【国連IPS=ヨエル・イェーガー】
もしシリコンバレーが「平和の文化」のために存在していたとしたならば、産業の次なる大再編の担い手として、ほぼ間違いなく世界市民に目を向けるだろう。
「世界市民、すなわち、人類は一つであるという考え方は、『平和の文化』の中核的な要素です。」と述べるのは、元国連事務次長・高等代表のアンワルル・チョウドリ大使である。同氏は、9月9日に開催された「平和の文化」について討論するハイレベル・フォーラム(193加盟国、国連諸機関、市民社会、メディア、民間セクターなどが参加)において、IPSの取材に答えた。
終日開催された今年のハイレベル・フォーラムでは、「平和の文化に向けた女性や若者の役割と貢献」と「平和の文化への道筋としての世界市民」をテーマとした双方向型のパネル討論などが開催された。
チョウドリ大使は、「平和の文化」を国連の課題とする動きを90年代後半に主導した。「平和の文化」の概念は、国連教育科学文化機関(ユネスコ)において進化を遂げていたが、チョウドリ大使は、より高いレベルで討議されるべき問題だと感じていた。
「国連は、従来の平和維持活動から『個人とコミュニティーの変革に焦点をあてる』姿勢へと『ギアをシフト(=態度を変える)』する必要がありました。」とチョウドリ大使はIPSの取材に対して語った。
1999年、チョウドリ大使の働きかけもあって、国連総会は「平和の文化に関する宣言及び行動計画」と題する画期的な決議53/243を採択した。同決議には、平和の文化は、非暴力、領土の一体性、人権、開発への権利、表現の自由、男女平等の推進を基礎にした生活のあり方であると明記されている。
決議の第4条には、「すべてのレベルにおける教育は平和の文化を構築する主要な手段の一つである。」と明記されており、諸政府や市民社会、メディア、親や教師に対して、平和的な文化を推進するよう呼びかけている。
この1999年の決議は、2001年から10年には「世界の子どもたちのための平和の文化と非暴力の国際10年」に結実している。
この国連の10年は公式には終了しているが、決議53/243が採択されてから15年が経過した今日においても「平和の文化」は意義を保ち続けている。国連総会は、平和の文化構築に対する加盟国の意思を再確認するため、毎年この決議を採択している。
2012年と13年の過去2回のハイレベル・フォーラムの成功を受けて開催された今年の全日のイベントは、加盟国や国連機関、市民社会に対して、非暴力や協力、全ての人々にとっての尊厳をいかに促進できるかについて意見交換する機会を提供する場となった。
第3回「平和の文化」について討論するハイレベル・フォーラムは、潘基文事務総長の「平和の文化」を支持する以下の演説で始まった。
「私たちは、諸社会の間で、そして社会内において、文化的なリテラシーと文化外交の新しい形を必要としています。グローバルな連帯と世界市民性を深めるための教育カリキュラムを必要としているのです。…私は毎日のように、仲裁や紛争解決、平和構築、平和維持の新しい文化を築く必要性を目の当たりにしています。」
パネル討論では、平和の文化を実現するためのいくつかの鍵について話し合われた。
「UNウイメン」のラクシュミ・プリ事務局長代理(国連事務次長補)は、平和の文化を構築し維持するうえでの女性の役割に焦点を当てた。
プリ事務局長代理は、「女性や母親、祖母、その他の家族の構成員は、しばしば子どもたちにとって最初の教育者となります。彼女たちは、若者に平和の価値を教える重要な役割を果たしてきましたし、またそうすることができるのです。」と指摘したうえで、「女性は紛争予防の主体とみなされねばなりません。」と語った。
パネリストらは、女性は平和構築の場でリーダーシップを発揮し解決策を打ち出すべきという点で一致した。
若者たちもまた、「平和の文化」を実現するうえで、重要な役割を果たす。
国連事務総長の青少年問題特使であるアフマド・アルヘンダウィ氏は、「若者は平和の主体になることができます。」と指摘したうえで、「人類で最大の人口比率を占める世代が、現代の重荷ではなく、機会となるようにするため、私たちは協力していかねばなりません。」と語った。
米平和研究所ジェンダー平和構築センターのキャサリン・キューナスト所長は、創造的でエネルギーに満ちた起業家精神を引き合いに出しながら「平和の文化」に関する新しい観点を提唱し、拍手喝采を受けた。
「私たちは、平和構築にインセンティブを与える必要があります。」とキューナスト所長は指摘したうえで、「まずは、平和の文化を最初の活動として位置づけるべきです。私たちに必要なのは、グローバルな問題解決に非暴力的なアプローチで臨んでいくためのシリコンバレーなのです。」と語った。
全米平和アカデミー(ニューヨーク)のドロシー・マーヴァー会長は、共有型経済やグローバル・コモンズ、バイオリージョン(生命地域)対話といった、世界市民の台頭の先駆けとなる、最新動向や概念について指摘した。
人間のコミュニティーとして、「私たちは『私』から『私たち』へというシフトを生み出しつつあります。」「世界市民は、『私から私たちへ』を平和につなげる道筋に他なりません。」とメイヤー会長は語った。
国連は世界市民や平和の文化を強力に支持しているが、そのメッセージを拡散するためにさらに多くのことができるはずだ、とチョウドリ大使は言う。
「国連は、これまで平和維持のハード面に焦点を当て、その資金の大半を投じてきましたが、今後は個人を平和と非暴力の主体に変えることに重点を置いていくべきです。」とチョウドリ大使は指摘したうえで、「教育インフラへ資金を投入するだけでは、正しいタイプの教育に資金が回るかどうかの保証がないため、十分ではありません。国連は、若者たちが世界市民になれるような教育システムを構築するために、世界各地のコミュニティーや社会ともっと協力していかなくてはなりません。ただしそれは、包括的なアプローチかつ、変革的な投資でなくてはなりません。」とチョウドリ大使は語った。
マーヴァー会長は発表の中で、「思考にはエネルギーが伴います。私たちは何であれ、焦点を当てようと選択したことについて、人生の中でより多くのものを手にするでしょう。」と所見を述べた。
平和の文化の支持者らは、この日のハイレベル・フォーラムで得たエネルギーやアイディアが人間社会に世界市民のメッセージを広げ、真の変革につながっていくことを願っている。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
関連記事: