SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)ICAN事務局長、日本に袋小路からの出口を示す

ICAN事務局長、日本に袋小路からの出口を示す

【東京IDN=浅霧勝浩

「全ての国が、とりわけ日本が、核兵器禁止条約(核禁条約)に参加することを望みます。ノーモア・ヒバクシャ。」1月12日から長崎原爆資料館で始まった企画展のオープニングイベントに参加した「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長は、企画展のメッセージボードにこうつづった。

この企画展は、「核兵器の使用が人道上破壊的な結果をもたらすことへの関心を高め、核禁条約の制定に向け革新的な努力を尽くした。」として12月10日にオスロで行われたICANのノーベル平和賞受賞を記念したものだった。

フィン事務局長は3日後、広島の平和記念資料館において、昨年7月7日に国連総会で採択された核禁条約の早期締結を求める署名簿に記入した。また芳名録には、「広島市は人間性の最悪なるものを経験しました。しかし街を再建し、核兵器廃絶に取り組む中で、人間性の最善なるものを示してきました。広島は希望の都市であり、ICANは核兵器の終わりを見届けるため、皆様と共に力を尽くします。」と記帳した。

ICAN
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ICANのノーベル平和賞受賞から約1か月後に長崎大学の招きで初来日したフィン事務局長は、1945年に史上初めて原爆が投下された日本の2都市、長崎と広島と訪問した。

12月10日のオスロでの授賞式では、フィン事務局長は、被爆者を代表して登壇したサーロー節子さんとともに、メダルを受け取った。サーロー節子さんは受賞演説の中で被爆者について、「広島と長崎の原爆投下から奇跡的に生き延び」70年以上にわたり、核兵器の完全廃絶のために努力してきた、と語った。

核禁条約は、国連総会のマンデートを受けた「法的拘束力のある核兵器禁止条約の交渉を行うための国連会議(交渉会議)」で122カ国が賛成して採択されたが、101カ国からFBO(信仰を基盤とした団体)を含む468団体が参加したICANによる不屈の努力が、条約成立に大きな貢献をした。

Photo (left to right): The Norwegian Nobel Committee Chair Berit Reiss-Andersen; ICAN campaigner Setsuko Thurlow who survived the bombing of Hiroshima as a 13-year-old; ICAN Executive Director Beatrice Fihn. Credit: ICAN
Photo (left to right): The Norwegian Nobel Committee Chair Berit Reiss-Andersen; ICAN campaigner Setsuko Thurlow who survived the bombing of Hiroshima as a 13-year-old; ICAN Executive Director Beatrice Fihn. Credit: ICAN

日本は核兵器の戦時使用の惨害を経験した唯一の国だが、核保有国が参加しない形で核禁条約を作ることは、核兵器のない世界を遠ざけることになると主張して、交渉会議には参加しなかった。

1週間(1月12日~18日)にわたったフィン事務局長の日本訪問の趣旨は、政界のリーダーや国会議員に核禁条約への支持を訴えるとともに、安倍晋三首相に核禁条約に署名するよう説得を試みることにあった。

ICANはフィン事務局長の来日に合わせて安倍首相との面談を要請していたが、安倍首相がフィン事務局長が日本に到着した日に、欧州六カ国歴訪(エストニア、ラトビア、リトアニア、ブルガリア、セルビア、ルーマニア)に出発していたため実現しなかった。

長崎原爆資料館や広島平和記念資料館への訪問や核兵器禁止を目指して取り組んでいる活動家たちとの出会いは、明らかにフィン事務局長の心に忘れ難い印象を残した。フィン事務局長は記者団に対して、核兵器が二度と使用されないよう努めていくという「決意」が今回の訪問で一層強くなりました、と語った。

彼女のこうした決意は、東京における記者会見や国会議員との討論会でも示された。

フィン事務局長は記者団に対して、「日本の行動とリーダーシップが求められています。…日本は核軍縮の分野で道義的な権威になることができますし、それにはまずは安倍首相が、日本を核禁条約に加盟させるところから始められると思っています。」と語った。

また、「北朝鮮からの現実的な核の脅威が高まっているなかで日本国民の生命と財産を守る」ために日本には米国の核抑止が必要、という主張に反論して、「もし仮に核兵器の抑止力が平和をもたらすのであるならば、北朝鮮の核兵器を歓迎すべきという理屈になります。今やそれが平和をもたらしたと。しかし、現実にはそうはなっていません。…むしろ(核兵器が使用される)リスクが高まっています。このことは、核兵器が危機を煽る存在であることを明確に示しています。」と語った

フィン事務局長は、衆院第1議員会館で開かれた、政府と与野党9政党・会派の代表が参加した公開討論会(核兵器廃絶日本NGO連絡会主催)では、日本政府に対して核抑止に基づく現在の安全保障政策を見直し、核禁条約への加盟の可能性について議会で議論を始めるよう熱心に訴えるとともに、袋小路とも思われる現状からの出口を指し示した。

新衆議院第一議員会館の全景/ Photo by Yuukokusya
新衆議院第一議員会館の全景/ Photo by Yuukokusya

フィン事務局長は、核兵器禁止条約に参加しないことで日本は国際的な軍縮の動きのなかで「はずれもの」となるリスクがあると警告し、「日本は核禁条約に加盟しても米国のような核兵器国との軍事同盟を維持することは可能です。核禁条約は加盟国に対して、核兵器を使用、生産、保有せず、核兵器の使用を奨励或いは支援しないよう強く求めているのです。」と語った。

フィン事務局長は、「人権と人道法を尊重する全ての国々がそう(=核禁条約に加入)すべきです。」と強調したうえで、「私は(日本の国会には)是非とも核禁条約に関する調査委員会を立ち上げて、日本にどのような選択肢があるのか議論を始めてほしい。」と訴えた。

Beatrice Fihn
Beatrice Fihn

さらに、「(北朝鮮による)核戦争の脅威が増すなか、核軍縮につながるこうしたオプションを追求しないのはあまりにも危険であり、核禁条約への加入が最善の道です。」と語った。

これに関連して、フィン事務局長は、スウェーデンやスイス、また、北大西洋条約機構(NATO)の加盟国であるイタリアとノルウェーが、核禁条約を軍縮のオプションとして検討を開始している事例を紹介した。

しかし佐藤正久外務副大臣は、(核禁条約に対する)主要な核兵器保有国の支持がない現状を指摘し、この条約に参加すれば「日米同盟と核抑止力の正当性を損なうことになる。」と述べ、核禁条約への署名に反対する従来の日本政府の立場を繰り返した。

与党自民党の武見敬三参院政審会長もまた、「私たちは道義に基づく外交努力を行っていかなければなりませんが、同時に(北朝鮮からの)現実にある軍事的な脅威にも対処しなければなりません。」と述べ、核禁条約に対して慎重な立場を表明した。

一方、立憲民主党の福山哲郎幹事長はフィン事務局長の提案に賛意を示し、「日本が核禁条約の効果を調査していくことは非常に有効です。党としてこの問題を国会の中で議論できるように問題提起をしていきたい。」と語った。

共産党の志位和夫委員長は「(核禁条約で)核を違法化し悪の烙印を押すことが北朝鮮に核放棄を迫る大きな力になる」と述べた。希望の党の玉木雄一郎代表は、「核抑止力も維持しなければいけない私たちは、現実の脅威と核兵器のない世界という理想のギャップを埋めていきたい。」と述べたが、核禁条約への加入を支持するかどうかについては明言しなかった。

自民党と連立与党を組む公明党の山口那津男代表は、「国際的に核兵器を禁止する規範が確立されたことは画期的な意義があります。公明党も長期的、大局的な視野から条約に賛同します。」と述べた。

Beatrice Fihn, Executive Director of ICAN participating in an open forum with  representatives of nine political parties and the government on January 16, 2018./ Komei Shimbun
Beatrice Fihn, Executive Director of ICAN participating in an open forum with representatives of nine political parties and the government on January 16, 2018./ Komei Shimbun

また、日本の安全保障環境の現実を踏まえれば、「北朝鮮の核開発、保有を目前にして、核保有国と非保有国が共に協力、連携して当面の問題を解決しなければならない。」と指摘した。

山口代表は、その上で、核不拡散条約(NPT)体制下での核軍縮の重要性を力説。また、核禁条約も拡散防止に一定の効果があるとの考えを示すとともに、核軍縮の進展へ「日本は保有国にも賛同を得られる橋渡しをしたい。」と強調した。(原文へPDF

INPS Japan

This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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