【ジュネーブIPS=グスタボ・キャプデビラ】
国連の専門家と市民社会の支援によって製作された短編ドキュメンタリーで、近年注目されている人権教育のインパクトに焦点があてられている。
開会中の第21回国連人権理事会の公式関連行事として9月19日に上映された人権教育映画『尊厳への道―人権教育の力(A Path to Dignity – The Power of Human Rights education)』では、人権教育・研修、人権侵害の被害者と、加害者になる可能性のある人々にいかにして大きな変化をもたらしうるかについて描いている。
この人権教育映画では、インドの(かつて「不可触民」と呼ばれていた)ダリットの子どもたち、若くして嫁いた先で夫に暴力を振るわれつづけたトルコの女性、オーストラリア南部ビクトリア州の警察官らが登場し、人権教育によっていかに彼らの人生が大きく変わったかについて描写されている。
ナヴァネセム・ピレー国連人権高等弁務官は、この映画の冒頭で、「人権の完全実現には、すべての人間が自らと他人の人権、そしてその擁護のための手段に気づくことが必要です。」と述べている。
創価学会インタナショナル(SGI)平和運動局の河合公明氏は、IPSの取材に対して、この人権教育映画に込めたメッセージの核心は、「変化は一人から始まる。一人から変革を起こすことができる、との一点にあります。」「もし個人が強く、決意を持って立ち上がるならば、社会に対してインパクトを与える何かが起こりうるのです。その意味において、教育とは、知識と理解を与え、知恵を共有する、そして誰かがしっかりと立ち上がり、社会に貢献していくのです。つまりエンパワーメント(内発的な力の開花)のようなものです。」と語った。
この人権教育映画は、日本に本部を置く仏教系NGOであるSGIと国際的ネットワーク「人権教育アソシエイツ(HREA)」、国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)による共同プロジェクトとして制作された。
ダリットの子どもらは、インドの非政府組織によって人権教育を受け、ヒンドゥーのカースト制度のもとで彼らを苦しめてきた最も屈辱的な差別と闘い、それを乗り越えてきた。
トルコ東部に在住の先述の女性は、暴力的な夫から逃れる決意をしたために、自らの家族から追われる立場になった。しかし同国のある女性団体からの支援を受け、ついには、この自らの意思に反する結婚から逃れ、名前を変えるに至った。
オーストラリア・ビクトリア州の警察官は、専門家と専門組織から人権教育を受け、警察活動における人権侵害の苦情を減らすことができた。
「人権教育映画『尊厳への道―人権教育の力』は、人権教育を深化させ拡大する希望をもたらしました。」と国連人権理事会のコスタリカ代表クリスチャン・ギレルメット-フェルナンデス氏は、IPSに語った。
フェルナンデス氏は、ジュネーブのパレデナシオン(国連欧州本部)で行われた上映会で、「コスタリカは1940年代に軍隊を廃止し、かつては軍隊に振り向けられていた予算を教育や医療に向けることを決めました。」と語った。
「グッド・シェパード総会」代表のヘドビッヒ・ヨール氏は、「軍隊のない国は、人権教育の良い模範です。」と語った。
ギレルメット-フェルナンデス氏は、「映画監督で国際的な人権活動家でもあるエレン・ブルーノ氏が製作したこの28分のドキュメンタリーは、人権分野に大きなインパクトをもたらすツールです。」と語った。
「しかし、人権教育はまだ多くの課題を乗り越えねばなりません。」とフェルナンデス氏は言う。「我々は革新的、創造的であらねばならず、この映画のように行動しなくてはならないのです。」
さらにフェルナンデス氏は、「各国政府と市民社会は人権教育を国際組織の討議事項としなくてはなりません。特に、国連の最高レベルの機関である人権理事会のみならず国連総会での課題とすることが必要です。」と語った。
最大の課題の一つは、各国の政府関係者と政治家を教育することです、とフェルナンデス氏は語った。
河合氏は、「教育は知識を他人に与えるプロセスではありません。相互作用が教育の中心でなければならないのです...教育とは、誰かに働きかけて、自ら考え立ち上がることができるようにすること、それによって自分自身も影響を受けることなのです。」と語った。
河合氏は、伝統と人権という価値の間に横たわる溝について映画の中で語っていた若いトルコ人女性のケースに言及し、そうした溝は「バランス」によって乗り越えることができる、と語った。
「そして、バランスは、沈黙ではなく、話し合いをすることによって生まれてきます。」意見の違いは人々の間の相互交流の中で生まれるが、「その違いや溝を埋めるには、暴力ではなくまず対話が必要なのです。」と河合氏は強調した。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.