【ニューヨークIDN=J・ナストラニス】
越境移動の管理強化とそれにともなう難題に取り組み、移住者の権利強化と持続可能な開発に貢献する包括的なグローバル・コンパクトに各国が合意したことについて、アントニオ・グテーレス国連事務総長は「重大な成果だ」として歓迎し、ミロスラフ・ライチャーク国連総会議長は「歴史的瞬間」と表現したが、今回の合意は、こうした関係者の努力を称賛するレトリック以上の大きな成果であった。
グローバル・コンパクトは法的拘束力を持たない協力の枠組みだが、(移民・移住者をめぐる国内における対処や国際協力のあり方の枠組みとなる)文書案「安全で秩序ある正規移住のためのグローバル・コンパクト(「移住に関するグローバル・コンパクト」)」が史上初めて、加盟国政府、地方自治体職員、市民社会、移住者らが参画した1年以上に亘る議論や協議を経て合意に達した。
文書案は、各国の立場の違いを乗り越えて7月13日に最終合意された。9月に任期を終えるライチャーク国連総会議長はこの点について、「大きく立場が異なる政府代表らも議論を尊重し互いに耳を傾ける方法を見出しました。私は人間性が常に優位に立つものだと確信しています。だからこそ人類は、国際連合を創設し、国連総会のような組織を作ったのです。国連総会では、全ての加盟国が対等の立場にあり、あらゆる問題について議論がなされ、あらゆる声に耳が傾けられるのです。」と指摘した。
また、12月10日・11日にモロッコのマラケシュで国連総会の一環として開かれる会議で各国首脳により正式に採択されることになる「移住に関するグローバル・コンパクト」は、重要な局面で合意された。
記録によると、グローバル・コンパクトに関する協議が開始されてから、移民の死者数は既に2098人に達しており、そのうち約400人が子どもである。犠牲者の多くは、報道されることもなく、砂漠やその他の危険な道のりで命を落としている。また、無数の女性や女児が人身売買の犠牲者となっている。そして、文書案が議論されている間も、何千人もの移民労働者が、「自身の健康や安全、そして家族の安泰を心配してきた。」
ライチャーク国連総会議長は、「同時に、移住問題は引き続き政治的な道具として、あらゆる分野で利用されてきました。その内容はしばしば事実に基づくものではなく、政治的な関心に基づいて問題化されてきたのです。」と指摘した。そして、「移住に関するグローバル・コンパクト」がもたらす大きな可能性を説明して、「この合意は、移住を奨励するものでも、止めようとするものでもありません。法的拘束力を持たず、命令するものでもありません。また、何かを義務付けるものでもありません。そして、各加盟国の主権を完全に尊重しています。」と語った。
しかしその代わり、「この合意により、国際社会は(移民問題に対して)従来の反発モードから積極的に問題解決をはかるモードに転換することができます。これにより移住がもたらす利点を引き出すことが可能となり、リスクを緩和できるようになるのです。つまり移住に関するグローバル・コンパクトは新たな協力のためのプラットフォームを提供してくれるのです。また、人々の権利と国の主権の間にある適切なバランスを見出す手助けともなります。」とライチャーク国連総会議長は語った。
グテーレス事務総長は、今回の合意は、「越境移住とは、まさに本質的な意味で、国際的な現象であり、この現実を効果的に管理するには、すべての国々に好影響をもたらす国際協力が必要であるということ。そしてあらゆる個人に、安全を確保し尊厳を持って保護を受ける権利がある」という加盟国間の共通の認識を反映したものである、と語った。
「この包括的な枠組みは、一連の目的、行動、履行にむけた道筋、フォローアップ、再検討から成っており、非正規移民の数と影響を抑制する一方で、安全で秩序ある正規移住を促進することを目的としています。」とグテーレス事務総長は付け加えた。
グローバル・コンパクトは、「持続可能な開発のための2030アジェンダ」と「難民と移民のためのニューヨーク宣言」で表明された公約に深く根ざしており、全ての移民の権利を尊重しつつ、あらゆる国々やコミュニティーのために、越境移動の全ての側面を適正に管理する、初の世界的(=グローバル)な合意(=コンパクト)となる。
2016年9月19日、国連総会は全会一致で「難民と移民のためのニューヨーク宣言」を採択した。「ニューヨーク宣言」は難民と移民の権利を守り、人命を救うとともに、世界規模で生じている大規模な人の移動に対する責任を共有するという政治的意志を表明した。この宣言に基づき、国際社会は難民および移民をめぐる課題に関する枠組みとなる二つの「グローバル・コンパクト」を2018年内に採択することになった。
ニューヨーク宣言の採択にあたって加盟国は:
・やむなく逃れることを強いられた人々との、心の底からの連帯を表明した。
・難民と移民の人権を完全に尊重する義務を再確認した。
・難民を保護し難民を受入れている国々を支援することは国際社会が共有する責任であり、より公平に予想ができる形で責任分担を果たすことに同意した。
・難民と移民の大規模な移動により影響を受けている国々を堅固に支援することを誓った。
・包括的な難民対応枠組み(CRRF)の核心要素に合意するとともに、
・「難民に関するグローバル・コンパクト」及び「移住に関するグローバル・コンパクト」の採択に向けて取り組んでいくことを合意した。
アミーナ・J・モハメッド 国連副事務総長は、国家主権と人権、自由意思による移動の中身、開発と流動性の関係、社会的一体性を支援する方法等、移住問題が引き起こす深刻な問題に注目を集めた。
「このコンパクト合意は、多国間協調主義が持つポテンシャル、つまり、世界的な協力を必要とする問題について、それがどんなに複雑で議論を呼ぶものであったとしても、国際社会が協力し合う能力があるということを示すものとなりました。」とモハメッド国連副事務総長は指摘した。
ルイーズ・アーバー国際移住に関する国連事務総長特別代表は、「人間の流動性はこれからも人類に常につきものですから、(移住問題に伴う)混沌として危険で搾取的な側面を新しい正常(ニュー・ノーマル)にしてはなりません。」と断言した。
「グローバル・コンパクトが履行されれば、安全と秩序、経済的な進歩、そして全ての人々に恩恵が及ぶ経済発展がもたらされることになります。」とアーバー特別代表は強調した。
「今回の最終合意は取り組みの終わりではなく、向こう数十年に亘って移住に関する世界的な課題を方向づけていく新たな歴史的取組の始まりに他なりません。」とウィリアム・レイシー・スウィング国際移住機関(IOM)事務局長は語った。
「文書案を協議する過程で、国連加盟諸国は、移住問題は常に人々に関する問題であることを明確に認識してきました。メキシコとスイスの共同ファシリテーター並びに国際移住に関する国連事務総長特別代表による称賛すべき指導の下で採択された、移民を中心に据えたアプローチは、類を見ないものです。」とスイング事務局長は語った。(原文へ)
INPS Japan
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