【国連IPS=タリフ・ディーン】
11月24日のイラン・『P5+1』暫定合意にサウジアラビアが激しい反発を見せたことで、サウジが中東に軍事力を展開しようとしているのではないかとの観測が出ている。
『ウォール・ストリート・ジャーナル』が同日付の記事の中で指摘したように、国際社会がいかなる形であれイランの原子力開発を認めるようなことがあれば、サウジ政府は「購入手段によって自国の核兵器能力を追求する」という結論に傾くかもしれない。
その場合有力な調達先は、核計画の一部をサウジが財政支援したパキスタンとみられている。
しかしこれは、米国とサウジ間の長期にわたる政治的・軍事的関係が悪化しつづければ、という限定つきでの最悪のシナリオだと考えられている。
サウジアラビアが核取得の野望を持っているのではないかという疑惑が最初に浮上したのは、2011年に元駐米サウジ大使のトゥルキ・ファイサル王子が、イスラエルやイランからの核の脅威によってサウジもやむなく両国に倣らざるを得ない(=核武装する)かもしれない、と警告した際のことだった。
サウジの首都リヤドで開催された「安全保障フォーラム」で発言したファイサル王子は、「核兵器の保有も含めすべてのオプションを検討するのが、サウジアラビアの国家と民衆に対する責任です。」と述べたとされる。
これが本気の発言か空疎な脅しかどうかは、イランに核兵器能力を放棄させるために行われている協議の行く末が、暫定合意が期限を迎える半年後にどうなっているかにかかっている部分もある。
この暫定合意は、イランと、国連安全保障理事会の五大国(米国、英国、フランス、ロシア、中国)にドイツを加えた「P5+1」との間で10月と11月に計3回の協議を経て、結ばれたものである。
エルサレムに拠点を置く『パレスチナ・イスラエル・ジャーナル』の共同編集人で中東の核開発情勢に詳しいヒレル・シェンカー氏は、「サウジアラビアの批判は、ジュネーブ合意(=暫定合意)を非とする立場が前提となっています」と指摘したうえで、「しかし、この暫定合意を基礎として、イランによる核の軍事利用を防止するための合意に進むことができれば、サウジ政府も核武装による対抗手段をとる必要性を感じなくなるでしょう。」と語った。
さらにシェンカー氏は「イランとの最終合意において、(レバノンのシーア派武装集団)ヒズボラやイスラム聖戦機構に対するイランの支援の問題を取り扱うべきだとイスラエルが主張するのと同様に、(スンニ派が支配する)サウジアラビアや湾岸諸国は、イランによるシーア派中東支配の野望に対して安全を保障するよう米国に求めるでしょう。」と語った。
今回の暫定合意によって他の中東諸国が核兵器開発・取得に走ることがあるかどうかという問題に関して、ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)核軍備管理・軍縮・不拡散プロジェクトのシャノン・N・カイル上席研究員は「それは長期的な合意の内容次第だろう」と語った。
この長期的合意は、暫定合意の期限が終了する半年後に結ばれることになると目されている。
カイル氏は、制裁解除と引き換えに機微の核燃料サイクル活動を制限ないし減少させる意思をイランがどの程度持っているか、あるいは、イランの核インフラをほぼ解体する合意なしに制裁を解除する用意が米国と欧州連合(EU)のパートナー国にあるかどうかは、今のところ不明であるという。
さらにカイル氏は、「イランの核計画に対する技術的制約を相当程度に大きくし、(とりわけイランが付属議定書に署名することによって)国際原子力機関(IAEA)による検証体制を強化してイランにおける未申告の核活動が存在しないとの確証を提供するような合意が結ばれると想定すれば、イランによる核兵器製造が困難になるため、米国やイスラエル、アラブ諸国の不安は軽減されることになるだろう。」と指摘したうえで、「そうすることで、中東における核拡散のインセンティブと圧力を弱めることに資するのです。」と語った。
サウジアラビアに加えて中東で核の野望を持っていると観測されているのが、現在政治的に混乱しているエジプトである。
シェンカー氏は、「中東の覇権を巡ってイランをライバル視しているエジプトも、(サウジアラビア同様)イランと西側諸国の間の歩み寄りを歓迎していないかもしれないが、現在は国内問題で手一杯な状況にある」と指摘したうえで、「もし(6か月後の)最終合意を合理的なものと判断すれば、エジプトが核兵器を保有する決断を下す可能性はないだろう。」と予測した。
しかし、今年7月に追放されたムハンマド・モルシ前大統領も、それを引き継いだ現在の暫定政権も、イランの原子力計画に対抗してか、休止状態にあった原発建設計画を復活させることへの関心を示している。
さらに、中身のある最終合意がイランと結ばれたならば、エジプトは、中東非核地帯を追求する決意と、イスラエルの核計画を協議のテーブルに乗せようとの希望を強めるだろう、とシェンカー氏は語った。
またシェンカー氏は、「イランが過去の核活動に関してあまり前向きでなく、時には積極的に嘘をつこうとしてきたことを考えると、11月24日のイラン・『P5+1』暫定合意に対する悲観論がイスラエルやサウジアラビア、米国議会の一部から出ていることは理解できます。しかし今回の暫定合意が、イラン核計画の範囲に関する国際社会の懸念に応えていくための重要な第一歩であることを考えると、こうした懐疑的な勢力も暫定合意を歓迎すべきなのです。」と語った。
ジュネーブ合意は、暫定期間中にイランが核施設を利用して核兵器製造に向けた進展を図ることを実質的に不可能にするような技術的制約(5%を超える濃縮の停止、手持ちの20%を超える濃縮ウランの解体、アラク重水炉の建設停止)や検証上の要請(濃縮設備へのIAEA査察官のアクセス拡大)を課している。
「従ってこの合意によって、仮にイランが将来において核兵器開発を決断することがあったとしても、核開発に要する時間は引き延ばされることになるのです。これは重要な成果であり、無視したり軽視したりすべきものではないのです。」とカイル氏は付け加えた。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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