ニュース|視点|ロシアとカザフスタンが石油をめぐって「チキンレース」を展開(アハメド・ファティATN国連特派員・編集長)

|視点|ロシアとカザフスタンが石油をめぐって「チキンレース」を展開(アハメド・ファティATN国連特派員・編集長)

この記事は、アメリカン・テレビジョン・ネットワーク(ATN)が配信したもので、同通信社の許可を得て転載しています。

【国連ATN=アハメド・ファティ

Ahmed Fathi、UN Correspondent, Managing Driector of ATN

カザフスタンはかつて旧ソビエト連邦を構成した共和国で、ロシア人の人口はかなり多いが減少傾向にあり、ロシアのウクライナ侵攻を巡って両国関係に溝が生じている。カザフスタン当局は、ウラジーミル・プーチン大統領が 「ロシア語を話す同胞」を保護するためという(ウクライナに侵攻した際と)同様の口実で介入することを恐れている。カザフスタンのカシム=ジョマルト・トカエフ大統領は6月、ロシア主導のユーラシア経済連合と集団安全保障条約機構(CSTO)のメンバーでありながら、「カザフスタンは(ウクライナ東部の)自称『ドネツク人民共和国』と『ルガンスク人民共和国』を、国家として承認しない」考えを示した。

プーチン大統領はドンバス地域を親ロシア国家にしたいのだ。トカエフ大統領の反対にもかかわらず、6月にロシアがカザフスタンの石油輸出に介入したことで、カザフ政府との間に亀裂が生じた。ロシア軍が燃料価格の高騰を巡る抗議活動からトカエフ政権を守った半年後に、亀裂が生じたのだ。トカエフ大統領は1991年の独立以来最悪の暴動を契機にヌルスルタン・ナザルバエフ前大統領を失脚させた。もしナザルバエフ氏がまだカザフスタンの大統領だったら、ウクライナ問題に対してもっと親ロシア的な立場をとっていただろう。

トカエフ大統領とプーチン大統領が石油市場を巡って「チキンレース」を展開したため両国の間に溝が生じている。トカエフ大統領は7月上旬、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長に「カザフスタンは東と西、南と北の間の『緩衝市場』として機能するかもしれない」と述べ、欧州市場向けにカザフ産原油を増産する用意がある旨を伝えた。これは、EUと米国によるロシア産石油の輸出制限に言及したものである。トカエフ大統領は、カザフスタンが「世界と欧州の市場を安定させる」と述べた。 原油価格は、2月のロシアによるウクライナ侵攻後、6月に1バレル120ドル近くまで14年ぶりの高値をつけたが、その後、世界不況への懸念から90ドル程度まで下落した。EUが海上輸送されるロシア産の原油を禁止すれば、原油価格は再び上昇する可能性がある。

Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain
Political Map of the Caucasus and Central Asia/ Public Domain

カザフスタンの原油出荷が価格を落ち着かせる可能性がある。世界の石油の1%(140万バレル/日)(bpd)を輸出している。この石油はEUの必要量の6%を供給しているが、もっと多く生産される可能性がある。カザフスタンは内陸国であるため、20年前から、同国の石油輸出の約4分の3がロシア黒海沿岸(カザフ領からロシアのノボロシスクの港にCPCパイプラインで輸送)を経由しており、ロシア政府がカザフスタン産石油輸出を事実上支配してきた。プーチン大統領は、トカエフ大統領が欧州に対して石油の増産を申し出たので、その報復をしようとしたのである。

7月5日、ロシアの裁判所が「環境基準違反」を理由にして、この1500キロにおよぶCPCパイプラインによる石油の供給を、30日間停止するよう命じたのである。これによりノボロシスクターミナルは頻繁に閉鎖されていたが(6月には港の水域で第二次世界大戦時の爆発物が発見されたとして閉鎖された)、多くのエネルギーアナリストは、閉鎖はロシアのウクライナ侵攻に対するトカエフ大統領の態度に対するプーチン大統領の不満の表れと解釈している。ロシアとしては、欧州や米国がウクライナに軍事援助を続けるなら、カザフスタンが石油やガス輸出を独自に制限するのは困るのだ。

しかしロシアによるこうした圧力は、かえってカザフスタンが石油輸出先を多様化する動きを促す可能性がある。カザフスタンの国営石油会社カズムナイガス(KMG)は、アゼルバイジャンの国営石油会社ソカールと、トルコのジェイハンに至るバクー・トビリシ・ジェイハンパイプライン(BTCパイプライン)を通じてカザフの石油を輸出する協議を進めた。この新しい輸出ルートは9月に開始されるが、ロシア経由のCPCパイプラインの日量140万バレルに比べれば、その石油輸送能力は小さい。

Location of Baku–Tbilisi–Ceyhan pipeline/ By Charles - Own work, CC BY-SA 4.0
Location of Baku–Tbilisi–Ceyhan pipeline/ By Charles – Own work, CC BY-SA 4.0

バクー・トビリシ・ジェイハン(BTC)ルートは、アゼルバイジャンとロシア領を避けることで合意しているため、カザフスタンはカスピ海を渡ってバクーに石油を輸出しなければならなくなる。カザフスタンはまた、2023年にアゼルバイジャンのバクー・スプサパイプラインを経由してジョージアの黒海沿岸のスプサからも国際市場に石油を輸出することを提案している。BTCルートを通じた出荷量は10万bpdで、ロシア経由のCPCパイプラインルートの8%に相当する。プーチン大統領とトカエフ大統領の確執で、欧米の制裁がロシアの軍事的努力に与える影響も変わってくるかもしれない。紛争が激化すれば、中国、EU、米国はカザフスタンとの関係を強化し、ロシアの勢力圏に影響力を持つようになるかもしれない。(原文へ

INPSJ Japan

*この記事は2022年8月25日に配信されたものである。

関連記事:

|視点|カザフスタンが 「21世紀のスイス」になる可能性(ドミトリー・バビッチ)

ソ連の「人道に対する罪」から生まれた、核実験・核兵器廃絶の世界的な運動

ロシア産原油の禁輸措置が切り開くアフリカの新展開

最新情報

中央アジア地域会議(カザフスタン)

アジア太平洋女性連盟(FAWA)日本大会

2026年NPT運用検討会議第1回準備委員会 

「G7広島サミットにおける安全保障と持続可能性の推進」国際会議

パートナー

client-image
client-image
client-image
client-image
Toda Peace Institute
IPS Logo
The Nepali Times
London Post News
ATN
IDN Logo

書籍紹介

client-image
client-image
seijikanojoken