地域アジア・太平洋非核世界への道をリードするカザフスタン

非核世界への道をリードするカザフスタン

【アスタナIDN=ラメシュ・ジャウラ、浅霧勝浩】

核軍縮の達成方法に関する国家間の見解の相違が大きくなる中、カザフスタンのような国が、共通の基盤と包摂的な対話に向けた道をリードしなくてはならない。そうしたリーダーシップこそが、私たちの世界を真に安全なものにしていくために緊急に求められている、と国連の潘基文事務総長が、「核兵器のない世界の構築」を目指す核軍縮国際会議に寄せた声明の中で各国に訴えた。

ヌルスルタン・ナザルバエフ大統領は、参加者を歓迎して、なぜ同国が核軍縮についてリーダーシップを取っているのかについて説明した。「1991年8月29日は、わが国にとっても世界全体にとっても歴史的に重要な意義を持つ日です。私たちは25年前、それまでほぼ40年にわたってこの大地と国民を常に苦しめてきた軍事主義がもたらした最も邪悪な実験(=核実験)に、法的な終止符を打ちました。また国際社会は、それ以前の数十年間にわたって、核兵器削減プロセスや核実験モラトリアムを通じて、核の脅威を引き下げる努力を続けてきました。」

ナザルバエフ大統領はさらに、「カザフスタンは、当時世界最大のセミパラチンスク核実験場を閉鎖する法令を採択することで『ゴルディアスの結び目』(核兵器依存という難題)を断ち切る最初の国になりました。この決定の後、すべての主要な核保有国の実験場は利用されなくなりましたが、未だに閉鎖はされていません。カザフスタンは核実験場の閉鎖に踏み切った初めての国になりました。これは我が国の国民の意志の力で実現したものです。従ってこの出来事は、地球全体にとっても重要な先例となっています。」と語った。

Semipalatinsk former nuclear weapon test site/ photo by Katsuhiro Asagiri
Semipalatinsk former nuclear weapon test site/ photo by Katsuhiro Asagiri

8月29日の国際会議は、カザフスタン共和国上院議会、同国外務省、核軍縮・不拡散議員連盟(PNND)の共催で首都アスタナの「独立宮殿」で開催された。

世界50カ国から、議員、宗教指導者、学者、科学者、医学関係者、法律家、青年、その他市民社会の代表らが会議に集った。国際機関の代表には、マイケル・モラー国連ジュネーブ軍縮会議事務局長、ラッシーナ・ゼルボ包括的核実験禁止条約機構準備委員会(CTBTO)事務局長、ジャヤンタ・ダナパラパグウォッシュ会議議長が含まれる。

他にも、PNND共同議長で列国議会同盟のセイバー・ホサイン・チョウドリー議長、汎アフリカ議会連合のロジャー・ヌコド・ダン会長、世界宗教会議のアブドゥル・マリク・ムジャヒド議長、創価学会インタナショナル(SGI)の石渡一夫平和運動局長も参加した。

潘事務総長は、「カザフスタンは、この会議を主催することで、『今一度』核兵器なき世界の実現を追及する同国のコミットメントを示しました。」と語った。

潘事務総長はまた、「カザフスタンは中央アジア非核兵器地帯の創設に主導的な枠割を果たしました。また、国連総会における「核兵器なき世界の達成に関する普遍的宣言」に関する決議案(70/57号)採択の原動力となりました。ナザルバエフ大統領は、核軍縮を世界の最重要課題とするよう呼びかけてきました。」と語った。

間もなく任期を終える潘事務総長の発言は的を射たものだった。この会議で採択された「アスタナ・ビジョン:放射線に汚染された霞から非核兵器世界へ」と題された宣言は、潘事務総長が熱心に掲げてきた国連の未完の課題を追求するうえでのカザフスタンとナザルバエフ大統領の歴史的役割を認めている。

宣言は、セミパラチンスク核実験場の閉鎖は「世界の軍縮の歴史の中で初めてのこと」だと述べた。

カザフスタン東部にあるこの実験場でソ連が行った456回の核爆発実験は、現在および将来の世代に対して、人間の健康や自然環境に壊滅的な悪影響を及ぼした。

太平洋、アジア、北アフリカ、北米を含めた世界各地の核実験の遺産や、広島・長崎への原爆投下の経験、事故・誤算・故意による核兵器使用のリスクは、核兵器廃絶をグローバルな重要課題に押し上げてきた。

Map of Kazakhstan
Map of Kazakhstan

宣言はまた、「我々は、世界第4位の核戦力を自発的に放棄し、包括的核実験禁止条約(CTBT)に加わり、中央アジア非核兵器地帯を創設し、核実験の危険と長期的な帰結に関して世界を教育するATOMプロジェクトを立ち上げ、国連を動かして8月29日を『核実験に反対する国際デー』に設定し、2015年に国連によって採択された『核兵器なき世界に向けた普遍的宣言』を主導し、戦争の惨禍を失くすためのマニフェスト『世界:21世紀』を促進したことに関して、ナザルバエフ大統領とカザフスタン国民のリーダーシップを賞賛する。」と述べた。

会議の参加者らは、非核世界の実現は21世紀の人類の主要な目標であるべきであり、この目標は国連創立100周年にあたる2045年までに達成すべきであるという、マニフェストで表明された願望を支持した。

宣言は、世界の指導者らが、核保安サミットやその他一連の国際的行動を通じて核兵器やその構成要素がテロリストの手に落ちることを防ぐ措置を講じたことを称賛した。そして、「核軍縮に対しても同様の高い優先順位を与える点でナザルバエフ大統領に続くよう」世界の指導者らに要請した。

宣言は、カザフスタンが国連安保理非常任理事国(2017~18)に選出されたことを歓迎した。「カザフスタンが他の安保理理事国と緊密に協力して、核拡散を予防し、非核世界の平和と安全を前進させるであろうと信頼している」と宣言は強調した。

宣言は、今会議においてナザルバエフ大統領が行った、核軍縮への顕著な貢献と核なき世界の達成に関する国際的な賞を創設するとの提案と、2016年にアスタナ平和サミットを開催するとの発表を支持した。

宣言は、諸政府に対して、とりわけ次のことを呼びかけた。

Closing Session/ K.Asagiri of INPS Japan
Closing Session/ K.Asagiri of INPS Japan

1.この会議が、セミパラチンスク核実験場閉鎖から25年、CTBT署名開放から20年という象徴的な年に開かれたことに鑑みて、CTBTを署名・批准していない国、とりわけ核保有国は、速やかにCTBTを署名・批准すること。

2.2010年NPT運用検討会議で採択された行動計画と、国際司法裁判所が1996年に確認した完全核軍縮に向けた交渉を行う普遍的義務に従って、交渉と実質的議論を開始すること。

3.1995年のNPT再検討・延長会議で合意されたように、中東非核・非大量破壊兵器地帯を創設すること。国連事務総長はこの任務を前進させること。北東アジアや欧州、北極においてさらに非核兵器地帯を創設すること。

4.すべての核兵器を高度な作戦準備態勢から外し、先制不使用政策を採用し、核兵器を使用するとの威嚇を控えることによって、核兵器使用のリスクを低減すること。

5.核兵器ゼロを達成するために、条約上・慣習法上の義務を完全に履行すること。

6.核兵器を禁止・廃絶するための多国間交渉を2017年に開始すること。

7.核実験や人口稠密地帯への核使用の禁止を含めた、核軍縮に関する中間的措置を国連安保理が支持すべきこと。

8.「核軍縮検証に向けた国際パートナーシップ」への参加を通じたものを含め、グローバルな核軍縮を検証・執行するための方法とメカニズムをさらに発展させること。

9.安全保障ドクトリンにおいて核抑止に依存することをやめ、そのかわりに、外交や法、地域メカニズム、国連、その他の平和的方法を通じた国際紛争の解決を目指すこと。

10.できるだけ早く、しかし確実に国連創設100周年までには核兵器を完全廃絶することを目指して、すべての核兵器国が核兵器備蓄を大幅に削減すること。

国際会議においてさまざまな分野間での協力が行われることは、核軍縮達成に向けたグローバルな運動を構築する基盤を提供する、と宣言は述べる。

Astana Conference: Building a Nuclear Weapon Free World
Astana Conference: Building a Nuclear Weapon Free World

会議の参加者らは、人類の将来を深く憂慮し、核軍縮分野におけるカザフスタンの例に刺激を受けながら、遠い将来のことではなく、「私たちが生きている間に核兵器なき世界の平和と安全を達成する可能性と必要性を確認」した。

しかし、これには政治的な決断が必要だ。潘事務総長がメッセージの中で述べたように、「政治的意志が、私たちの世界を支配している高価かつ分裂的で、危険な敵対関係を打ち消すために不可欠であり、それには私たちの共有された将来に向けたグローバルな連帯の感覚が伴わねばなりません。私は、核兵器なき世界というビジョンの実現に向けて前進するための政治的意志を呼び起こすことを、すべての加盟国に求めます。」(原文へFBポスト

翻訳=INPS Japan

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Filmed by Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan
Filmed by Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan

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