ニュース多様性の問題に取り組むドイツ

多様性の問題に取り組むドイツ

【ベルリンIPS=フランセスカ・ドジアデク】

ドイツでは、移住者に起源を持つ国民が人口の20%(約1600万人)を占める一方で、社会の底流には依然として外国人、出稼ぎ労働者(ドイツ語でゲストワーカー)、有色人種に対する根強い差別意識が蔓延り、多様性の問題に対して矛盾した面を抱えている。今日のドイツ社会は、愛憎併存したこの多様性の問題をいかにして見直すかという緊急の課題に直面している。

人口予測によると、25才以下人口の25%が移住者を祖先に持つという。「新ドイツ人」と呼ばれるこの人口集団は、政治や社会が彼らの存在により着目し、声を聞き届け、社会進出を受け入れるよう要求している。一方、より年配の移民世代の人々は、人種主義的な動機に基づく犯罪に対して手を拱いているドイツ警察当局の現状や、長年に亘る人種排斥に対して深い憤りを募らせている。

 ベルリン開市775周年を祝うイベント「ベルリン:多様性の都市」が開催された際、シーメンスやテレフンケンといった大企業の工場で日夜働いてきたトルコ移民労働者らは、1961年のベルリンの壁設置によって労働力不足になったドイツに引き寄せられるようにやってきた当時のことを思い起こした。

今日、彼らの孫たちは、引き続き「すでにボートは一杯だ(外国人が入る余地はないとするスローガン)」というドイツ社会に長年はびこるメンタリティーとそれに伴う偏見・差別に晒されている。

1989年のベルリンの壁崩壊後、「統合」がドイツ再統一のスローガンになった。しかし東西ドイツ人の統合が進んだ一方で、従来から西側にいたベトナムからの「ボ―トピープル」や、東側にいた出稼ぎ外国人労働者といった「存在を気づかれにくい少数派の人々」は、彼らのドイツ社会への統合を阻害する見えない壁(ベルリンの鉄筋コンクリートの壁より突き崩しにくい障壁)に直面した。

トルコ系ドイツ人の人気コラムニストで2011年にベルリン市から「統合賞」を受賞した、ハティス・アクユン氏は、出演したラジオ番組の中で、「私は『統合ということばは嫌いです。なせなら、この言葉は、誰が誰を統合するのか?それはなぜ?どのようにして?といった疑問を投げかけているように思えるからです。』と語った。

2005年、ドイツ政府は、少子高齢化問題に対処するために移民法を改正し、高度な技能を持つ専門家や自営移民への門戸を広げ、外国人留学生が職探しのために国内に1年在留する権利を新たに与えた。
 
移民法が改正されてまもなく、極右組織「国家社会主義地下組織」(NSU)のテロリスト集団がニュルンベルクにおいて、トルコ人店主のイスマイル・ヤサル氏を射殺した。ヤサル氏は、同組織が2000年9月から2006年8月にかけて行ってきた移民を標的にした連続殺人事件の3番目の犠牲者だった。

アクユン氏自身も、トルコ系市民がイスラム過激者とみなされ迫害がエスカレートしていった恐ろしい状況を経験している。

「私にとって最悪の時期は、ドイツ連邦銀行取締役員のティロ・サラジン氏が2010年に『ドイツの自殺』と題した排外主義的な書物を発表したのを受けて、民衆の間にイスラム恐怖症が広がった『サラジン論争』の頃でした。」とアクユン氏はIPSの取材に対して語った。
 
発行部数150万部のベストセラーとなった同書は、ドイツ社会の深層に蠢いている反移民感情を暴露した。

ベルリン市のディレク・コラット参事(労働・統合・女性問題担当)は、最近開かれた「2012統合サミット」(ドイツ多様性憲章主催)で講演した際、「依然として履歴書にトルコ系の名前や写真がある場合、仕事を得られる確率は14%下がってしまいます。」と指摘した上で、公共部門にマイノリティー申請者を惹きつけるキャンペーン(例:Berlin need you)事例を引き合いに出しながら、マイノリティーへの機会均等と社会統合を推進する具体的な戦略をトップダウンで実現していくよう訴えた。

「従来のような中立的なアプローチではもはや不十分だと言わざるを得ません。」とコラット参事は、ドイツ全土から参集した人事及び多様性対策担当者を前に語りかけた。

当然ながら、大企業が新たなグローバル市場を見据る中、企業は、自主的な措置によって積極的に多様性の実現を図ろうとしている。

5年前、ドイツの電機・金融大手シーメンス(従業員52000名)のペーター・レッシャー最高経営責任者(CEO)は、自社の理事会構成について率直に「ドイツ人、白人、男性に偏りすぎている」とコメントして新境地を開拓した。今日、シーメンスのブリギッテ・エーデラー取締役は、多様性に関わる問題点を十分認識している。

「多様性は我々の日々の糧であり、グローバル・プレイヤーとしての主要な戦略的アプローチです。多様性に富む労働力は経済的にも理にかなったものです…つまり様々な背景をもつ社員からなる混成チームのほうが、より効率的に問題を解決できるのです。」とエーデラー取締役は語った。

ドイツ連邦政府労働社会省によると、ドイツは2025年には6百万人の労働力不足に直面するとみられている。

こうした差し迫った危機に対応するため、ドイツ議会は8月、EU域外の高度技能外国人受け入れ条件を緩和する「ブルーカード法」を施行するとともに、そうした技術者がドイツで就業、生活していくうえで役立つ重要情報をとりまとめたウェブサイト「ドイツへようこそ」を開設した。

またドイツの公的部門は、早急に職員の多様化をはかる改革が求められている。経済協力開発機構(OECD)によると、公的部門の職員に占めるマイノリティーの割合は、フランス、英国が20%なのに対して、ドイツは13%と大きく遅れている。

「警察には依然として多様化戦略と呼べるものがありません。内部を支配しているのは同化主義的なものの見方で、そこに異なるものを認め合うという文化はありません。私はこの現状を改革したいと考えています。」とベルリン警察本部のマルガレーテ・コッパース次長は語った。

コッパース次長の発言は、2000年9月から06年8月の間に9人が犠牲になった移民商店主連続殺人犯を警察が未だに逮捕できずにいる件で、警察全体が捜査の対象となっている重大に時期になされた。

専門家らは、犯人逮捕に至っていない原因は、警察組織全体に人種差別を容認する風潮が横行してきた結果であり、ドイツにおいては、1994年の英国のマクファーソン報告(人種差別を動機とした黒人青年の殺人事件について、捜査に当たった英国警察内部の人種差別体質を明らかにした報告書:IPSJ)のように、警察の差別体質を公に認めて改革するには未だに程遠い状況にある、とみている。

チュービンゲン大学のキエン・ギー・ハ教授は、いわゆる1979年の「ボ―トピープル」の一員としてドイツにきた。

ハ教授は、アジア移民とドイツ人の関係について研究した著書の中で、彼の幼少期に大きな影響を及ぼした1980年8月のハンブルク難民保護施設襲撃事件(18歳と22歳のべトナム人青年が殺害された)について想起している。

事件後、ドイツ警察当局は、正式な捜査を行わず、殺人事件にも関わらず本件を政治的動機による犯罪(PMC)カテゴリーに登録することも統計記録に残すことさえしなかった。ドイツが、より多様で包摂的な社会に向かうには、このような(人種偏見に基づく)過去の犯罪を公式に認めることが重要な第一歩となるだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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