【ニューヨークIDN=リサ・ヴィヴェス】
今年も国際報道自由デー(5/3)を迎えた。米国ではフェイクニュースの問題が盛んに議論されているが、アフリカやその他の国々では、「報道の自由」を巡る理論と実際を振り返る機会となった。国際連合教育科学文化機関(ユネスコ)が掲げたこの記念日の今年のテーマは「公平なジャーナリズム(Journalism without Fear or Favour)」である。
多くのメディア専門家らによると、ジャーナリズムは世界の大半の地域で不安定な状況に直面している。
国際ジャーナリスト組織「国境なき記者団」(RSF、本部パリ)が先月21日に発表した「世界報道自由度ランキング2020」は、新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の世界的な流行により、信頼できる情報を得る権利を阻害する要因が明確になってきており、さまざまな危機を抱えるジャーナリズムの将来にとり、今後10年が決定的な意味を持つ」と述べている。
アフリカでは、記者たちが、権力者に対して真実を語ることを恐れざるを得ない状況に直面している。ニューヨークに本部を置く民間団体、ジャーナリスト保護委員会(CPJ)によると、例えばエスワティニ王国(旧名スワジランド)では、現地の記者らがムスワティ3世国王について批判的な報道をしたとして嫌がらせや反逆罪に問うという脅迫を受けていた。
ソマリアでは、ラジオジャーナリストのモハメド・アブディワハブ・ヌール氏が3月7日以来、アルシャバブとの繋がりが疑われて(本人は否定している)投獄されている。
ナイジェリアでは、記者たちは、新たに法制化された「新型コロナウィルス及びその他の感染症に関する法律」により、報道内容が「誤った或いは有害な情報」と当局が判断した場合は投獄されるリスクに直面している。ナイジェリアはCPJが発行している「免責番付」(Impunity Index)で最下位近くに位置している。オンラインニュースサイト「サハラレポ―ターズ」創立者で人権活動家のソウォレ・オモイェレ氏は裁判所が昨年12月に釈放命令を出しているににもかかわらず未だに投獄されたままである。
ユネスコのオードレ・アズレ事務局長は国際報道自由デーに寄せて、「私たちが新型コロナウィルス感染症の蔓延により将来の不安と心配に苛まれているなかで、自由な情報は、私たちがこの危機に正面から対峙し、理解し、克服していくうえで欠かすことのできないものです。」と指摘したうえで、「そこでユネスコは、他の国連諸機関と協力して、パンデミックを悪化させ人々の命を危機に晒す噂や偽情報といった『インフォデミック』と闘う取り組みを進めています。」と語った。
メディアは、政府による抑圧に加えて、資金難による経営危機にも直面している。ニューヨークタイムズ紙は、かろうじて活動を続けている地方の報道機関に対する支援を求める特別な呼びかけを行った。米国では新型コロナウィルス感染症のパンデミックに伴い約36000人の報道関係者が一時解雇か自宅待機を余儀なくされている。
「広告収入が激減し消費者の消費志向が変化するなかで、ジャーナリズムの重要な部分を占める地域の新聞社がますます厳しい局面に立たされています。あなたの近くの新聞社が存立の危機にあるのです。地元の新聞を購読或いは寄付をお願いします。」と同紙は支援を呼びかけている。
アントニオ・グテーレス国連事務総長とユネスコのアゾレ事務局長、ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官は、5月3日に開催された報道の自由と新型コロナウィルスへの取り組みをテーマにしたオンライン会議に参加し、自由・独立で事実に基づくジャーナリズムを断固として守っていく決意を語った。国連は毎年「国際報道自由デー」にあわせて特別行事を開いているが、今年はこのオンライン会議が中心的なイベントであった。
このオンライン討議では、新型コロナウィルス危機を口実に報道の自由や市民権を制限した政権に対する非難の声が上がった。その他の主な参加者としては、カナダのフランソワ・フィリップ・シャンパーニュ外務大臣、ヨネス・ムジャヒド国際ジャーナリスト連盟会長、フィリピンラップラ―ニュース創立者で調査ジャーナリストのマリア・レッサ氏、国境なき記者団のクリストフ・ドロワール事務局長、そしてフェイスブックを代表したモニカ・ビッカート氏が挙げられる。また、オランダ、ノルウェー、欧州委員会の代表がビデオメッセージを寄せた。
グテーレス事務総長は、ユネスコが発表した昨年世界で57人の記者が殺害されたとする数値をあげ、報道の自由が直面している深刻な現状を強調した。「私たちは、新型コロナウィルスの世界的蔓延という新たな試練とともに、有害な健康アドバイスから狂気じみた陰謀説に至るまで、様々な虚報が爆発的に拡散しているのを目の当たりにしています。これに対抗できるのは、科学的に検証された事実に基づくニュース解説に他なりません。そしてそれを実現するには、メディアの自由と独立した報道が保証されなければなりません。つまり、ユネスコが正しくも指摘している通り、「公平なジャーナリズム」の存在が不可欠なのです。これは人の生死に関わる問題であることから、単なるスローガンに留まる問題ではありません。」とグテーレス事務総長は語った。
バチェレ国連人権高等弁務官は、「国際法の下で緊急時に市民権に制限が加えられる場合は、合理的な必要の範囲内において適切かつ相応なものでなければならない。」という事実を指摘したうえで、世界の指導者らに対して、記者とメディアの報道の自由を標的としたあらゆる攻撃をやめるとともに、そのような行為を非難するよう求めた。(原文へ)
INPS Japan
*インフォデミックは「情報の急速な伝染(Information Epidemic)」を短縮した造語で、「正しい情報と不確かな情報が混じり合い、人々の不安や恐怖をあおる形で増幅・拡散され、信頼すべき情報が見つけにくくなるある種の混乱状態」を指す。
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