【ニューヨークIPS=カルロタ・コルテス】
この夏米国の大半を見舞っている大干ばつは、都市化の進展や人口増加等により、ますます大きな負荷がかかっている水資源を、よりよく管理する必要性を物語っている。
8月10日、米農務省は、世界全体の4割を占める米国のトウモロコシ生産は、今年は予想より17%減になり、来年の食料価格全体は3~4%押し上げられるであろうと発表した。
しかし、ミズーリ大学エクステンション校(ブルームフィールド郡)の農業・農村開発専門家ヴァン・エアーズ氏は、今後も灌漑システムは拡張され続けるだろうとして、次のように語った。「私は20年前にミズーリ州南東部に移り住んだ当時、灌漑農地はおよそ30万エーカー程度でした。しかし今では灌漑農地は100万エーカーを超えています。今後もこの傾向は変わらないでしょう。」
しかし今年の場合、主な問題は、ミズーリ州南東部の農家は、干ばつのため予想以上に多くの水を田畑に引き入れなければならなかった点である。その結果、灌漑システムの一部は機能不全に陥った。
「作物の生育期を通じてこんなにも深刻な干ばつに見舞われるとは、誰も予想できなかったと思います。」とエアーズ氏は語った。
今年7月の米国は歴史上もっとも暑く、平均気温は20世紀全体の平均より華氏3.3度高い華氏77.6度(摂氏25.3)であった。このため、米海洋大気局(NOAA)の米国立気候データセンター(NCDC)が7月に行った発表によると、短期間でも中程度以上の干ばつに見舞われた地域は全米の約55%に上った(これは1956年12月に記録した58%以来最悪の数字)。中でも深刻あるいは極度の干ばつに見舞われた地域は、6月には33%に拡大した。
この状況に対して、米下院は8月2日に総額3.83億ドルに及ぶ畜産業・農業緊急旱魃支援パッケージを可決した。2012年度農業災害支援法では、農家による旱魃への取り組みを支援するため、期限切れの緊急畜産支援等のプログラムを延長する予定である。
また、バラク・オバマ大統領は8月7日、旱魃の被害に晒されている地域に対する新たな支援策(約3000万ドル規模)を発表した。また州レベルでも対策の動きが出てきている。ミズーリ州ではジェイ・ニクソン知事が、農家や家畜生産者に水を供給するための緊急のコスト分担事業を立ち上げ、これまでに3712件の支援要請が受理され、約1870万ドル相当の支援が行われた。
しかし、こうした緊急支援は、引き続き今後も予測しうる将来にわたって水不足に影響を及ぼしていくであろう気候変動や異常気象といったより大きな問題に対する、あくまでも一時しのぎの対処療法にすぎない、と環境保護者らは見ている。
「アメリカン・リバーズ」の南東地域代表ゲリット・ジョブシス氏は、「水供給不足の問題に対する私たちのアプローチが非論理的である」という意味を込めて、これを「非論理的サイクル」(hydro-illogical cycle)と呼んでいる[IPSJ注:「hydrological」(水文学/水理学上の)という言葉の後半にある「logical」(論理的な)という部分を「illogical」(非論理的な)に変えた造語]。
これは、干ばつが起こるとパニックを起こし、(緊急支援を行うだけで)将来の水不足に備えた予防措置をとらない。そして再び雨が降れば、次の干ばつが起こるまで杜撰な水管理を旧態依然と続けてしまう、という事態を指している。
「このような非論理的なアプローチは、非効率のサイクルそのものであり、これに終止符をうたなければなりません。」とジョブシス氏はIPSの取材に応じて語った。
ジョブシス氏は、「水の効率的利用」と「水の保全」を分けて考える必要があると力説する。前者は水の無駄遣いを減らすことに主眼を置いた概念なのに対して、後者は水使用そのものに制限をかけようとするものである。
またジョブシス氏は、「米南東地域では、歴史を通じて長い間、水があるのが当然と考えられてきたが、この40年の間に、都市化の進展と人口増加により、水資源への負荷が益々大きなものとなっている。」と指摘した上で、この地域では、水の効率的利用に焦点を当てる方が、問題の根本的解決に繋がると語った。
ジョージア州アトランタでは、まさにこの点(水の効率的利用)に焦点をあてた取り組みが行われている。「アメリカン・リバーズ」の南東地域水供給ディレクター補佐のベン・エマニュエル氏は、「私たちは、まず地域のコミュニティーが今ある水供給量の中で、水の効率的利用やその他の手段を通じて最大限の節水努力がなされるようになるまでは、原則として新たな貯水池の建設に同意しないことにしています。」と語った。
この地域の人口は約400万人で、一日当たり約6億5200万ガロンの水が消費されている。「アメリカン・リバーズ」は、様々な節水対策を通じてアトランタ都市圏全体で3億から4億ドル相当の節約が可能であり、新たなダム建設は必要ない、と推定している。
またエアーズ氏も、同じく深刻な干ばつに見舞われた米中南部においても、より効率的な水の供給管理を行う必要性があると考えている。主に灌漑システムに着目しているエアーズ氏は、「既存の灌漑システムを効率的に運用することが最も重要です。」と語った。
しかし今回干ばつの被害がそれほど深刻でない地域においても、水の供給管理体制を向上される必要がある。ワシントン州ヤキマ盆地における試みが良い例だろう。
この地では、2009年以来全ての利害関係者(環境保護論者、農家、ヤキマ先住民居留区、ワシントン州、連邦政府)が参加して協議を重ねた結果、総合開発計画に関する一般合意に漕ぎ着けた。
「アメリカン・リバーズ」のワシントン州自然保護ディレクターのマイケル・ガリティ氏は、IPSの取材に対して、「水保全と水の効率的利用は、ヤキマ盆地総合開発計画(Yakima Basin Integrated Plan)の重要な部分です。」と語った。
しかし目標を達成するには、(水保全と水の効率的利用以外にも)地下水管理の向上や既存ダムの修復といった、総合計画に組み込まれているその他の要素も実施に移られなければならない。
環境保護者らは、こうしたさまざまな措置に共通するものは、シンプルだと考えている。つまり、「干ばつを予測することはできないが、それに対する準備をすることはできる。」ということである。(原文へ)
翻訳=IPS Japan