SDGsGoal10(人や国の不平等をなくそう)先住民を脅かす気候変動―彼らの視点を取り入れよ

先住民を脅かす気候変動―彼らの視点を取り入れよ

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=カリン・ゲルハルト/ジョン・デイ/ラリッサ・ヘイル/スコット・F・ヘロン】

オーストラリアの先住民は気候変動による多くの脅威に直面しており、それは食料供給から健康問題にまで及ぶ。例えば、海面上昇によりすでにトレス海峡の島々では浸水が発生しており、壊滅的な被害が生じている。

気候変動に関する政府間パネルによる影響と適応に関する直近の報告書では、オーストラリアに関する章において、気候変動がアボリジナルの人々やトレス海峡諸島民、そして彼らの土地と文化に及ぼす影響は「広範、複雑、複合的」であると記されている。(原文へ 

これらの影響が記録されることは重要であるが、データの出典の大部分は西洋科学に基づく学術文献である。「伝統的所有者」たちが彼らの土地で経験し、対処している影響や困難は、彼ら独自の視点から評価し対処されなければならない。

「伝統的所有者」たちは、6千年以上にわたってオーストラリアで暮らしてきた間に気候の変化を乗り越え、適応してきた。それには、現在グレートバリアリーフとなっている一帯を水没させた海面上昇や、降雨量の極端な変動などがある。その結果、時間の経過に伴う自然の変動に対する繊細な感覚を彼らは発達させた

そこで、私たちは何をしたか?

Yuku Baja Muliku(YBM)の先住民の人々は、クイーンズランド州北部アーチャーポイント周辺に広がる彼らの「陸と海の国」に見られる変化を案じ、文化的価値への影響を評価する新たな方法を創出するため、ジェームズクック大学の研究者と協力を行った。

私たちはそのために、価値観に基づき、科学的根拠に主導され、コミュニティーに重点を置いた気候脆弱性指数のアプローチを用いた。この指数が、先住民の人々にとって重要な意味を持つ価値を評価するために使われたのは初めてである。

YBMの人々は次に挙げるような、彼らの価値観に生じた変化を評価するための主な質問に回答した。

その価値は、100年前はどのようなものでしたか? それは現在どのようなものですか? 2050年頃の将来の気候において、それはどのようなものになると予想しますか?その価値に関連してどのような管理方法がありますか、それは今後変化しますか?

そのうえで、これらの気候変動からどのような問題が生じたかを議論した。

このプロセスを用いて、YBMの人々の暮らしぶりに直接影響を及ぼしている問題を洗い出すことができた。例えば、伝統的な食料源は気候変動による影響を受ける可能性がある。アナン川ではかつて、カラス貝を簡単に見つけて採ることができた。しかし、ここ10年の極端な気温現象が大量死をもたらしている。今やカラス貝は以前よりはるかに小さくなり、数もはるかに少ない傾向がある。

また、この過程で、降雨量と気温の変化により一部の食用植物が出現する時期が変わっていることも記録された。これは特に、花が開き、あるいは芽が出るためには野焼きが必要な植物に当てはまる。これはひいては、採集・収穫のタイミングが変化したということを意味する。

このような気候に連動する変化は、既存の伝統的知識体系に試練を突きつけ、「陸と海の国」に広がるさまざまな種、生態系、気象パターンの間の結びつきを変化させる。

このプロセスの重要な部分は、伝統的な生態学的知識の持ち主と西洋科学の研究者との間に相互に有益なパートナーシップを築くことであった。それには、信頼と尊重に基づく関係を確立することが不可欠である。

まず彼らの国を歩くこと、すなわち川、マングローブ、浜辺、岬、森林、湿地を見て、「海の国」を眺め渡すことは、研究者らにとって、「伝統的所有者」たちの視点を理解する助けとなった。経験と知識(特に年配者や先住民レンジャーが持つもの)に敬意を払うることが重要であった。先住民の文化的・知的財産プロトコルが認識され、評価プロセスを通じて尊重された。

「伝統的所有者」を彼ら自身の知識体系における熟練の科学者として尊敬し、協力して働くことが、成功に不可欠であった。繊細な伝統的知識を守るために、伝統的な生態学的知識を気候変動評価に組み入れるあらゆる努力が必要である。

気候変動は今後も続き、加速すると思われることから、先住民族の人々の文化的遺産にもたらされる影響を最小限に抑えるため、私たちは力を合わせて取り組まなければならない。

カリン・ゲルハルトは現在、博士課程の一環としてYuku Baja Mulikuの伝統的所有者の人々との協働プロジェクトに携わっている。グレートバリアリーフ財団に勤めており、以前はグレートバリアリーフ海洋公園局で働いていた。
ジョン・デイは、1986年から2014年までグレートバリアリーフ海洋公園局に勤務し、1998年から2014年は同局のディレクターの1人であった。スコット・ヘロンとともに、世界遺産のための気候脆弱性指数(CVI)を開発した。CVIは、他の遺産地域における気候影響評価にも用いられている。
ラリッサ・ヘイルは、Yuku Baja MulikuのJalunji Warra民族の出身であり、現在、Yuku Baja Muliku Landowner & Reservers Ltd.の最高経営責任者を務めている。また、地元自治体クック・シャイアの議員として2期目を務めている。
スコット・F・ヘロンは、オーストラリア研究会議とNASA ROSES生態系予測プログラム(NASA ROSES Ecological Forecasting)より資金提供を受けている。ジョン・デイとともに、世界遺産のための気候脆弱性指数(CVI)を開発した。CVIは、他の遺産地域における気候影響評価にも用いられている。

INPS Japan

関連記事:

|フィリピン|パラワン島の先住民族の土地保護に立ちあがる若者達

時には一本の木の方が政府より助けになることもある

|COP26|政治指導者らが行動をためらう中、SGIが国連青年気候サミットを提案

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken