【バンコクIDN=カリンガ・セネビラトネ】
ラオスの首都ビエンチャンで開かれた「東アジアサミット」で採択された不拡散に関する特別声明のインクも乾かぬうちに、北朝鮮が核実験の成功を発表した。こうして北朝鮮の核問題は、軍事化が一層強まっている域内の現実に対して関係諸国の関心を引き寄せる結果となった。
今回の核実験は、東アジアサミットに出席した首脳らが北朝鮮に対して核・ミサイルの放棄を求める声明を採択してから1日も経たないうちに行われた。米国、中国、ロシア、日本を構成国に含むこの地域機関(加盟18カ国)が、議長声明以外で特定の問題に焦点を絞った声明を出したのは初めてのことであった。
声明は、「(北朝鮮による)1月の核実験と2月の長距離ミサイル発射を明確に非難した」今年3月2日の国連安保理決議第2270号を東アジアサミットは「完全に支持」し、「安保理の関連決議に違反し完全に無視する形で朝鮮民主主義人民共和国(DPRK)がその後も繰り返し弾道ミサイルを発射していることへの深い憂慮を表明」する、と述べていた。
北朝鮮は今年1月6日に3年ぶり4回目の核実験を行い、2月7日には、同国が人工衛星を軌道に乗せたと主張する長距離ロケット発射を行った。
8月24日には潜水艦からの弾道ミサイル発射に成功し、9月5日には約1000キロ飛翔した弾道ミサイル3発を発射し、いずれも日本の排他的経済水域内に到達した。
9月9日に北朝鮮の核実験場近くで探知された震度の浅いマグニチュード5.3の地震は5回目の核実験を示しており、北朝鮮もそのことを認めている。
韓国の朴槿恵大統領は、「東アジアサミットの声明を拒絶して北朝鮮が核実験を行ったことは、金正恩体制の無謀な狂気を証明するものだ」と、ソウルで政府高官と緊急の安全保障会議を開催するためにビエンチャンから急遽帰国後、メディアに対して語った。
「金正恩政権が核実験を通じて得るものは、国際社会によるさらに強い制裁と孤立だけであり、自滅の道を招くだろう。」と朴大統領は警告した。
朴大統領は、韓国政府は国連安保理や関係諸国と協力して強力な追加制裁を追求する一方、核の野望を北朝鮮に放棄させるためにあらゆる手段を採っていく、と語った。
報道によれば、韓国紙の多くが北朝鮮の指導者金正恩を「核のマニア」と呼び、韓国から1990年代に撤去された米国の戦術核を再配備するよう同国を説得すべきだと論じているという。ある新聞は、北朝鮮への石油供給を断つよう中国に求めるべきだとまで示唆しているという。これは、北朝鮮に経済的混乱と飢餓をもたらしかねない。
しかし、そうした極端な措置に対して警告を発し、地域を軍事化することで北朝鮮の「軍事的脅威」とされるものに対抗しようとする米韓両政府の対応に疑問を呈する向きもある。
韓国の左派日刊紙『ハンギョレ』は、北朝鮮の核の脅威に対する韓国政府の対応は、「冷戦思考」に支配されていると論じた。同紙は、悪化する危機への従来型アプローチの失敗を、繰り返される実験は示していると指摘した。
『ハンギョレ』は「北朝鮮に対する怒りを表明し、圧力をかけ続けることでは、解決にならない。冷戦型の対立を超えなければならない。」と指導者らに警告している。「北朝鮮の自滅が近いという非現実的な理論に希望を託すのをやめるべきだ。かわりに、新しい、包括的な戦略が求められる。」と論じている。
今回の実験は、弾頭を小型化したミサイルへの搭載を可能にすることによって核戦争を開始する能力を強化させたと評価されるものの、アジア諸国の多くが、核によって注目を集めようとの北朝鮮のやり方にあまり関心を示していない。他方で、こうした実験に通常は反応を見せる4大国は、よく準備された同調的な反応を見せた。韓国は北の指導者を「マニア的な無謀」だと非難し、中国は実験に「断固として反対」し、日本は「強い抗議」を表明し、米国は「重大な帰結」を招くと警告した。
核大国への道を歩んでいるかもしれない北朝鮮の最高指導者金正恩は、韓国と米国に対して「朝鮮民主主義人民共和国の尊厳と安全を棄損するようなことは慎むべきだ」と警告した。
ミサイル・核実験のタイミングはつねに、この4大国の指導者からの反応が確実であり北朝鮮の体制に注目を集められるように、大きな国際イベントに合わせたものとなっている。これは、北朝鮮が韓国や米国の挑発を理由として挙げられるような余地を国際的なメディアに与えている。
8月22日から9月2日にかけて、毎年開催されている軍事演習「ウルチ・フリーダム・ガーディアン」が北朝鮮沖で開かれた。2万5000人の米兵が、韓国軍、豪州や日本といった他の同盟国の軍隊に加わった。
この演習では、北朝鮮の核の脅威を想定して、先制攻撃を行う内容も含まれていた。北朝鮮政府は国連事務総長への書簡で、こうした演習は北に対する「先制的核戦争」のリハーサルだとして非難した。
北朝鮮は、高高度で固形燃料を使用した潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の発射でこれに応えた。500キロメートル以上を飛翔し、日本の防空識別圏内に落下した。通常の角度で発射されたならば、1000キロ以上飛ぶ可能性もあった。
「韓米研究所」のトン・キム研究員は『コリア・タイムズ』紙で、「軍事演習は、和平プロセスを通じた脅威の削減が行われない中では、抑止力を向上させるものとして必要なものだ。しかし、抑止力は、朝鮮問題の平和的解決をもたらすためには十分ではない。毎年春と夏の年次演習は、緊張の激化をもたらしている」と指摘している。
北朝鮮のSLBM発射は、米国が2017年末までに予定している韓国への「終末高高度防衛」(THAAD)システムの配備に関して懸念を強める結果となった。中ロ両国は配備に反対し、韓国内にも批判的な勢力がある。
キム氏は、「中国は、韓国政府の決定に対応して韓国の利益を抑制する具体的な措置を採り始めている。韓国の地域住民は、自らの居住地域にミサイル部隊が配備されることに強く反対している。多くの野党政治家が、配備に関して国会で見直し論議を行うことを要求している」と、「あらたなゲームを引っ張る北朝鮮」と題した記事で指摘している。
『コリア・タイムズ』はその論説で、もし中国が韓国へのTHAAD配備を望まないのならば、「北朝鮮の核の野望を抑えるために積極的に動くべきだ」と論じた。この韓国の英字紙はまた、オバマ政権に対して、「北朝鮮対応に関して腰が重く、北朝鮮政府の行動を変えることができなかった。」として非難した。
「北朝鮮が9月9日に行った核実験は、米国が韓国にTHAADの配備を計画していることを考えれば、それほど驚くべきことではない。」
「言い換えれば、対ミサイル防衛システムであるTHAADの配備がほぼ確定している中で、北朝鮮が好ましくない外交政策の継続を決めたということになる。」と『チャイナ・デイリー』で論じたのは、ワン・ジャンシェン氏である。中国社会科学院でアジア太平洋戦略の研究を進めている同氏は、北朝鮮の核実験は通常、米韓の軍事的な動きに続いて行われていると指摘した。
「隣国における核の脅威の高まりに直面して中国が取れる戦略的選択の幅は、地政学的な複雑さゆえに限られたものになる。また非核化プロセスは、完成までに5年から10年の月日を要するかもしれない。」とワン氏は語った。
「とりわけ、米韓両政府は、朝鮮半島へのTHAAD配備の決定を真剣に再考し、北朝鮮に誤った道を取らせたその他の戦略的な過ちを見直してみるべきだ」とワン氏は論じた。
ワン氏はまた、「今日、悪循環に陥っており、1953年の休戦協定を和平条約に作り直す貴重な機会も潰えたことから、米韓両国が採用してきた朝鮮半島政策は、平和の永続にとって有益であったとは言えません。」と警告した。(原文へ)
翻訳=INPS Japan
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