ニュースサウジ政府が国連安保理を非難

サウジ政府が国連安保理を非難

【国連IPS=タリフ・ディーン

1991年、サウジアラビアが国連総会議長のポストを目指してパプアニューギニアと争っていた時のこと―。サウジアラビアはまず、アジアグループからの指名を勝ち取る必要があった。そのために「袖の下」も使ったという。

国連報道に長く携わり現在は米国のシンクタンク「フォーリン・ポリシー・イン・フォーカス(FPIF)」で上級アナリストを務めるイアン・ウィリアムズ氏は、IPSの取材に対して、「当時アジアグループからの代表指名投票が行われた際、サウジアラビアに賛成の挙手をする大使らの手のほとんどに、スイスの高級腕時計『ロレックス』が光っていました。」と語った。

この話自体はやや眉唾物だが、国連機関の要職の座を巡って裏側で何が行われていたかを示すエピソードではある。

10月17日、サウジアラビアは、(おそらく高価なギフトを伴わない)精力的なロビー活動を経て、国連総会で国連安保理非常任理事国(任期2年)のポストを勝ち取った。ところが、それから24時間もしないうちに、理事国入りを辞退するとの異例の発表を行ったのである。

「安保理非常任理事国のポストを辞退するというサウジ政府の決定は、絶対王政国家だからこそあり得る判断だと思います。また、国王自身が(安保理非常任理事国のポスト獲得を目指した)自国の外務省の動きについて知らなかったという可能性さえあります。」と英国のトリビューン誌にも寄稿しているウィリアムズ氏は語った。

イスラム協力機構(OICは21日、サウジアラビアの決定を支持する声明を発したが、国連のアラブ諸国の代表部は、サウジ政府がこの決定を見直すことを期待している。

あるアジアの外交官はIPSの取材に対して、「サウジ政府はシリア情勢を巡って行き詰っている国連安保理の現状に不満を抱いており、今回の決定を覆すことはないだろう。」と語った。とりわけ、シリアのバシャール・アサド大統領に対する制裁を求めた西側諸国主導の決議案がロシアと中国の拒否権行使により3度も頓挫している現状を問題視しているのだという。

「アラブ研究所」が発行する有力電子マガジン『ジャダリーヤ』(Jadaliyya)のモーイン・ラバニ編集長は、「今回のサウジアラビアの行動は、同政府に外交政策を行う能力が欠如していることが表面化したもの」と指摘したうえで、「自国の国連代表部が、非常任理事国選出に大いに沸いたにも関わらず、その直後に彼らの多大な準備と努力の一切を無にすることになる(辞退)発表を本国政府が行ったことを考えればこの点は明らかです。」と語った。またラバニ編集長は、「この決定を誰が下したのか、またこの発表自体が単なる決定を伝えたものなのか、それともサウジ政府の懸念を誇示するために行った政治的なジェスチャーだったのかについては不確かなままです。」と語った。

またラバニ編集長は、「サウジ政府は、国連安保理のポストを辞退する発表を行った際、安保理の構造的な機能不全と、安保理がシリアやパレスチナ問題の解決に失敗してきた経緯を指摘した」点を挙げ、「こうした懸念は、さらなる検討に値します。」と語った。

ラバニ編集長はしかし一方で、「国際の平和と安全を守り紛争解決を協議する場としての国連の権威を失墜させるような行為を、米国やイラク、ときには中東から遠く離れたニカラグアと結託して、長年に亘って行ってきたのも、他ならぬサウジアラビアなのです。」と指摘した。

ウィリアムズ氏は、サウジ政府の今回の決定の背後には、国内の有権者の期待に応えようとしながら、(米国をはじめとした)重要な支援国への配慮を示さなければならないことから生じるジレンマが存在する、と指摘した。

1991年に国連総会議長に就任したサウジアラビアのシャミル・シハビ氏が最初に手掛けた仕事の一つが、「シオニズムは人種主義と人種差別の一形態である」とした国連総会決議3379について再検討する国連特別総会の議長を務めることだった。この国連総会はジョージ・H・W・ブッシュ大統領の呼びかけで開催されたもので、再検討の結果、(そもそも1975年にアラブ諸国、第三世界諸国、ソ連が主導して実現した)同決議は覆された。

ウィリアムズ氏は、当時シハビ議長自身が、イスラエル代表の欠席にもかかわらず、(イスラエルにとって有利な決議を行った)この総会を欠席していた点を指摘した。当時ブッシュ政権に借款を拒否されていたイスラエル政府は、ブッシュ大統領がこの国連総会の開催を呼びかけることで、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC、親イスラエルロビー団体)からの支持獲得を狙っていると警戒して大使の出席を見送っていた(当時の米以関係)。

ウィリアムズ氏は、「当時のサウジアラビアの動きに、今回のショッキングな決定の背後にある共通の論法を見出すことができます。つまり、そもそもサウジアラビアの外交政策は二枚舌的なものにならざるを得ないのです。例えば、一方で米国と結んでイランを追い詰めながら、他方では、同じイスラム教国に攻撃を加えていると見られないように注意しなくてはならないのです。」と指摘した。

ラバニ編集長は、「実際のところ、サウジアラビアがパレスチナ問題の解決を真剣に考えているとまともに受け止めている人はほとんどいないでしょう。」と語った。

「ほとんどの人が、サウジアラビアが今になって突然、国連安保理の機能不全やパレスチナ問題に関する責任放棄に気づいたというのは、遅きに失したと考えるのではないだろうか。もしサウジ政府がそれほどまでにパレスチナ問題を重要だと考えているのならば、今回のように国連を舞台にした政治ショーを演出する前に、なぜ米国に対してそれを真剣に提起し、対米関係を見直さなかったのだろうか。」とラバニ編集長は疑問を呈した。

またラバニ編集長はシリア情勢について「サウジ政府は、容赦ない宗派間抗争を遂行するために(シリアのみならずイラクやレバノンにおける)最も過激なスンニ派原理主義グループに対する武器援助を含めた支援を行っているが、こうした政策がサウジ政府が国連安保理に要求している平和と安全の確保にどのように貢献しているのかという問いに対して、未だに説明を行っていません。」「この問いにサウジ政府がどのように回答するかは不明です。」と語った。

そして今後の中東情勢について、「現在懸念されているのは、サウジ政府が、交渉によるシリア情勢の妥結とイランとの対話が進展する事態を防ぐために、(そうした状況を同じく望んでいない)イスラエルと結託して中東を戦火に巻き込む方向に動く事態です。今後の望みは、サウジ政府がこれまで通り、米国政府の指示に従うことです。」とラバニ編集長は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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