【国連IPS=オリトロ・カリム】
ミャンマーの治安状況は著しく悪化している。昨年3月に発生した大地震の被害からいまだ立ち直れない中、内戦の長期化に伴う軍事攻勢が続いている。2025年には人道危機が重大な転換点に達し、国連は軍と武装勢力による深刻な人権侵害の数々を指摘した。
8月12日、国連のマンデートに基づき設置された「ミャンマー独立調査メカニズム(IIMM)」は年次報告書を発表し、人権侵害の立証と加害者特定において大きな進展があったと明らかにした。報告書は、軍管理下の拘置施設での組織的拷問、学校・病院・住宅に対する空爆、さらにロヒンギャ難民に対する民族浄化の継続を詳述している。
「ミャンマーの拘置施設で組織的な拷問が行われていることを示す目撃証言などの重要な証拠を確認した」と、メカニズム責任者のニコラス・クムジャン氏は述べた。「施設を統括する指揮官を含む加害者の特定が進んでおり、訴追に踏み切れる司法当局を支援する用意がある。報告書は、残虐行為の頻度と深刻さが一層高まっていることを強調している」
報告は2024年7月1日から2025年6月30日までの期間を対象とし、1300件以上の証拠を収集。600件の目撃証言、膨大な写真や映像、法医学的資料を含んでいる。2021年のクーデター以来、軍は市民を大量に拘束し、多くを恣意的に逮捕、拷問にかけてきた。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の2024年の統計によれば、2021年以降の市民の犠牲者は約6000人にのぼり、そのうち約2000人は軍の拘禁下で死亡している。
アムネスティ・インターナショナルのジョー・フリーマン研究員は「数千人のミャンマー人拘束者が、医療も法的支援も食料も不十分なまま、尋問施設や刑務所で苦しんでいる」と警告。「拷問や虐待は常態化しているが、訴えれば報復として暴行、独房監禁、性的暴力を受ける危険がある」と述べた。
目撃者の証言によれば、2歳ほどの子どもまでが「親の代理」として拘束されている事例もある。被拘束者は殴打、電気ショック、絞殺、爪の剥ぎ取りといった拷問を受け、殺害される例もある。さらに、強姦や集団性的暴行、異物挿入、性器の焼灼、強制的な全裸や侵襲的検査、生理用品・産後ケア用品の拒否など、性暴力が広範に行われている。加えて、同性愛嫌悪や女性蔑視の罵声、暴力の脅迫も横行している。

報告書は、こうした行為の加害者に多数の高位指揮官が含まれると明言。これに対し、ミャンマー軍は「平和と安定の確保」を優先事項と強調し、最近の戦闘を「テロリスト」のせいにした。
また、ラカイン州では軍とアラカン軍の衝突により戦闘が激化。アラカン軍による斬首や拷問、即決処刑などの人権侵害も確認された。一方、軍とその関連組織も女性、子ども、高齢者を含む民間人の無差別殺害や空爆を繰り返している。特に州都シットウェでは出入り口を封鎖し、住民の移動や人道支援物資の供給を妨げている。
さらに報告書は、2016年と2017年の「浄化作戦」に関する調査も行った。この作戦で複数のロヒンギャ集落が破壊され、数千人がバングラデシュに逃れ、深刻な治安不安と性暴力が発生した。国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2025年の新たな戦闘により15万人以上のロヒンギャ難民がバングラデシュへ流入している。
IIMMは、難民キャンプや被害の大きな村で証言を収集し、生存者の体験を全面的に記録するとともに、具体的な加害者の特定を目指している。現在も市民団体、NGO、メディア、各国政府と連携し、責任追及と不処罰の終結に取り組んでいる。
ただし治安上の障害に加え、国連予算削減が活動を脅かしている。2025年の予算は27%削減され、2026年には正規職員を20%削減せざるを得ない見通しとなった。特に証人保護や性暴力・児童犯罪の調査資金は年内に枯渇する恐れがある。
「加害者が『誰かが見ている、証拠を集めている』と信じることが極めて重要です」とクムジャン氏は強調した。「そうした認識こそが、犯罪の記録と訴追に資する証拠収集を継続するうえで大きな効果を持つのです」(原文へ)
INPS Japan/IPS UN Bureau Report
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