【国連IPS=タリフ・ディーン】
「『核兵器のない世界』に向けて具体的な措置をとる‐」と誓った米国のバラク・オバマ大統領による発言は、世界中の平和活動家たちから圧倒的な支持を獲得した。
しかし同時に、オバマ大統領は、通常兵器の販売については(核兵器に対するような)削減の意向について全く触れていない。少なくとも増加し続ける米国製兵器輸出の今年の動向を見る限り、このことは明らかである。
「今までのところ、オバマ政権は従来の武器輸出政策に関して、殆どメスを入れていない。」と、ジョージタウン大学エドモンド・A・ウォルシュ外交学部平和・安全保障センターシニアフェローのナタリー・J・ゴールドリング女史は語った。
ゴールドリング氏は、「戦闘機、ミサイル、軍艦、戦車を含む主だった米軍の武器体系の輸出実績は伸び続けている」と言う。
「2009年の米国の武器輸出高が空前の規模となることが予想されていることからも明らかなように、要するに、通常兵器の輸出に関しては『平常通り』ということです。」とゴールドリング氏はIPSの取材に対して答えた。
米国防総省によると、今年末までの米国の対政府武器輸出総額は、2008年の実績が364億ドルであったのに対して、想定された400億ドルを突破すると予想されている。
2000年代初期の通常兵器の年間平均輸出額は、約80億ドルから130億ドルの間であったが、2009年の前半期の輸出実績だけでも270億ドルに達しており、さらに記録を伸ばす勢いである。
これら通常兵器の主な輸出先は、エジプト、イスラエル、パキスタン、アフガニスタン、トルコ、ギリシャ、韓国、バーレーン、ヨルダン、タイ、アラブ首長国連邦等の米国と同盟関係にある国々である。
「この傾向は、歴史的に国防予算の削減圧力に対抗して武器の売却を試みてきた請負業者にとっては朗報と言えるでしょう。」とゴールドリング氏は語った。
「しかし、このことは同時に、オバマ政権が米国の武器輸出政策の見直しを行うと期待していた人々にとっては悪い知らせと言わざるを得ない。」と同氏は付け加えた。
一方、世界有数のシンクタンクであるストックホルム国際平和研究所(SIPRI)兵器輸出プログラムのシモン・ベイズマン主任研究員は、「米国防総省提供のデータはやや不明確」と言う。
ベイズマン氏は、「想定された400億ドルという数字は、はたして2009年度の武器輸出実績額を指すのか、それとも単なる目標額を示したものなのか定かでない。しかしながら、そうは言っても米国の通常兵器輸出額が右肩上がりで伸び続けているのは事実で、それにはいくつかの理由が考えられます。」と語った。
そしてその理由として、「おそらく最も重要な点は、今日では10年から20年前に比べて先端兵器を大規模に製造できる業者が少なくなっていることだと思います。つまり武器を購入する側の選択肢がより限られているのです。」と語った。
「米国は、世界で最も進んだ軍事技術と幅広い品揃えを誇る兵器製造国であり、とりわけ人気の新鋭戦闘機や各種航空機、ミサイル、軍事用電子部品といった分野で、基本的に顧客のあらゆる要望に応えることができるのです。」とベイズマン氏は指摘した。
またベイズマン氏は、「大手競合相手がかなり限られてきている中で、世界の兵器市場に占める米国の割合は大きくなってきており、今後もその傾向は続くと思われます。」と語った。
この点に関して良い例が、2009年に諸外国との関連諸契約が結ばれた、統合打撃戦闘機(JSF:米国のロッキード・マーティン社が中心となって開発中の単発単座のステルス性を備えたマルチロール機で、F-35ライトニングII戦闘機のことを指す:IPSJ)開発計画である。前述の米国防総省による400億ドルにのぼる武器輸出想定額には、2009年におけるJSF追加発注額が含まれている可能性がある。
JSF計画は既に取引額で史上最大の兵器輸出契約となっている。そして、世界市場で他の追従を許さない商品競争力を有していることから、今後さらに大幅な発注増加が見込まれている。
「JSF計画だけでも、向こう20年以上の期間に亘って米国の武器輸出総額を高いレベルに維持し続けることができるだろう。」とベイズマン氏は付け加えた。
また、米国製の兵器を伝統的に購入してきたアジア・オセアニア(日本、台湾、韓国、パキスタン、オーストラリア)、中東(サウジアラビア、アラブ首長国連邦)、欧州・近東(英国、トルコ)の国々が、いずれも最近大規模な発注を行った、或いは近く行う予定である点も重要である。
「金融危機にも関わらずこれらの国々の多くは、軍備費を大幅に増強し、最新の軍装備の発注を計画している。」とベイズマン氏は語った。
ベイズマン氏は、その理由の一部として、「これらの国々が各々感じている脅威 – 例えば、「テロ」に対する戦争、台頭する中国の近代化、北朝鮮及びイランの核開発計画、長引くアフガニスタン紛争 – に対応しているものです。」と語った。
例えば、台湾の場合、昨年まで米国からの武器輸入額は低いレベルに留まっていたが、米国との約8年に及ぶ交渉が妥結し、今年には台湾一国で数十億ドル規模の発注を行う予定である。
一方、サウジアラビアは100億ドル規模を超える米国製武器を発注する計画を発表した。そしてその一部については、既に契約が行われたか或いは2009年-2010年中に行われる予定である。
それに加えて、米国は、20億から30億ドル規模の「前菜(=米国製兵器)」を手始めに、巨大なインド市場への参入を果たした。関連契約が最近結ばれており、今年中に更なる発注がなされるものと期待されている。
また、米国は現在イラクに対する主要武器供給国である。(発注計画規模は100億ドル近くに及び、その大半は2009年-2010年に最終決定する予定である。)
ジョージタウン大学のゴールドリング氏は、「米国防安全保障協力局(DSCA)の記録によると、オバマ政権は、ゆっくりではあるが、新たな武器輸出案件を許可し始めている。」と語った。
オバマ政権発足から最初の5カ月間に、DSCAは議会に対して合計最大8件の大規模な兵器輸出案件がある旨を通知している。
しかしその後ペースは加速化し、DSCAは7月だけで、それまでの5カ月分に匹敵する最大8件の更なる大規模兵器輸出案件を報告している。そして8月に入ると同月の最初の1週間だけで、DSCAは更に10件の案件を議会に報告している。
「オバマ政権関係者の発言内容から、彼らも既に、『米国による親善の象徴』及び『2国間及び多国間関係重視の約束』として、米国製武器の売却を活用する誘惑にかき立てられていることが窺えます。」とゴールドリング氏は語った。
米政府関係者は、過去においても米国製武器の売却が輸入国の国防力増強に貢献すると度々主張してきた。
「しかし米国の武器供与は、(米政府関係者の主張に反して)軍拡競争や地域における対立国との関係悪化、紛争が勃発した際の人的被害の増大といった、武器輸入の目的である輸入国が直面している脅威そのものを、しばしば増大させてきたように思われます。」とゴールドリング氏は付け加えた。
政策責任者たちは、過去の行き過ぎを繰り返すのではなく、こうした武器輸出が長期間にもたらしうるマイナス面の影響について計算に入れておかなければならない。
ゴールドリング氏は、「この因果関係についての立証責任は、こうした武器取引を止めようとする側にではなく、武器を売却する側にあるのです。」と語った。
オバマ大統領は、小型武器・小火器が引き起こしている被害について従来雄弁に言及してきていることから、無秩序に行われている小型武器・小火器輸出が及ぼす不安定作用については、理解しているようである。
オバマ大統領は既に、小型武器・小火器輸出の分野におけるブッシュ前政権の政策の一部を見直す作業に着手している。
「米国の安全保障も、この見直し作業を全ての通常兵器を対象に広げていくことによって十分確保できると思います。」とゴールドリング氏は語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan