【ナイロビIDN=ジェローム・ムワンダ】
東部アフリカが過去60年で最悪といわれる旱魃にみまわれ、数百万人が苦しむ中、エチオピア政府が同国内でもっとも豊かな土地を地元の部族から奪い、外国の企業に譲り渡そうとしている。
世界中の部族の人びとの権利を擁護する団体「サバイバル・インターナショナル(サバイバル・インターナショナル: SI)」の調査によると、エチオピア南西部オモ川沿いの肥沃な土地が、イタリア・マレーシア・韓国の企業に貸与され、輸出用作物の栽培が進められている。また、貸与用の土地を少なくとも24万5000ヘクタールまで拡大し、広大な輸出用砂糖黍プランテーションにする計画もある。SIによると、エチオピア政府は諸部族を「遅れた」人々と見なしており、彼らの自給自足の農耕、遊牧、狩猟というライフスタイルを改めさせ、プランテーションの労働者に変換する「近代化」政策を推進する意向である。
しかし、「下オモ谷」(Lower Omo Valley)には約90,000人の諸部族(ボディ族、ダサネッチ族、カロ族、クェッグ族、ムルシ族、ニャンガトム族)が、長年に亘る伝統・慣習を守りながら土地がもたらす恵みに依存して生活している。ここには草地、火山帯など手付かずの美しい土地が広がっており、数千年前にはさまざまな文化や民族集団が出会う場所であったと考えられている。
オモ川の定期的な氾濫は地域の生物多様性をより豊かにする。雨量の少ないこの地域で諸部族の人びとが食料を確保するには、この氾濫こそが必要なのである。
この地域に普段は居住していない部族(ハマー族、チャイ族、トゥルカナ族)も、他の諸部族との取り決めによって、とりわけ食糧不足の時期には平原に入って食料を確保することができる。
しかしながら、SIによると、政府が多くの土地を部族から奪うにつれ、部族間の資源争いが近年激しくなってきた。さらに火器の導入で部族紛争はより苛烈なものになった。
さらにエチオピア政府は、オモ川沿いにアフリカ大陸最大規模となるギベ第3ダム(Gibe III)を含む一連のダム建設と、数百キロにわたる灌漑用水路の建設を計画している。SIは、この計画が進められれば、オモ側の水系が変化し諸部族が生活の基盤としてきた地域の生態系を変えてしまう、と警告している。つまり、ダムが川の氾濫を減らし、土地の肥沃さがなくなってしまうのである。
2006年7月、エチオピア政府は、イタリアの企業「サリーニ建設」とダム建設の契約を結んだ。しかし、業者の選定に際しては同国の法律の規定にも関わらず競争入札はなされなかった。また、この建設承認当初には環境アセスメントが終了しておらず、事後的にアセスメントが承認されたのは2008年7月のことであった。しかもアセスメントを実施したイタリアの会社CESIにはエチオピア電力公社のみならず「サリーニ建設」も支払いを行っていることから報告書(環境や諸部族への影響は殆どなく、むしろポジティブと結論)の中立性が疑われている。一方、独立専門家によるアセスメントによると、水量の激減により下流の生態系が大きな影響を受け、河川の枯渇と河川沿いの森林が消滅する危険性が指摘されている。「このことは、従来の自然洪水がもたらす肥沃な土が失われることを意味し、少なくとも下流に住む100,000人の諸部族が食糧難に直面することになる。」とSIは警告している。こうした事情を背景に、国際人権団体のグループが2008年、人権問題の見地からダム建設に反対するオンラインキャンペーンを開始した。
2011年8月現在、建設は3分の1まで進行しているが費用は当初予算の14億ユーロから大きく膨れ上がっている。
一方エチオピア政府は、開発に反対する勢力との対話の道を断ち、弾圧を強めている。部族民が反対意見を口にしたり、外部の人間やジャーナリストに訴えないよう、違法な投獄、拷問、女性に対するレイプなどの手段を駆使している。その結果、部族民達は政府に対する恐怖の中で日々を生きねばならない状況にある。
しかし、下オモ谷は、考古学的・地理的重要性を有しているということでユネスコの世界遺産に指定されている地域である。エチオピア政府は、このような土地の開発を許そうとしている。
「サバイバル・インターナショナル」のスティーブン・コーリー代表は、「オモ谷の部族の人びとは『遅れた』人びとでもないし、『近代化』を必要としてもいません。彼らは、土地を取り上げようとしている多国籍企業と同じく、21世紀の一部なのです。悲劇なのは、彼らを肉体労働者に変えてしまえば、他の多くのエチオピア人がそうであるように、ほぼ確実に彼らの生活の質を低下させ、彼らを飢餓と窮乏の淵に追いやってしまうことになるのです。」と語った。
エチオピアにおける世界遺産地域の開発問題について報告する。(原文へ)
翻訳/サマリー=山口響/IPS Japan浅霧勝浩
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