。ゲリラは違法な採掘ビジネスの用心棒のように振る舞い、先住民族の居住区を侵し環境を破壊しているのです。」とティエラメリカの取材に対して語った。

ピアロア族の人びとは5月にFARCと会談し、地域からの撤退を求めた。

「カニョデウーニャ長老評議会」の指導者ホセ・カルモナ氏は、「この地に来たゲリラ達は、『自分たちは帝国主義と闘う革命家だ』と主張していました。しかし、私たちは平和に暮らす人々であり、武器など必要ないのです。私たちはただ、自分たちの土地で平和に暮らしていきたいだけなのです。」と語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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