SDGsGoal10(人や国の不平等をなくそう)弁護士から活動家へ──児童婚根絶の運動を率いたブワン・リブー氏が表彰される

弁護士から活動家へ──児童婚根絶の運動を率いたブワン・リブー氏が表彰される

【ニューデリーIPS=ステラ・ポール】

ブワン・リブー氏は、もともと子どもの権利活動家になるつもりはなかった。しかし、インドで数多くの子どもたちが人身売買され、虐待され、児童婚を強いられている現実を目の当たりにし、沈黙を選ぶことはできなかった。

「すべては“失敗”から始まりました。」とリブー氏は語る。「助けようとはしていましたが、問題を止めることはできなかった。そのとき気づいたのです──この問題は社会正義ではなく、刑事司法の問題なのだと。そして、解決には包括的で大規模なアプローチが必要だと。」

現在、リブー氏は世界最大級の子どもの権利保護ネットワーク「ジャスト・ライツ・フォー・チルドレン(Just Rights for Children)」を率いている。児童婚や人身売買と闘い続けてきた功績により、同氏はこのたび世界法曹協会(World Jurist Association)から名誉勲章を授与された。授与式は、ドミニカ共和国で開催された世界法律会議(World Law Congress)にて行われた。

しかし、リブー氏にとってこの賞は「栄誉」ではなく「責任の証」だ。「この賞は、世界が注目していること、そして子どもたちが私たちに希望を託しているということの証なのです」と、授賞後初のインタビューでIPSにの取材に対して語った。

原点─1つの会議が人生を変えた

弁護士としての訓練を受けたリブー氏の道のりは、長く困難ながらも輝かしいものだった。そのきっかけは、インド東部ジャールカンド州で開かれた小規模なNGOの会合だった。ある参加者が発言した──「私の村の少女たちがカシミールへ連れて行かれ、結婚相手として売られています。」

その一言が、リブー氏の心を強く打った。

「そのとき気づいたのです──州境を越える問題を、1人や1団体で解決するのは不可能だと。」そこで全国的なネットワークづくりを始めた。

こうして「児童婚のないインド(Child Marriage-Free India/CMFI)」キャンペーンが誕生。数十の団体が次々に加わり、その数はやがて262団体に拡大した。

これまでに2億6千万人以上がこのキャンペーンに参加。インド政府も「バル・ビバフ・ムクト・バラト(Bal Vivah Mukt Bharat/児童婚ゼロのインド)」という国家ミッションを立ち上げた。

現在、村や町、都市の至る所で「児童婚ゼロのインド」に向けた声が上がっている。

「かつては不可能と思われていたことが、今や手の届くところまで来ています」とリブー氏は語る。

法廷での戦い

弁護士であるリブー氏にとって、法律は強力な武器である。

2005年以降、彼はインドの裁判所で多数の重要な訴訟を提起し、勝訴してきた。これにより、児童人身売買の法的定義が明確化され、行方不明児童の届け出に対する警察の義務化、児童労働の刑事罰化、被害者支援制度の整備、有害な児童性的コンテンツのネット上からの削除など、数々の改革が実現した。

特に大きな転換点となったのは、「行方不明の子どもは、人身売買の可能性があるとみなすべきだ」と裁判所が認めたこと。この判断により、行方不明の児童数は11万7480人から6万7638人へと大幅に減少した。

「これこそが“行動する正義”の姿です」とリブー氏は語る。

宗教指導者の協力を得る

CMFIの最も画期的な取り組みのひとつは、宗教指導者への働きかけだった。

「なぜなら、どの宗教であれ、結婚を執り行うのは宗教指導者だからです。彼らが児童婚を拒否すれば、習慣そのものが止まるのです。」

キャンペーンのメンバーは全国の村々を訪れ、ヒンドゥー教の僧侶、イスラム教のウラマー、キリスト教の神父や牧師などに「児童婚は行わず、見かけたら通報する」という誓約を促した。

その効果は絶大だった。例えば結婚が多く行われる吉日「アクシャヤ・トリティヤ(Akshaya Tritiya)」でも、寺院が児童婚を拒否するようになった。

「信仰は、正義のための大きな力になり得るのです。宗教の教義も、子どもたちの教育と保護を支持しています」とリブー氏は話す。

世界へ広がる運動

このキャンペーンはもはやインド国内にとどまらない。2025年1月にはネパールがこの動きに触発され、「児童婚ゼロ・ネパール」イニシアチブをカドガ・プラサド・シャルマ・オリ首相の支持のもと開始。全7州が参加し、児童婚撲滅に取り組んでいる。

さらに、この運動はケニアやコンゴ民主共和国など39カ国へと広がっており、国境を越えた子ども保護のための法的ネットワーク創設への機運が高まっている。

「法制度は国や地域によって異なっていても、“正義”の理念は同じでなければなりません」と語るリブー氏は、2冊の著書『Just Rights』『When Children Have Children』の中で、PICKETと呼ばれる法的・制度的・倫理的枠組みを提唱している。「叫ぶだけではなく、子どもたちを日々守るためのシステムを築くことが必要なのです。」

犠牲と希望

リブー氏は、将来有望だった弁護士としてのキャリアを捨てた。当初は理解されなかったという。

「周囲から“時間の無駄だ”と言われました。でもある日、息子がこう言ったんです──“たったひとりでも救えたら、それで十分じゃない?” それが私にとってすべてでした。」

彼は“ガンディー的信託主義”──つまり、自分の才能や特権を、最も支援を必要とする人のために使うべきだという考えを信じている。

「私がイラクやコンゴで児童婚と闘うことはできないかもしれません。でも、必ず誰かが立ち上がります。そして私たちは、その人のそばに立ちます。」

勲章は“より大きな使命”への扉

世界法曹協会の勲章は単なる栄誉ではない。リブー氏にとってそれは“舞台”である。

「この賞が伝えているのは、『変化は可能だ』『すでに変化は始まっている』というメッセージです。共に歩もう、という呼びかけなのです。」

この受賞をきっかけに、新たなパートナーとの協力が広がり、活動地域もさらに拡大できることを期待しているという。

「2024年だけで2.6万件以上の児童婚が阻止され、5万6千人を超える子どもたちが人身売買や搾取から救出されました。これが、夢物語ではない“現実の変化”なのです。」

2030年までに、インドにおける児童婚の割合を5%未満に抑えることが目標だ。

しかし、世界にはまだ多くの課題が残っている。イラクでは10歳の少女が結婚できる法制度があり、米国でも35州で一定の条件下における児童婚が合法である。

「正義は“一時的”ではいけない。世界のどこであっても、“日常の一部”でなければならないのです。“正義”がただの言葉で終わらないように──それが私たちの使命です。」(原文へ

INPS Japan/IPS UN Bureau Report

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