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|エコドライブ|国連の課題の中心に立つ持続可能な解決策

【ニューヨークIDN=バレンティーナ・ガスバッリ、浅霧勝浩】

米国の俳優で国連平和大使のレオナルド・ディカプリオ氏が国連本部で9月23日に開催された気候変動サミットで120カ国あまりの各国首脳に向かって警告したように、気候変動と地球温暖化の影響は、世界中で加速度的に悪化の一途をたどっており、今や「この星で人類が存在するための最大の脅威」となっている。ディカプリオ氏は、この地球規模の課題に世界中の産業界や政府が断固とした行動をとるよう強く訴えるとともに、「地球の未来を守ることは、私たち人類の意識の進化にかかっている。」と指摘した(映像資料はこちらへ)。

THE INTERNATIONAL CONFERENCE ON  GLOBAL ENVIRONMENT, CARBON REDUCTION, AND ECO-DRIVE
THE INTERNATIONAL CONFERENCE ON GLOBAL ENVIRONMENT, CARBON REDUCTION, AND ECO-DRIVE

気候変動は、新しく変革的な解決策を必要とする問題である。持続可能性という目標を達成するためには、公共政策立案者や諸政府、国際機関に加え、民間部門や学者の役割もきわめて重要となる。この点について国連に模範を求めるならば、10月17日に国連本部で開催された、初めての「国連エコドライブカンファレンス」(主催:国連WAFUNIF、株式会社アスア、ルーマニア国連代表部。協力:日本自動車工業会、米国自動車工業会。特別協力:環境省)に注目すべきだろう。

この会議は、地球環境の持続可能性を脅かす諸要因、中でも温室効果ガス、とりわけ二酸化炭素排出が引き起こす問題に焦点を当て、世界各地から参加した様々な背景を持つ専門家が各々の研究成果とベストプラクティス(最優良事例)を共有し、先見性のある解決策を模索するユニークな機会となった。(プログラム内容はこちらを参照)

この会議の最大の特徴は、あらゆるレベルのステークホールダーが一堂に会して、国際社会が直面している気候変動問題を念頭に、①交通機関における地球環境への影響、②交通と環境保護の新しい技術、③燃費向上・交通事故削減などに成果を上げているエコドライブのソリューションの可能性、④世界の交通と環境における方針などについて検討した点である。

株式会社アスアの間地寛社長が20年以上エコドライブの推進に携わってきた自身の経験に基づいて語ったように、先見的なエコドライブの手法が、重要な環境保全上の利点や、燃費の改善、二酸化炭素排出の削減、そして自動車事故件数の削減をもたらす処方箋となりうることが明らかになってきている。とりわけ、エコドライブはドライバーの運転方法を変える「意識変革」をもたらすことを重視している。「モータリゼーションは数多くの利便を私たちにもたらしましたが、環境汚染や交通事故、渋滞といった多くの問題も引き起こしました。」と間地社長は語った。

持続可能な解決策?

省エネと環境負荷の軽減に配慮した運転は、すべてのドライバーにとっての優先事項となってきている。「エコドライブ」とは、エネルギーを効率的に使用しながら車を運転する様子を指す用語である。つまりエコドライブは、陸上輸送における燃料消費を節減することで同じ距離を走行するために必要な燃費を削減する容易な方法である。

エンジン技術と自動車の性能はこの数十年で飛躍的に向上したが、ほとんどのドライバーは運転スタイルを変えていない。エコドライブの処方(形式)は、こうしたドライバーの意識変革を目指している。つまりエコドライブは、すべての国と文化におけるドライバーを再教育して彼らの習性や行動を改善し、運転(ドライビング)経験をより楽しいものに変えてゆくとともに、燃料と経費を節約し、環境負荷を最小限に抑え、交通事故件数を削減するものである。

Eco Driving
Eco Driving


米国自動車工業会
のジュリー・C・ベッカー副会長は、自動車生産者の立場から持続可能性に関する諸要素を分析し、エコの要請に適合した次のようなアプローチを奨励した。「すべての自動車製造業者は大いに燃費改善に努力し、さらなる二酸化炭素排出量の削減にも努めていかなければなりません。その必要性は、今後ガソリン価格が下落したとしても全く変わりません。燃料の効率性と安全技術が飛躍的に進歩している現状を考えれば、保有車両を新車に交換することが環境的に持続可能な交通(EST)を達成するうえで、最も強力なツールのひとつなのです。」

カナダ自動車工業会通信・政府関係部部長のイアン・ジャック委員長は、「エコドライブは、たしかに、燃料消費と維持コストを抑え、路上で危険回避する効果があることから、ドライバーにとってより低コストで安全な運転方法といえます。私たちの調査では、エコドライブの実践により、燃料消費は10~15%削減でき、交通安全は改善され、運転技術は向上し、年間一人当たり300ドルの節約になり、ドライバーがより自覚を持つことで、歩行者の安心感が増した、という結果がでています。」と消費者の観点から発表した。

こうして、エコドライブは21世紀のグローバルな運転文化として注目を集めつつある。それは、近代的なエンジンと両立可能なものであり、車両技術が提供する利益を最大限利用可能にするものである。エコドライブはまた、より低いエンジン速度でエネルギーを効率的に利用しながら運転するスタイルである。

理論から実践へ

Mr. Keiji Endo of TTA/ TTA
Mr. Keiji Endo of TTA/ TTA

今回の会議では、かなりの燃料節約につながるような賢く(スマートで)安全な運転技術を奨励・実践している先進事例が紹介された。2006年、東京都トラック協会は、地球温暖化防止対策の対応を図るため、独自の二酸化炭素等削減対策を盛り込んだ「グリーン・エコプロジェクト」という新たな取組みを開始した。「今日、約700の企業と2万台のトラックがこの環境に優しいプロジェクトに参画しています。」と東京都トラック協会の遠藤啓二環境部長は語った。このプロジェクトの主な特徴は、「一枚の紙と鉛筆」、従業員の訓練・能力開発支援、燃費データベース構築を組み合わせた統合的なアプローチにある。

グリーン・エコプロジェクトでは、「走行管理表」という一枚の紙にドライバーが毎回の給油量と走行距離を手書きで記入してくことから始まる。ドライバーはこれによって、自らの運転行動や燃料消費について認識し、職場環境改善のコミュニケーション・ツールとしても使うことができる。グリーン・エコプロジェクトでは、経営者・管理者・ドライバーの従業員一人一人の環境に対する意識を向上させるとともに、参加運送会社が環境問題へ能動的に取組みながら同時に経営能力を高めていく「環境から進める経営改善=環境CSR」を支援している。

グリーン・エコプロジェクトの主な成果は、燃料向上率が開始以来8年間の平均で15.6%改善し、この省エネで6万3000トンの二酸化炭素排出削減がなされたことである。これは、植樹に換算するとニューヨーク市のマンハッタン地区全体に等しい58.8平方キロ(=東京の山手線の内側にほぼ相当)を森林に変えたことと同じになる。また、節約された燃料を金額に換算すると約3400万ドル(38億1000万円)にのぼる。さらに交通事故も9年間で30%削減し、事業者の保険負担を54%軽減している。

Mr. Hirotsugu Maruyama of JAMA
Mr. Hirotsugu Maruyama of JAMA

日本で試みられているもう一つの戦略的なビジョンを発表したのが、一般社団法人日本自動車工業会環境委員会温暖化対策検討会主査の圓山博嗣氏である。圓山氏は日本自動車工業会が政府や各団体とともにドライバーに呼びかけている『エコドライブ10のすすめ』を提示した。その内訳は①「ふんわりアクセル『eスタート』」、②車間距離にゆとりを持って加速原則の少ない運転、③減速時は早めにアクセルを離そう、④エアコンの使用は適切に、⑤無駄なアイドリングはやめよう、⑥渋滞を避け余裕をもって出発しよう、⑦タイヤの空気圧から始める点検・整備、⑧不要な荷物はおろそう、⑨走行の妨げとなる駐車はやめよう、⑩自分の燃費を把握しよう、である。

気候変動という地球規模の課題に対応していくためには根本的な変化が必要である。低炭素(二酸化炭素排出を削減する)手法への移行が遅れれば、より適切でない代替案にはまり込むこととなり、不必要に大量の二酸化炭素を排出する社会になってしまうだろう。『国連エコドライブカンファレンス』の討論で報告されたように、世界中の自動車業界は、地球環境の持続可能性を確保するためのイノベーションに焦点を当てている。

Glen P. Kedzie, Vice President of ATA/ TTA
Glen P. Kedzie, Vice President of ATA/ TTA

二酸化炭素排出レベルを削減し自動車産業全体における環境意識を高める(グリーン化する)措置は、全米トラック運送協会(ATA)でも採用されている。グレン・ケジーATA副会長は発表の中で、「当協会は、米国政府と環境保護庁からの支援を得て、エコドライブツールの利用を積極的に拡大していくことで、燃料消費と二酸化炭素排出のさらなる削減を目指す米国自動車産業の長期的なコミットメントと結び付けていく努力をしています。」と語った。

会議の参加者は、エコドライブという持続可能な解決策は、気候変動・地球温暖化という国連の課題に直接的に応えるものであり、ドライバーの意識改革次第で、絶大な効果を期待できるという点で一致した。従って、今後のエコドライブの普及は、ディカプリオ氏が国連気候変動サミットで「地球の未来を守るカギ」として指摘した「人類の意識の進化」を図るバロメーターとなっていくだろう。(原文へ

翻訳/編集=INPS Japan

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