【ニューヨークIDN=ジョアン・エラキット】
政策形成を通じて将来世代の利益増進に取り組んでいる「世界未来評議会(The World Future Council)」は、列国議会同盟(IPU)および国連軍縮部(UNODA)と協力して、4年前から世界の平和と安定に貢献した優れた政策に「未来政策賞」を授与している。
この国際社会にプラスの変化をもたらす使命を帯びた三者連合による顕彰プロセスは、次の質問から始まる。「今日もっとも重要な問題は何であり、いったいどの国が、他者の注意を引くような熱意をもってそれに取り組んでいるのか?」そして今年のテーマは優れた「軍縮政策」に焦点を当てることとなった。
10月23日、国連関係者、市民社会、各国の代表がニューヨークの国連本部に集い、「2013年未来政策賞」授賞式が開催された。
国連オーケストラの演奏と、自動小銃「AK-47」を改造したギターを携えたコロンビアの歌手セサル・ロペス氏の歌で始まった授賞式は、平和と安全保障をもたらす手段としての政策形成の重要性を訴えるイベントとなった。
3つの受賞カテゴリー(「金賞」「銀賞」「特別賞」)に沿って、「優れた軍縮政策」、とりわけ、兵器(小火器および核兵器)を廃棄する取り組みが模範的かつ持続可能だと評価された国に賞が授与された。
潘基文国連事務総長は、すべての形態の兵器を解体することの重要性を支持するとしたうえで、軍縮は「もっとも重要な世界の公共財」であり、「国連軍縮部の取り組みを引き続き支援していきます。」と語った。
世界未来協議会によると、2012年の世界の軍事支出は1兆7000億ドルを遥かに上回るという。これは、貧困削減や疾病対策、環境問題に使われている資金の額と対比してみると驚くべき数値である。
兵器の存在そのものが社会に脅威を及ぼすものだと言うこともできる。また、兵器の不法な拡散・売買は、引き続き多くの国にとって深刻な問題であり、武器を用いた暴力を加速し無辜の市民を死に追いやる一方で和平プロセスを妨げている。
従って今や軍縮問題は、持続可能な発展と民衆保護の両立という難題を解決するために不可欠の要素となっており、今年の授賞式ではその重要性が大いに強調された。
そして受賞者は……
多くの候補推薦を募ったのち、8人で構成する受賞者選定委員会が7月に検討を行い、ニューヨークで発表される受賞者を決定した。その際、6大州15ヵ国における25以上の軍縮政策が検討された。
ノミネートされた国の多様性は言うに及ばず、提示された政策の多様性は、このテーマが今日の国際社会においていかに緊急の課題であるかを物語っている。検討された軍縮政策には、特定の兵器の廃棄に焦点を当てたものもあれば、核兵器の完全廃棄と軍縮に着目したものもあった。
授賞式をホストした「世界未来評議会」のアレクサンドラ・ワンデル理事長は、IDNの取材に対して、今日の世界情勢に照らしてこの賞が持つ重要性について次のように説明した。
「今日、ニュースを見れば、毎日のように武力紛争や銃の拡散を伝える暗い報道に接する状況であり、世界の多くの人々が絶望感に打ちひしがれています。だからこそ、『未来政策賞』は、前向きな(今年の場合、軍縮政策の)実例が世界に存在し、軍縮を行い現在および将来世代の生活環境を向上させることは可能だということを、世界の人々と各国政府に知らしめる責務を負っていると考えています。」
「未来政策賞」特別賞は、ベルギーをはじめとする5ヵ国に授与された。ベルギーは、対人地雷を禁止した、「1995年武器弾薬法」改正、さらに、クラスター弾を禁止した「兵器に関する経済的・個人的活動を規制する2006年の法律」が評価された。
コスタリカは、1948年の5週間にわたる内戦の後、1949年に制定した憲法の12条で常備軍を廃止したことが評価された。
モザンビークと南アフリカ共和国は、犯罪撲滅の領域で相互協力・支援した1995年の取り組みが評価された。そして5ヵ国目の「特別賞」受賞国モンゴルは、2000年に国内法である非核法「モンゴルの非核兵器地位に関する法律」を成立させ「一国非核兵器地帯」を確立したことが評価された。
「未来政策賞」銀賞は、アルゼンチンとニュージーランドに授与された。アルゼンチンは、2006年に施行した「銃火器自発供出」政策が評価された。この政策は、不必要な銃火器による暴力を防止する記念碑的な第一歩であった。
ニュージーランドは、1987年に施行した「ニュージーランド非核地域、軍縮、軍備管理法」(これによりニュージーランドの国土と領海は、非核兵器および非原子力推進艦艇地帯となった:IPSJ)が評価された。このニュージーランドの政策は、南太平洋において核実験が行われていた時代に、健康と環境を守るうえで重要な役割を果たした。
そして「未来政策賞」の最高賞である「金賞」は、既に半世紀以上に亘って多くの国に影響を及ぼしてきた「トラテロルコ条約」としても知られる「ラテンアメリカ・カリブ海核兵器禁止条約」を実現した、ラテンアメリカとカリブ海諸国に授与された。
1967年に署名されたこの条約は、核軍縮を利用した協力的な地域安全保障を生み出す前例を作った。キューバ危機に刺激されて、(条約署名から)2年後の1969年、ラテンアメリカ・カリブ海地域核兵器禁止機構(OPANAL)が設置された。トラテロルコ条約の基本原則を守り、地域の平和と安全を継続的に作り出す活動をしている。
トラテロルコ条約は、あらゆる核兵器の製造、使用、実験、設置、貯蔵、取得、保有を禁止するという顕著な特徴を有し、地域外からの核兵器の脅威に対処するという公約を果たしてきた。一方、当時多くのラテンアメリカ諸国が将来的に核兵器開発能力を取得しかねない原子力産業の育成に乗出し始めていたことを踏まえて、同条約は将来を見据えてもいた。2013年の現在、この非核兵器地帯条約は、1960年代当時と同様に重要な意義を持ち続けている。
「ラテンアメリカ・カリブ海核兵器禁止条約の特異な点は、これらの国々が人類初の非核兵器地帯の創設に成功したのみならず、他者にも影響を与えたということにあります。今日、南半球は非核兵器地帯であり、それが他の地域や他の核兵器国に対する刺激となっているに違いありません。なぜなら、依然として核兵器を保持しているということは平和への脅威だからです。」とワンデル会長は語った。
軍縮の将来
それぞれの受賞者は賞を母国に持ち帰り、地球社会を守るための取り組みを続けることになるが、ここで問わねばならないのは、軍縮の未来が次の世代にとって何を意味するのかということだ。
「核廃絶フォーラム」第2号に寄稿した、示唆に満ちた論文の中で、ロブ・ファン・リエット氏は、まもなく核兵器が日常の一部となっている世界で生きる可能性と対峙しなくてはならなくなる、概して核問題に無知な人々について言及している。米国のバラク・オバマ大統領が2009年4月にプラハで行った演説を回想しながら、ファン・リエット氏は、核抑止をどう捉えるのかはっきりしない状況がもたらす致命的な側面について再考している。
「(オバマ大統領による)この発言は同時に我々の目を覚まさせるものであった。核兵器が及ぼす危険性について概して認識が浅い若い世代に対して、ベルリンの壁の崩壊は核兵器の壁の崩壊につながらず、今すぐにも世界を完全に破壊しかねないものであるということを気づかせたのだった。」
この悲しい真実は、大半の若者―間違いなく核世界の影響を維持しつづけなければならないであろう世代Y(1970年代末から90年代中盤に生まれた世代)―が、軍縮をめぐる政治動向についてほとんど理解していないという事実によって、より現実的なものとなっている。
過去の行動は将来の条件を形作るが、未来政策賞によって光を当てられた政策は、この現象をきわめて明瞭な形で明らかにしている。
これらの政策の多くは30年前のものであり、40年も前のものすらある。内戦や世界的な不安、権力の濫用が、現在においてもそうであるように、これらの時代にきわめて重い意味を持っていた。これに対抗して、ともに手を携えて、歴史を繰り返させないように政府が実行することのできる政策を創り出すべく刺激を受けた人々の姿があった。
世界の指導者らが集って核兵器の将来について議論する際、これらの計画に来る世代も関与させるよう願うばかりだ。あるいは、少なくとも、平和と軍縮の関係について熟考するよう世代Yに対して呼びかけよう。こうした世代によって、兵器に対する考え方が再評価され、社会を守る政策に関する教育が行われ、彼らが地方政治や国政への関与を実現していけば、将来の世代を支えていく思慮に富んだ措置が可能になるだろう。
軍縮は、国際の平和と安全を強化し、「未来政策賞」を通じて我々が垣間見たように、変化のドミノ効果を生み出すことができるのだ。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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