ニュース視点・論点|視点|ついに核兵器が違法化される(ジャヤンタ・ダナパラ元軍縮問題担当国連事務次長)

|視点|ついに核兵器が違法化される(ジャヤンタ・ダナパラ元軍縮問題担当国連事務次長)

【キャンディ(スリランカ)IDN=ジャヤンタ・ダナパラ】

2017年7月7日、最も非人道的で破壊的な兵器が発明され、不運にも広島・長崎で使用されてから72年目にして、国連加盟国の多数が参加する会議で、賛成122・棄権1・反対1で、核兵器を禁止する条約が採択された。

ロンドンに仮の所在地を置いていた創設されたばかりの国連が1946年1月に核軍縮を求める初の決議を採択し、この問題の明白な重要性を示してから、長い道のりであった。それ以来、国連総会のすべての会期において、核軍縮に関するさまざまな意味合いを含んだ決議が、それぞれ過半数によって採択されてきた。

The atomic bomb dome at the Hiroshima Peace Memorial Park in Japan was designated a UNESCO World Heritage Site in 1996. Credit: Freedom II Andres_Imahinasyon/CC-BY-2.0
The atomic bomb dome at the Hiroshima Peace Memorial Park in Japan was designated a UNESCO World Heritage Site in 1996. Credit: Freedom II Andres_Imahinasyon/CC-BY-2.0

他方で、核兵器保有国の数は9つにまで増えた。そのうち、1968年の核不拡散条約(NPT)で(保持を許された)核兵器保有国と認定されているのは5カ国しかない。その他多くの国々が、核の傘の下で身を寄せ合っている。主なものとしては、北大西洋条約機構(NATO)がある。

これらの国々、そして、抑止と拡大抑止の概念を念頭に置いて、新条約には他国が保有する核兵器を自国の領土に配備することを禁止する条項が盛り込まれている。NPT全体に関しては、反対派の恐れに根拠がないことを示すために、不拡散の規範が新条約において格段に強化されている。

7月7日の条約文言の採択に向けた最終段階において、3つの明確に異なる核軍縮運動の潮流が合わさった。すなわち、(a)献身的な一群の国家が率いてきた、国連自体による70年以上のプロセス、(b)市民社会の活動、(c)軍縮分野に忘れられない足跡を残し、とりわけ、7月7日採択の核兵器禁止条約の前文に影響を及ぼした「人道イニシアチブ」、の3つの潮流である。

一里塚

国連における歴史的局面としては、1978年の第1回国連総会軍縮特別会議(SSODI)を挙げるべきだろう。その最終文書は、核兵器の廃絶という目標を明確に優先事項として掲げた、軍縮に関して達成された国際的コンセンサスの高い水準を示している。

その後締結された、様々なグローバル条約及び地域条約が、同じ目標を掲げている。こうした条約には、最も締約国が多い軍縮条約が含まれる。たとえば、第6条の下で、未だ効果を発揮してはいないが、核軍縮に向けた交渉を「誠実に」行うことを規定した核不拡散条約(NPT、1968年)、その発効に向けて依然として8カ国の批准が待たれる包括的核実験禁止条約(CTBT)が含まれる。

また、地域レベルでも多数の核兵器禁止地帯条約(無人の南極地域をカバーする南極条約、ラテンアメリカ・カリブ海地域に関するトラテロルコ条約、南太平洋に関するラロトンガ条約、アフリカに関するペリンダバ条約、東南アジアに関するバンコク条約)が発効し、広大な地域において核兵器の配備ができなくなっている。これらの条約のほとんどが、核兵器禁止地帯化を尊重するNPT上の核兵器保有国(=5大国)が署名した議定書によって補完され、非核兵器保有国による自発的な「アファーマティブ・アクション」として、大きな進展が見られた。

国際法の側面では、国際司法裁判所による1996年の勧告的意見は、核兵器の保有・使用の違法性を宣言した点で大きな成功ではあったが、その実効性は疑問に付されている。キャンベラ委員会などの一連の国際委員会もまた、説得力のある議論を展開した報告書を通じて核兵器の廃絶を呼びかけており、世界の世論に大きな影響を及ぼしてきた。

Nuclear Weapon Free Zones
Nuclear Weapon Free Zones

論争

広い意味では、核兵器保有国とその同盟国を片方、非核兵器保有国を他方に置いた論争は、「核兵器なき世界」という一見したところ共通の目標を達成するための英知を巡るものである。前者の主張は、まずは安全保障を確保したうえで、「ステップ・バイ・ステップ(段階的な前進)」で核軍縮を進めていくべきというものであるのに対し、後者の主張は、まずは核兵器の全面禁止に合意し、そのうえで信頼性のある国際検証手続きの下で核軍縮を徐々に進めていくというものである。

国連を舞台に非同盟運動(NAM)諸国や非政府組織(NGO)、市民社会によって政治的に支援されたこの後者のグループは、核兵器保有国とその支持勢力による妨害工作に直面して苛立ちを募らせてきた。その背景には、3つある大量破壊兵器のカテゴリーの中で、生物兵器化学兵器については、既に1972年と1993年に全面的な禁止条約が法的規範として確立されている先例があるにもかかわらず、核兵器のみが依然として禁止されていなかった事情がある。

ICAN
ICAN

化学兵器禁止条約の場合、規範は査察実施機関と実効的な検証体制によって支えられている。現在も続くシリア紛争において、アサド政権やこの代理戦争に介入した大国の支援を得た非正規武装集団による違反行為が報告されているが、だからと言って検証体制が無効化したわけではない。

長らくの間、NPT第6条が、非核兵器保有国が核軍縮を求めて闘う際の旗印であった。1995年にNPTが無期限延長されて以降、不満は高まっているかに見える。1995年、2000年、2010年のNPT運用検討会議において全会一致でなされた合意が、核兵器保有国によって恥知らずにも破られているからだ。NPTに参加していないインドとパキスタンによる核兵器拡散に対しては、友好的な核兵器保有国から報奨を与えられているかに見える一方、朝鮮民主主義人民共和国は国連安保理において核兵器保有国との緊迫した対立の中でますます厳しい制裁がかけられている。

この文脈の中で、オーストリアとスイスが、人道対応で申し分のない経歴を持つ国際赤十字委員会(ICRC)の支援を受けて「人道イニシアチブ」を開始した。これはNPTの内部から起こったもので、核兵器使用がもたらす壊滅的な人道被害に焦点をあてた一連の決議によって、国連での支持を高めてきた。この流れは、オスロ(2013年3月)、ナヤリット(2014年2月)、ウィーン(2014年12月)で開催された一連の「核兵器の人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議)を通じて大規模なうねりとなり、その当然の帰結として、2017年中に核兵器禁止条約交渉会議の開催を呼びかけた2016年の国連総会決議につながったのである。

大胆なイニシアチブ

NPT運用検討会議で合意文書が採択できず公約が履行されないことへの不満が高まる中で、市民社会は強力かつ大胆な要求をするようになっていった。NGOが主導した国際地雷禁止キャンペーン(ICBL)やクラスター爆弾を廃絶する運動は、当初は国連の枠外での条約採択につながった。それが国連に持ち込まれて、その正統性が確認され、次第に支持の輪が広がっていったのである。

ICAN
ICAN

より問題が大きく、保有国からの反対もより強い核兵器については、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が精力的にNGO連合を率いて、まずは2016年の国連総会決議の採択に漕ぎ着け、続いて2017年の核兵器禁止条約交渉会議の実現に成功した。

交渉会議開催については、核兵器保有国やオーストラリアなどの同盟国、さらに驚くべきことにカナダも交渉会議をボイコットした。NATOからは唯一オランダだけが交渉会議に参加したが、結果としては、核兵器禁止条約の文言を採択する最終決議に反対した。

コスタリカの有能な女性外交官であるエレイン・ホワイト=ゴメス大使を交渉会議の議長として選出したことには、大きな意義があった。常備軍を持たない世界でも極めて珍しい国であり、ノーベル賞を受賞したオスカル・アリアス元大統領を輩出したコスタリカは、ホワイト大使の外交的手腕とは別に、賞賛すべき実績を有している。

交渉会議の閉幕は、ちょうどハンブルクで開催されていたG20サミットと重なっていた。G20サミットは激しい抗議デモに直面し、メディアは、初のトランプ・プーチン会談と、トランプ大統領の気候変動政策が他のG20との間に生み出す不協和音に注目していた。核軍縮の問題に関して世界のメディアの注目度は、いつも不十分なものであった。交渉会議のクライマックスである7月7日の報道ですら例外ではなかったのである。

核兵器禁止条約にプラスの要因

数少ない論評を見ると、概して、9月に採択のために国連総会に提示される今回の条約の実効性に対して懐疑的なようだ。しかし、条約の将来にプラスになるいくつかの要因が存在している。

ひとつは、米国を含む44もの発効要件国による批准を要するCTBTとは異なって、今回の条約は発効のために50カ国という穏健な目標を置いていることだ。第二に、似たような条約の歴史を振り返ると、各国が署名する第一の波と、条約が完全に包摂的な性格を持つまでの間には長い時間がかかるかもしれないが、国際法としての条約の妥当性は揺るぎないものになる。

核不拡散条約(NPT)の条約案を承認した1968年の国連決議2373の場合は、投票は賛成95・反対4・棄権21であった。核兵器禁止条約の採択に賛成票を投じた122カ国はしたがって、安全保障上の懸念を人道的な関心と結びつける大胆かつエキサイティングな道を切り開いたパイオニアということになるだろう。

私たちは今、変革の時にいる。過激なイデオロギーが引き起こす暴力や紛争と、大国間の軍拡競争は、2016年には合計で1兆6760億ドルもの軍事支出に結びついている。9つの核兵器保有国は合計で1万5395発の核兵器を保有し、そのうち4120発は作戦配備されている。これらは、意図的なものであれ、あるいは、コンピューターのエラーやハッキングなどによる偶発的なものであれ、核戦争の大惨事を引き起こす脅威となっている。また、核戦力は常に近代化され、無謀な核ドクトリンによって実際に使用される危険性が増している。

民主主義の海賊版とでもいえるポピュリズムが欧米諸国や他の地域に広がっている。一方、故郷を追われ新天地を求める難民の波は第二次世界大戦以来最大規模となっており、ホスト国における経済格差の拡大や、マイノリティーに対する非寛容や差別が悪化する引き金ともなっている。こうした状況とは対照的に、核兵器禁止条約は、こうした困難な時代あって一筋の希望とも言えるものだ。(原文へ

※ジャナンタ・ダナパラは、元国連事務次長(軍縮問題担当、1998~2003)、元スリランカ駐米大使(1995~97)、元欧州国連大使(駐ジュネーブ、1984~87)。現在は、「科学と世界の諸問題に関するパグウォッシュ会議」の会長。本稿の見解は、ダナパラ氏個人のものである。

翻訳=INPS Japan

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