ニュースヘッドラインの向こうにあるヒューマンドラマを映し出すフィルム・フェスティバル

ヘッドラインの向こうにあるヒューマンドラマを映し出すフィルム・フェスティバル

【トロントIPS=ベアトリス・パエス】

今年で9回目となるトロント・ヒューマンライツ・ウォッチ(HRW)・フィルム・フェスティバルが、TIFFベル・ライトボックス劇場で2月29日から3月9日まで10日間に亘って開催されている。

このフィルム・フェスティバルは、虐待、トラウマ、暴力等の重い問題に正面から取り組む作品を取り上げてきたが、とりわけ、世界各地の人権侵害の犠牲者や活動家による勇気ある闘いを描いた作品が紹介されることでも知られている。

 「出品作品はいずれも、難しい題材を扱ったものですが、一方で視聴者の魂を鼓舞するものばかりです…つまり、登場人物がいかにして過去の人権侵害を克服したか、あるいは、いかにして人権侵害を受けた人々を守ってきたかといった現実が描かれています。」「(これらの作品を鑑賞したら)きっと新聞のヘッドラインが違って見えてくるでしょう。」とプログラム担当のアックス・ロガルスキー氏はIPSの取材に応じて語った。

今年のフェスティバルで最初に上映された作品は特別機(Special Flight)という、スイスのフランボワース収容所に拘留された難民申請者や不法移民に焦点をあてたドキュメンタリー映画である。そこで収容者たちには3通りの運命が待ち構えている-①恩赦、②「特別機」による強制送還、そして③自主的な国外退去である。移民たちに上告の権利はなく、そこでの裁定が彼らの運命を決している。

この作品はフェルナンド・マルガ監督の2008年のドキュメンタリー作品(Fortless:難民申請所を取材)に続くシリーズ第2作である。なお次回作では、国外退去処分になった移民たちのその後を追った一連のドキュメンタリーを制作し、インターネットで配信する予定である。

これは私の故郷…ヘブロン(スティーヴン・ナタンソン、ジウリア・アマティ監督作品)では、ユダヤ人入植者とパレスチナ人住民双方の証言と、長年に亘る両者間の紛争で板挟みになっている人々のインタビューがまとめられている。

この作品でも勇敢な人々が登場するが、元イスラエル軍兵士で、今は立場を変えてツアーガイドとして働いている青年もその一人である。彼は、分裂した街ヘブロンを訪れる観光客に、この街に生きる人々の暮らしや佇まいを、親しみをもってありのままに紹介している。

ナタンソン監督はIPSの取材に「多くの出来事がほとんどニュースにならない中、本作品でインタビューに答えてくれたイスラエル人の中には、ヘブロンの現状について極めて明確に語ってくれる人々がいたのは良かったと思います。」と語った。

古代から預言者アブラハムの墓所がある地として有名なヘブロンには、16万人のパレスチナ人と600人から800人のユダヤ人入植者、そして入植者護衛を任務として進駐してきた2000人のイスラエル兵士が居住している。

この地では、パレスチナ住民にとって、ユダヤ人入植者から嘲りや脅迫、投石を受けるのは日常茶飯事の風景となってしまっている。またときには、両親に扇動されたユダヤ人入植者の子供までが、パレスチナ人に対する攻撃に参加している。

ヘブロンは、かつては交易の一大中心地として、また一神教(イスラム教、キリスト教、ユダヤ教)の聖地として繁栄を謳歌した歴史があるが、今では長引く紛争の影響で、板でふさいだ商店と閑散とした通りが目立つゴーストタウンと化している。

ナタンソン・アマティ両監督は、この作品で、他地域から孤立し、住民同士の対立が深まっている状況を克明に捉えている。

「私たちにできることは状況を観察し質問を投げかけることぐらいでした。この作品にはそうした質問と回答が記録されています。現在のヘブロンの状況を見る限り、今後状況が好転するとはとても想像できません。」とナタンソン監督は語った。

一方、リー・ヒルシュ監督は、ドキュメンタリー作品を通じて、タイラー、アレックス、ケルビー、ジャメーヤといった「いじめ」の標的になった米国の子ども達の日常へを誘ってくれる。

映画The Bully Project(いじめっ子プロジェクト)は、彼らが直面している精神的・肉体的虐待を捉えるにとどまらず、「kids will be kids(所詮子供のすることだから)」といじめ問題について真面に対処しようとしない学校側の驚くべき対応の実態についても暴露している。

そして今年のフィルム・フェスティバルの最後を飾る作品が、モルディブ共和国のモハメド・ナシード前大統領の活動を追った島の大統領である。ジョン・シェンク監督は、カメラと共にナシード大統領に影のように付き添うことで、気候変動問題に対する取り組みから経済の復興や民主主義の育成まで、大統領が直面した様々な難題を捉えている。

ナシード大統領の任期一年目における政界の内幕へのアクセスを許可されたシェンク監督は、このドキュメンタリー作品で、政治的な取引の実態を捉えることに成功している。本作品は昨年のトロント・フィルム・フェスティバルでも上映された。

今回のフィルム・フェスティバルでは、その他2つの作品が上映された。一つは、グアテマラで起こった大量殺戮事件に対する裁きを求める映画グラニート:独裁者の捕え方(監督:パメラ・イエーツ)、もう一つは、ミミ・チャカロヴァ監督がモルドヴァ、トルコ、ギリシャ、ドバイで綿密な取材を重ねて制作した国際人身売買の実態を記録したドキュメンタリー映画セックスの対価(The Price of Sex)である。

「これらの作品は、逃避主義とは対極に位置するものです。なぜなら、これらのドキュメンタリー映画は、あなたがあまり知らないかもしれない現実…つまり誰か他の人が経験した現実の一部を疑似体験させてくれるものだからです。」とロガルスキー氏は語った。(原文へ

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

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