【カラチINPS Japan/London Post=ナビル・タヒル】
国連持続可能な開発目標(SDGs)のうち、目標5「ジェンダー平等の達成とすべての女性・少女のエンパワメント」は、最も変革的である一方で、最も実現が難しい目標として広く認識されている。なかでもMENA(中東・北アフリカ)地域ほど、そのパラドックスが鮮明な場所はない。世界経済フォーラム「ジェンダー・ギャップ報告書2024」、UNDP「ジェンダー不平等指数2025」、世界銀行「Women, Business and the Law」指標によれば、同地域は依然として経済参加、政治的エンパワメント、法的権利の面で世界最大のジェンダー格差を抱える。だが同時に、過去10年で最も急速な女子教育の進展、大胆な法改正、そして公共圏の言説を刷新するデジタル世代のフェミニスト運動が台頭している地域でもある。|ヒンドゥー語|
2015年のSDGs採択以降、MENA地域の女性就業率は世界最低の19%から約24%(2025年、ILO)へ上昇し、とくに湾岸諸国の伸びが著しい。サウジアラビアの「ビジョン2030」は女性就業率を2016年の18%から現在ほぼ36%へと押し上げ、カタールとUAEでは女性が公務員の40%超を占める。法改正も画期的で、サウジアラビアでは2018年の女性運転解禁と2019〜23年の後見制度の段階的撤廃、UAEとバーレーンでの育児・介護法整備とセクハラ防止法、チュニジアの2017年女性暴力防止法、レバノンの2024年国籍継承権改革など、女性の自律を縛っていた可視的障壁が除去されつつある。
教育は最も顕著な成功領域である。初等・中等教育の男女就学率は0.97を超え、高等教育ではバーレーン、クウェート、カタール、チュニジア、アルジェリア、ヨルダン、レバノン、UAEで女子が男子を上回る。多くの国で30歳未満女性の識字率は事実上「普遍的」である。これらはSDGs目標5.4(無償ケア労働の承認)・5.5(意思決定参画)達成を直接支えるものだが、経済・政治権力への反映は依然として比例しない。
一方で、重要な法的欠陥はなお残る。10カ国が依然として結婚に後見人同意を要求し、7カ国はイスラーム法解釈に基づく不平等な相続規定を維持する。配偶者間性暴力(marital rape)は全面的に犯罪化されていない国もあり、湾岸諸国の個人身分法は離婚、親権、移動の自由における男性優位を制度化したままである。
ただし、最も強固な制約は法制より文化規範である。家族名誉(sharaf)と貞節(‘ird)は法令以上に行動規制力を持ち、多くの社会で「女性は主要な介護者であるべき」とする規範が支配的である。産休制度が整備されても、男性育休は極めて限定的で、ケア労働=女性の役割が再生産されている。アラブ・バロメーター2024によれば、依然として62%が「女性の最重要役割は家庭」と回答(2011年比9ポイント減に留まる)。
進歩的改革は保守反発を誘発し、ジェンダー平等は「西洋由来でイスラームと相容れない」との主張も根強い。しかし、Musawahなどのイスラーム・フェミニズム潮流、アズハル(2023)やアルジェリア高等イスラーム評議会(2024)の進歩的ファトワは、相続、複婚、後見制度、DV禁止をイスラーム法目的(maqasid al-sharia)に沿う正統改革として位置づけ、宗教的正統性を更新している。
今後を左右する決定因は若年人口の規模とデジタル・ネイティブ性である。30歳未満女性は、全てのアラブ国家でInstagram、TikTok、Xを最も利用する層であり、#LanSaktut(レバノン) #Undress522(チュニジア) #IAmMyOwnGuardian(サウジ)はフェミニズムをNGO領域から大衆文化へ押し上げた。激しいオンライン攻撃にもかかわらず、この可視化は逆に影響力を増幅させている。
また、経済要請は理念以上の推進力となっている。湾岸諸国は、人口の半分を労働市場から排除することが競争上の不利であると認識し、McKinseyはジェンダー格差解消が2030年までに2.7兆ドルのGDP押上げ効果をもたらすと試算する。ヨルダン、モロッコ、エジプトはジェンダー予算編成と取締役会クオータ(モロッコ30%、UAE20%)を導入し、ジェンダー平等を社会正義の問題ではなく経済競争力の課題として位置づけている。
SDG5加速には、以下の6つの戦略的行動が不可欠である。
- 後見制度撤廃と相続・国籍法の平等化
- 配偶者間性暴力の全面刑事化
- 手頃な保育・介護・共同育休投資
- 初等教育段階からのジェンダー固定観念解体
- 農村女性向けデジタル・金融リテラシー拡充
- 宗教改革派の正統言説の制度的支援
アラブ連盟は拘束力ある地域ベンチマークの設定と年次報告を検討すべきだ。
中東は、ステレオタイプ的な「不変の父権体制」でも、北欧型の平等達成に近づいた地域でもない。むしろ急速かつ不均衡な転換期にある。世界最下位のジェンダー格差指標を示す国々が、同時に最速の女子教育進展と最大級の法改革を進めている事実こそが、SDG5の核心である。つまり、文化変容の速度が、法改革や女性自身の期待値に追いついていないのである。
2030年までに完全な平等が達成される可能性は低い。だが、現在の軌道はこれまでで最も明確で、希望を抱かせるものとなっている。もはや問われているのは「変化は起こるのか」ではなく、「若い女性たちのエネルギーを国家、宗教指導者、社会が十分な速度で受け止め、活用できるか」である。(原文へ)
Note:This article is produced to you by London Post, in collaboration with INPS Japan and Soka Gakkai International, in consultative status with UN ECOSOC.

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