【ベルリン/ジュネーブIDN=ジャヤ・ラマチャンドラン】
2011年12月19日に国連総会で採択された「人権教育および研修に関する国連宣言」の第1条には、「すべての人は、人権と基本的自由について知り、情報を求め、手に入れる権利を有し、また人権教育と研修へのアクセスを有するべきである」と記されている。
それから2年、同宣言の中で構想されたような既存の国際基準や公約の履行を支援し強化することによって人権教育を推進すべく、市民社会組織による世界的連合が立ち上げられた。同宣言は、「人種、性別、言語、宗教による差別なく、すべての者のために人権及び基本的自由を尊重することを促進し、奨励する」という国連憲章の目的と原則を再確認している。
「人権教育2020」(HRE2020)として新たに立ち上げられた世界的連合は、アムネスティ・インターナショナル、人権教育アソシエイツ(HREA)、創価学会インタナショナル(SGI)、その他9つの市民団体から構成されている。
2020年は、「人権教育および研修に関する国連宣言」採択10周年を翌年に控え、市民に対する良質の人権教育の提供という点で諸政府や国際機関、市民社会の到達度合いを測る重要な年になるだろう。
HREAの事業担当でHRE2020のコーディネーターでもあるアデル・ポスキット氏は、「国連宣言と世界プログラムによって、人権教育の明確な基準と公約が存在するようになりました。HRE2020は、効果的な履行が行われるようにするために、これらの基準や公約を体系的に監視することを目指しています。」と指摘したうえで、「私たちは諸政府に対してさらに説明責任を求めていきます。なぜなら人権を基軸にした包括的な教育は、個人に知識とスキルを授け、人権を日常生活の中で促進・擁護・適用する力を与えるものだからです。」と語った。
「人権教育および研修に関する国連宣言」採択2周年を記念して立ち上げられたHRE2020は、「同国連宣言」や「人権教育のための世界プログラム」など、国際人権基準における人権教育条項の各国による履行状況を体系的に監視することを目的としている。
「HRE2020のひとつの目的は、市民社会が国際人権の制度、条約、基準、政策を利用して諸政府に責任を果たさせる能力を支援強化することにあります。」とアムネスティ・インターナショナルの国際人権教育主任スネー・アウロラ氏は語った。
藤井氏は、この世界的連合が形成された経緯について、「アムネスティ・インターナショナル、HREA、SGIは、人権教育をすべての人々にとって現実のものとするためには、市民社会の主体がまとまって国際人権諸制度とより効果的に関与していく必要があり、そのためには、市民社会による協調的なプラットフォームが必要だとの認識で一致しました。私たちは、人権教育が世界的に履行されるよう、HRE2020を通じて他の市民社会の主体と協働していけることを楽しみにしています。」と説明した。
SGIのジュネーブ国連連絡所所長である藤井一成氏は、HRE2020という新しい取り組みの開始を歓迎し、「国連と市民社会が協働して、人権教育に関する国際政策に良い影響を及ぼすことができるでしょう。市民社会は、諸政府による政策とその履行における現実との間のギャップをなくす上で、きわめて重要な主体です。」と語った。
実際、池田大作SGI会長は、毎年発表している「平和提言」の2011版の中で、国際規模で人権教育を推進する「人権教育のための国際的なNGO連合の形成」を提案し、「『人権文化』という用語は、一人一人が自発的な意思に基づいて、人権を尊重し生命の尊厳を守り抜いていく生き方を、社会をあげて文化的な気風として根付かせることを目指すものです。」と指摘している。
HRE2020は世界各地の団体と協力し、現在の加盟団体は以下のとおりである。アラブ人権研究所、欧州民主主義人権教育(DAREネットワーク)、フォーラム・アジア、米国人権教育者の会(HRE USA)、ヒューライツ大阪、インフォーマル・セクター・サービス・センター(INSEC)、アフリカ人権開発研究所(IHRDA)、ピープルズ・ウォッチ、ペルー人権平和研究所(IPEDEHP)、ラウル・ワレンバーグ人権・人道法研究所。
新たな枠組み
HRE2020の関係者によると、同団体は、関係者が人権教育公約の履行状況を監視するために使えるような指標を含めた、簡単で、使いやすい新たな枠組みを検討しているという。
この枠組みは、学校部門や、教員・法執行官・軍人・公務員の研修や、医療関係者やソーシャル・ワーカーのようなその他の専門集団の研修において、人権教育に地位を与えるために必要な様々な指標や関連説明を含んだものになる予定である。また、若者と大人を対象にした不定形型(non-formal)人権教育の取り組みのための指標も含まれる予定である。
この監視枠組みには、「人権教育のための世界プログラム」に沿うように、次のような内容が含まれる。つまり、①立法・政策文書における人権教育、②カリキュラム・学習教材における人権教育、③教育・研修プロセスにおける人権教育、④評価、⑤訓練者の育成、である。
HRE2020は、条約委員会への報告や普遍的・定期的過程)審査(UPR)、および非政府主体からのカウンター・レポート(Shadow Report)の準備に伴う協議過程において、市民団体がこの枠組みを利用することを期待している。この枠組みはまた、諸政府や条約委員会が人権教育・研修を実施する方法を具体的に探るための手掛かりを提供するだろう。
この世界的連合は、とりわけ、1993年にウィーンで開かれた世界人権会議に刺激を受けて作られたものである。同会議は、あらゆる学習機関のカリキュラムに、人権や人道法、民主主義、法の支配を内容として含めるよう、すべての国家と機関に要請した。また、人権への普遍的公約を強化することを視野に入れた共通の理解と意識喚起を達成するために、国際的・地域的人権文書で規定されているように、平和や民主主義、開発、社会的正義を人権教育に含めるべきであるとした。
また、各国首脳が「人権教育のための世界プログラムの履行を通じて、あらゆるレベルにおいて人権教育・学習の促進を支持し、全ての国家に対してこの点におけるイニシアチブの進展を促した「2005年世界サミット成果文書」も、この世界的連合の基盤を提供している。
藤井氏は、「SGIとHREAは、人権教育に関する国連の国際政策決定過程に市民社会の観点と提案を反映させるべく、2003年ごろから長年にわたって緊密に協力してきています。」と語った。とりわけ、「人権教育のための国連10年」(1995~2004)、「人権教育のための世界プログラム」(2005~継続中)、「人権教育および研修に関する国連宣言」の文脈においてこうした協力がなされている。
アムネスティ・インターナショナルは、とりわけ2007年に始まり2011年に国連総会での採択に結実した「人権教育および研修に関する国連宣言」の起草過程が以来、ジュネーブの国連人権理事会の場において人権教育に関するこのようなアプローチを活発化させている。
起草過程では、国連人権理事会に市民社会から効果的にアプローチできるように、SGIジュネーブ国連連絡所とアムネスティ・インターナショナル国際事務局が互いに緊密に協議した。(原文へ)
SGIの藤井氏は、ジュネーブの欧州国連本部を舞台に、人権教育の文脈でこういった国連政策決定の過程全体に参加してきた主要な市民社会ネットワークのひとつは、ジュネーブの「人権教育学習NGO作業部会」(NGO WG on HREL)であると語った。同NGO作業部会は、国連NGO会議(CONGO)の枠内に設置されたNGOネットワークで2006年の設置以来、SGIはその議長職にある。
翻訳=INPS Japan
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