【イスタンブールIDN=ジャック・N・クーバス】
先進工業諸国G7のほとんどを含め、世界の指導者の多数が欠席したことは、間違いなく深い失望感を引き起こすものだった。しかし、国際連合70年の歴史で初めて開かれた世界人道サミットは、国際外交の恥ずべき失敗として歴史に埋もれることはないだろうし、この種のものとしては最後の会議になることもないだろうと専門家らはみている。
ドイツのアンゲラ・メルケル首相を除いてG7首脳らは揃って欠席したことが注目を浴びたが、173カ国・約9000人がイスタンブールで開催された世界人道サミットに出席した。この中には約60人の元首もいたが、そのほとんどが途上国からの参加であった。
すべての主要メディア、企業、非政府組織(NGO)もまた、毎日の本会議、15の特別分科会、132の委員会会合にサイドイベントというタイトなスケジュールをこなした。これらの会合は、人道的危機と、その背景にある原因、すなわち、紛争、経済的・環境的持続可能性の欠如、排除の問題の解決に関心を持つすべての利害関係者を巻き込むことを目的としていた。
とりわけ目を引いたのは、主要宗教と並んで比較的新興だが活発に人道支援活動に加わっている様々な宗教を基盤とした団体の積極的な参加があったことだ。
国連の潘基文事務総長がサミット開催を提案したのは2012年のことだが、その後、中東・北アフリカ地域(MENA)から移民が大量に流出し、こうした難民の扱いを巡って28か国からなる欧州連合(EU)が厳しい対応を迫られる事態に直面したことから、このサミットはより大きな意義を獲得することになった。
紛争地帯において全ての戦闘当事者から民間人を保護するという基本的なルールが無視される事態(=国際的武力紛争における新たな側面)が進行していることも、ハイレベル会合を開催するさらなる理由づけになっている。世界人道サミットでは、国際人道法と戦争法が、会議参加者によってしばしば言及された。
しかし、世界人道サミットの中心的な取り組みは、天災のみならず人災によって生命が危険に晒されている、世界で1億3000万人に及ぶ人々の苦しみを緩和する解決策を見出そうとすることにあった。とりわけサミットでは紛争や災害発生後に現場で難民らに物資を提供するといった従来の人道支援のあり方から、社会基盤を強化するなどして、難民など人道支援を必要とする人を生みにくくするための支援への転換が強調された。
実際、サミットの行動が明確に焦点を当てた事項は、防災と、人道支援活動におけるコスト削減の問題であった。
サミット初日にあたる5月23日、国連国際防災戦略事務局(UNISDR)のロバート・グラッサー国連事務総長特別代表(防災担当)は、温室効果ガスの排出が大幅に削減されなければ、リスク削減の取り組みが大きな効果を上げるのは困難になるだろうと警告した。
災害への事後的対処ではなく予防に焦点を当てることは、加盟国の利益になるとグラッサー特別代表は語った。というのも、被災者の数という点でも、経済的なコストという点でも、予防策の方がより効果的なアプローチだからだ。グラッサー特別代表は、国際社会の大多数の国々がこの目標に向けて真摯に協調していくことに関して楽観しているとの見解を述べた。
「災害リスクを削減しようとする私たちのあらゆる取り組みも、温室効果ガス排出削減で大きな進展がみられない限り、無に帰してしまうことでしょう。その帰結は、伝染病の蔓延や、高潮の発生、旱魃等、それが原因で紛争が引き起こされる恐るべきものになるでしょう。」とグラッサー特別代表は説明した。
国連国際防災戦略事務局(UNISDR)の計画では、加盟国が3つの行動領域において完全に協力することを期待している。
(a)災害損失データベースの構築。これは強靭なインフラを構築していくための投資ガイドラインとなる。
(b)過去からのデータの利用。しかし同時に将来のリスク予防にも体系的に役立つもの。「気候変動や人口増加、都市化といった背景的なリスク発生要因を考慮に入れて、国際社会には将来の災害損失について現実的な予測が必要です。」とグラッサー氏は強調した。
(c)そうした過去の経験を考慮に入れ合理的に決定する政府によるインフラ計画。
「これは、洪水地帯に病院を建設するといった類のものとは異なることを意味します。防災は経済計画の主要な要素にならなければなりません。」とグラッサー特別代表は結論づけた。
これらの目標を達成する時間枠は2030年である。これは、2015年3月に日本の仙台市で開催された第3回国連防災会議で採択されたUNISDRの「仙台防災枠組み2015-2030」と軌を一にしたものである。
それにしても、こんなに野心的で複雑な計画がこの期限までに結果を残せる可能性はどの程度あるのだろうか?
「もちろん100%です。」「私たちは、最終的には完全予防を目指しています。問題は、パリで開催された国連気候変動枠組条約第21回締約国会議(COP21)でなされた決定(=パリ協定)に国連加盟国がどの程度参加し、実行するかという点にかかっています。」とグラッサー特別代表はINPS-IDNの取材に対して語った。
「しかし、全体的に成功するか否かは、多くの要素や、そうした取り組みに関わろうとする利害関係者の意志にかかっています。この目標を追求するには、途上国の履行能力を強化する必要があります。とりわけ、後発開発途上国、小規模な島嶼・内陸開発途上国、アフリカ諸国、そして、開発戦略の優先課題がまちまちな多くの中所得国における能力強化が重要です。」と仙台枠組みの詳細に詳しい代表らはINPS-IDNの取材に対して語った。
人道支援に伴うコストの問題は、すべての国連加盟国にとっての大きな懸念事項となっている。従って、30のドナーや援助機関の代表らが人道支援の財源に関する一連の改革案について、世界人道サミットの場で合意したと発表したことは、会場に安堵感をもたらした。
このイニシアチブは、緊急支援をより効率的かつ経済面で効果的に行うことを目指したものだ。その目標は、今後5年間で実務コストを毎年10億米ドル削減することにある。この額は、人道支援にかかる費用全体のうち10%にも満たない。
「グランド・バーゲン」(重要取引)と名付けられた基本文書は、人道支援のために世界中から集められた多額の資金を処理する管理方法を改善するためにより強力なドナーや援助機関の間でなされた一連の公約として提示されたものだ。
例えば公約には、透明性の向上や予算策定上の国際基準の遵守、署名者間での意思疎通と協力の継続、データ入力と報告形式・手続きに関する共通プロセスの履行といった措置が含まれている。
予算策定と、下請け機関を通じた諸活動への資金提供について現在のやり方を変えることは、「多くの人たちが考えている以上にずっと複雑なこと」だとオランダのリリアン・プロウメン開発相は語った。プロウメン開発相は、上記の基本文書を取りまとめたハイレベルチームの一員であった。
世界人道サミットの際に個人的に話を聞かせてくれた現場の専門家は、「グランド・バーゲン」に関するコンセンサスに向けた交渉が難航したことを念頭に、こうした計画の実行可能性について懐疑的であった。
援助機関は困難な状況にある人びとに現金を供給する傾向があるが、米国の組織はこれに強く反対している。また、資金利用に伴う説明責任の問題も、ほとんどの大手ドナーにとって懸念事項であり続けている。
だとするならば、このサミットの後に何が残るのだろうか? 「これは一回限りのイベントではありません。」「これは単に始まりに過ぎないのです。」とグラッサー特別代表はINPS-IDNの取材に対して語った。(原文へ)PDF
*ジャック・N・クーバスはINPS/IDNトルコ特派員。
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