地域アジア・太平洋禁止には触れないでくれ:核兵器禁止条約を回避しようとするオーストラリア

禁止には触れないでくれ:核兵器禁止条約を回避しようとするオーストラリア

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=ジェム・ロムルド】

核兵器禁止条約(TPNW)は、ひとつのゲームチェンジャーである。この条約はすべての核兵器保有国を国際法違反の状態に置いた。安全保障ドクトリンに核兵器を組み込んでいる国も同様である。この条約は、各地域の非核兵器地帯を連合させ、他の核兵器管理条約の上に立脚し、10ページの簡素な文言で核兵器を許すいかなる活動も断罪する。(原文へ 

この条約は、展望を述べる声明でも野心的なマニフェストでもなく、中身の薄い会議成果文書でもない。包括的な、国連で交渉された条約であり、2021年1月22日に恒久的な国際法となることが決まっている。

核兵器の禁止だけでなく、この条約は締約国が遂行しなければならない積極的義務のほか、核兵器保有国との備蓄量削減交渉の枠組みも定めている。条約が発効すれば締約国は条約義務に拘束される。締約国は第12条に基づき、非締約国に条約批准を奨励することによって普遍性を追求する義務を負う。これは国際的な会議や2国間会議の場で行われてもよい。国際原子力機関と包括的保障措置協定をまだ締結していない国は、締結が義務付けられる。また追加議定書を締結済みの国は、それを維持することが義務付けられる。

また、第6条および第7条に基づき、締約国は核兵器の使用や実験によって身体や環境が被った長期的被害に対して協力して取り組むことが初めて義務付けられる。このような協力や支援は能力に応じて提供されるが、核実験プログラムを実施してきた国はそうした支援を提供する義務を負う。

オーストラリアはTPNWの交渉に参加せず、連邦議会でこの問題を論じる努力を避け続けている。たとえば2020年11月、緑の党および労働党の連邦議会議員提出の動議を否決した。オーストラリア外務省が運営するウェブサイトには、TPNWに対するオーストラリア政府の見解を示す一段落の文章が掲載されている。このパラグラフは、簡潔でありながらも虚偽にまみれており、そのすべてがICANの新たな刊行物『For the record…』において反論されている。

オーストラリアは、自国を核軍縮に熱心な国としてアピールしているが、その一方で米国の核兵器はオーストラリアの安全保障に不可欠であると主張している。これは矛盾した立場であり、わが国のリーダーたちもそれを知っている。TPNWは核兵器のいかなる合理的な役割または目的を否定するために、そのような偽善を露呈させる。オーストラリアの消極的な姿勢も、つまるところはそれである。自国の名で核兵器が使用される可能性があることを黙認する国家は、軍縮の進捗を遅らせている。既存の条約の枠内で核兵器保有国に軍縮を強いる努力は、明らかに失敗している。

米国が実際にその核兵器でオーストラリアを守るという明確な約束はないにもかかわらず、オーストラリアの安全保障は米国の核兵器に根差すと本気で信じている人々もいる。そのような人々にとって、“核の傘”を閉じてもよいとすることは、耐えがたい盲信である。しかし、世界の大多数の人にとって、核兵器によって極限まで武装した世界で日々を過ごすことは受け入れがたいほどリスクに満ちており、防止こそが唯一の選択肢であり、廃絶こそが唯一の保証なのである。

2017年7月、122カ国がTPNWの採択に賛成票を投じ、核兵器保有9カ国による少数派支配を拒絶した。以来、業界の資金提供を受けた防衛シンクタンクの人々による全力の努力にもかかわらず、核なき外交政策を求めるオーストラリア人の声は高まり続けている。2020年7月、イプソス社の世論調査でオーストラリア人の71%がTPNW参加に賛成しており、反対はわずか9%であることがわかった。地方自治体から連邦議員まで、行政のあらゆるレベルの人々がこの問題に取り組み、そのうち88人がオーストラリアの禁止条約参加を目指して尽力することを誓った。オーストラリア労働党は、政権を取った場合にはTPNWに署名し批准することを公約として掲げている。オーストラリア医学会、オーストラリア赤十字社、オーストラリア労働組合評議会など、多くの労働組合、宗教団体、医療団体、人道団体、環境団体がこの動きに加わっている。

TPNWが発効の基準である50カ国目の批准を獲得する目前、米国の政権はすべての締約国に書簡を送り、彼らが「戦略的誤り」を犯していると示唆するとともに、批准を取り下げるよう要求した。このような死に物狂いの行動は意外であるが、その意図は意外ではない。核兵器保有国は、あの手この手を使って禁止条約に反対し続けるだろう。

オーストラリアは、核兵器以外の容認しがたい兵器の禁止については、主要な軍事同盟国に異議を唱えてきた。核兵器についても、そうしなければいけない。同盟のために大量破壊兵器への忠誠が必要なのだとしたら、それは一体誰のための同盟なのだろうか? この禁止条約に関しては、同盟国間で核兵器によらない継続的な軍事協力を可能にすることを目的とした交渉が行われている。オーストラリアは、太平洋安全保障条約(ANZUS条約)の下でもそれ以外でも、核“抑止”政策を維持する法的義務は一切負っていない。核抑止政策は、われわれを守るどころではなく、サイバー戦争、技術的失敗、現在および将来における核保有国リーダーの気まぐれといった複合的なリスクをわれわれに負わせる。

TPNWには、人々の支持、明確な目的、そして首尾一貫した前進の道筋がある。断じてこれは、新たに設立された委員会でも、懇談会でも、あるいは曖昧な“イニシアチブ”でもない。禁止条約は、核軍縮に向けた数十年来最も強力な貢献を行うメカニズムをオーストラリアにもたらす。オーストラリアが核兵器保有国への圧力を発揮するための最適の立ち位置は、禁止条約という天幕の下である。

TPNWの第1回締約国会議は、条約発効日の2021年1月22日から1年以内に開催されなければならない。第1回会議はオーストリアで開催され、すべての締約国が招待されるほか、非締約国もオブザーバーとして出席する選択肢が与えられる。オーストラリアは禁止に加わらなければならず、その第一歩はオーストリアの参加招待を受け入れることだろう。流れは核兵器禁止へと変わりつつある。われわれは、その流れに沿って進んでいくほうが賢明である。

ジェム・ロムルドは、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)オーストラリアの事務局長。Australians for War Powers Reformおよび3CR Radioで働いた経験を持つ。コミュニケーション学および法学で学位を取得しており、シドニー/ウォロンゴングを拠点としている。

INPS Japan

関連記事:

オーストラリアに核兵器禁止条約署名・批准の圧力

|オーストラリア|核禁止条約決議への反対が論争を引き起こす

TPNWはNPTと矛盾するか、あるいは弱体化させるのか?

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken