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SDGsGoal10(人や国の不平等をなくそう)助けられるなら、助けよう。―ウクライナ人支援に立ちあがったイスラエル人ボランティアたち(2)ダフネ・シャロン=マクシーモヴァ博士、「犬の抱き人形『ヒブッキー(=抱っこ)』を使った心のケアプロジェクト」

助けられるなら、助けよう。―ウクライナ人支援に立ちあがったイスラエル人ボランティアたち(2)ダフネ・シャロン=マクシーモヴァ博士、「犬の抱き人形『ヒブッキー(=抱っこ)』を使った心のケアプロジェクト」

【エルサレムNGE/INPS=ロマン・ヤヌシェフスキー】

ロマン・ヤヌシェフスキー by РОМАН ЯНУШЕВСКИЙ
ロマン・ヤヌシェフスキー by РОМАН ЯНУШЕВСКИЙ

イスラエルはロシアとウクライナに対して中立を維持しようと懸命に努力してきたが、対ロシアの関係が急激に悪化したのは必然であった。それを助長したのは、「ヒトラーにもユダヤの血が流れていた」を主張したセルゲイ・ラブロフ外相のスキャンダラスなインタビューと、その後の鋭い言葉の応酬であり、最後はウラジーミル・プーチン大統領がイスラエルのナフタリ・ベネット首相に自ら謝罪することになった。

一方、一般のイスラエル人には、政府が直面していたような難しいジレンマはなかった。国民の大多数は、最初から一方的な軍事侵攻にさらされたウクライナを支持していた。

さらにロシアが主張する残忍な「特別軍事作戦」は、イスラエルに新しい現象を生み出した。ロシア語を話す人々だけでなく、多数のイスラエル人が、ウクライナ人の苦しみを目の当たりにして、彼らを助けなければならないと痛感したのである。その結果、多くの公的な取り組みやボランティアプロジェクト、人道的な支援金集めが自然発生的に始動することとなった。中には、それまでボランティア活動をしたことがなかった人々が組織したものも少なくない。ロマン・ヤヌシェフスキーが、こうした支援活動に参画した人々の内、8人に話を聞いた。(今回は2人目の取材内容を掲載します)

ロマン・ヤヌシェフスキー:第2次レバノン戦争(2006年)では、イスラエル北部はレバノンから激しい砲撃を受け、北部住民のほとんどは、友人や親戚、あるいは見知らぬ人の家に泊まり込み、より安全な地域へと向かった記憶がある。当時アシュケロン地区には、企業家アルカディ・ガイダマクの資金提供により、心理療法士が常駐する臨時難民キャンプが設置された。隣町のアシュドッドに住むダフナ・シャロンさんもその一人である。ポーランドのヴィテプスク出身の彼女は、子どもや青年の心の傷やPTSD治療を専門としている。

シャロンさんは、イスラエルの子どもの心のケアを専門とするシャイ・ヘン・ガル博士とアヴィ・サデ博士のチームに参加し、犬の抱き人形「ヒブッキー」(2音節目を強調、ヘブライ語で「抱っこ」の意)を考案した。やがて、「ヒブッキー:抱擁プロジェクト」を展開。科学的な研究により、「ヒブッキー」を使用することで子供のストレス反応が大幅に減少することが明らかになっている。

ダフネ・シャロン:「(ヒブッキーは)とても柔らかい犬のぬいぐるみで、とても悲しい顔をしています。子供たちは容易にこの犬の感情を読み取ることができます。私たちは、子どもに『この犬はどうして悲しいの?』と聞きます。実は、子どもは大人のように自分が経験した痛みを直接語ることができないことが多いのです。でも、人形に周りの大人たちに話せない心のトラウマを明かし、また人形を世話することによって自信を取り戻す効果も期待でき、ヒブッキーはその機会を与えてくれるのです。」

そこで私たちは子どもに、「こんな友だちが欲しい?この犬を幸せにできるのはあなただけなのよ。」と伝えます。

ヒブッキーは非売品で、心理療法士からのプレゼントとしてのみ入手可能です。人形療法をベースにしたトラウマ治療ができる、魅力的な万能ツールです。

Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)
Image credit: Royal United Services Institute (RUSI)

ロシアによるウクライナ侵攻が始まると、私たちは参加しなければならないと思い、2月26日からは、大人と子どもへの支援も開始しました。文部省やユダヤ人庁等の協力を得て、あちこちから連絡先を集め、トラウマとの正しい付き合い方についてお話しする定期的なビデオリンク・セッションを始めました。残念ながら、(イスラエルに暮らす)私たちは戦争紛争によるトラウマに対処するために、多くの経験を積んできました。一方、ロシア侵攻前のウクライナにはこのようなシステムはなかったので、私は心理学者や教育者に、どのようにすればこのプロセスを適切に組織化できるかを伝えました。

最初はウクライナのユダヤ人学校やその子どもたちとの接触が多かったのですが、誰にでも活動を開放しました。ピーク時には600人が参加しましたが、紛争で電気やインターネットが遮断され、その数はどんどん減っていきました。ズームでの会話中に、空襲警報が出て、ウクライナ側の参加者が防空壕に逃げ込むということもありました。

その後徐々に幼い子どもたちも私たちのオンラインセッションに参加して、自分たちの体験を話し始めました。そこで、「ヒブッキー」のことを思い出し、緊急にプロジェクトを復活させ、ウクライナで開始することにしました。スピードアップのためには、現地で生産体制を整える必要があると考え、いくつかの工場を検討した結果、ドニプロ市のマシク社にたどり着きました。ヒブッキーの脚が外れないように、GOST(国際標準化機構)の規格をすべてクリアする必要があるのですが、彼らは私たちの高い要求基準をクリアしてくれました。

メインスポンサーであるユナイテッド・ヘルプ・ウクライナは、私たちを大いに助けてくれました。彼らの援助で1100個のヒブッキーを生産することができました。もちろん、もっとたくさん必要ですが。私たちは、3歳から13歳までの子どもたちを対象にしています。ウクライナだけでも270万人の子どもたちがいます。個人療法と集団療法を併用しています。同時に、ウクライナの専門家を育成しています。

ヒブッキー(Hibuki)by Embassy of Israel in Japan

今回はヒブッキーをさらに現代風にアレンジし、機能を追加しました。顔立ちが少し変わり、前足が長くなり、丈夫なスコッチテープとポケットが付きました。子どもたちはヒブッキーと一緒に暮らすようになると、怖いときには一緒に眠り、持ち歩くようになります。私たちは、このおもちゃをウクライナ風に改名することを提案しましたが、子どもたちはイスラエル風の名前を残したいと言いました。

また東日本大震災で地震や津波被害にあった日本のために、3000匹のヒブッキーを生産し支援の手を差し伸べました。また、ハリケーン・カトリーナの被害にあった米国や、9割の子どもがヒブッキーを持っているイスラエルでも、私たちの犬のぬいぐるみはよく知られています。

現在、私たちは特に、暴力に苦しむ難民の子どもたちが暮らす、ウクライナの首都キーウ近郊の特別なキャンプで活動しています。例えば、ブチャ出身の8歳の女の子がいます。彼女も母親も救出された時にはひどい状態で、私たちの専門家が心のケアにあたっています。

この少女はヒブッキーを与えられ、なぜそんなに悲しんでいるのかと尋ねると、ヒブッキーの両耳を結び始め、このように犬が耳を覆い隠していることを示しました。そして、ロシア兵による集団レイプから生還した経緯を詳しく話し始めました。

もう一つの事例を話すと、5歳のセリョーシャ君についてです。ロシア軍が侵攻してくる前、彼は学校に行く準備をし、よく話す活発な男の子でした。彼の一家は戦火を逃れて自宅を後にしました。途中、乗っていた車がロシア軍に砲撃され、両親が目の前で殺されてしまいました。祖母と二人でなんとかハンガリーまでたどり着いたのですが、セリョーシャ君はまったく話をしなくなりました。

Фото из соцсетей

Фото из соцсетей

ヒブッキーは10代の青少年向けというよりは、どちらかというと幼児向けです。うちのスタッフがハンガリーの難民キャンプを訪れた際に、幼児を中心に、13歳のボグダン君ら年長児2人を含むグループがいました。子どもたちに「ヒブッキー」を渡したところ、最年長のボグダン君が、あたかも心の中で火山が爆発したかのように、突然泣きだしたのです。その隣には、4歳くらいの小さな女の子、ナディアちゃんがいました。彼女は抱きしめていたヒブッキーを自分の体から離し、「ほら、あなたの方がもっと必要でしょう」と言って、ボグダン君に手渡しました。これはナディアちゃんが象徴的にボグダンを抱きしめた瞬間で、スタッフは感動して鳥肌が立ちました。

マリウポリから来た4歳の男の子は、ドニプロの難民キャンプで、私たちの心理学者らが「ヒブッキー」を配布しているのを見たそうです。彼は自分の胸元を指差しながら彼らのもとに駆け寄って「それ僕に必要です。一匹譲ってください。」と大声で叫びました。そしてヒブッキーを受け取って満面の笑顔を浮べたのです。後で、この少年は、この戦争で愛犬を失っていたことが分かりました。

8歳の男の子は、レスリング教室に行った時の話を感動的に語ってくれました。しかし突然話を中断し、「あ、ヒブッキーにはレスリング教室はないんだ。」とつぶやいたのです。後で分かったことは、レスリング教室があったパイオニアハウスが爆撃を受けて消失していたことでした。

Dafna Sharon
Dafna Sharon

まだすべての人に手を差し伸べることはできないことを実感しています。スポンサーが増えれば、より多くの「ヒブッキー」を贈って子供たちの心のケアを行うことができます。1個のぬいぐるみ犬を生産するのに16ドルかかりますが、それに儲けはありません。今のところ1件のスポンサーのみで、みんな出資しながら私たち5人のボランティアスタッフでプロジェクトを運営しています。

また、イスラエルの経験をウクライナで実践するため、心理療法士やソーシャルワーカーだけでなく、幼稚園や学校、サークルなどの教師にも参加してもらい、より広い範囲での活動を試みています。

また、ウクライナの状況は特殊であることにも注意が必要です。長い歴史の中で初めて、被害者への心理的援助が被害者自身によって行われるようになったのです。結局のところ、心理療法士自身もトラウマを経験しているのです。この経験は、今後何年にもわたって研究されることになるでしょう。(原文へ

Dafna Sharon
Dafna Sharon
Dafna Sharon
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ヒブッキープロジェクトのフェイスブックページ(ロシア語/ウクライナ語)はこちらへ

翻訳=INPS Japan浅霧勝浩

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