【パリIPS=A・D・マッケンジー】
昨月、フランス警察が、ナイジェリア人女性を取引して売春婦として使っていたとされる犯罪ネットワークを摘発したところ、ここフランスのみならず欧州全体に蔓延っている当局が呼ぶところの「現在の奴隷制」の実態に光が当てられることとなった。
警察当局は、「犠牲者の多くは、違法渡航を世話した者たちによって、数千ユーロの借金を負わされたナイジェリア人女性らで、イタリア経由でフランスに連れてこられていたのち、借金返済の名目で売春を強要されていた。」と発表した。
国際労働機関(ILO)によると、こうした女性たちは、欧州連合(EU)を含めた先進国において約150万人にのぼるとみられている人身売買の被害者の一部である。同機関は、全世界における被害者は2100万人近くにのぼると見ている。
またILOは、欧州における人身売買の犠牲者の総数は、世界的な経済危機と各地で勃発している紛争を背景に増加傾向にあり、各国政府に対して人身売買と売春への取り組みを強化するよう働きかけていると述べた。
ジェンダー平等を目指す団体「欧州女性ロビー」(EWL、本部:ブリュッセル)は、この夏のロンドンオリンピックを前に売春反対のキャンペーンを開始し、欧州議会に対して売春防止に取り組むよう訴えかけた。
EWLは、「(ロンドン)オリンピック大会や2012年欧州選手権ポーランド・ウクライナ大会のような大規模なスポーツイベントが開催された影には、数千人の若い少女や女性が、売春需要を満たすために、人身売買や性的搾取に引き込まれるリスクに直面していた。」と語った。
なかでも経済的に不安定な立場にある移民女性は、ますます強制売春に引き込まれる危険に直面しているという。
「女性に対する様々な暴力形態の中でも、女性の人権を広範に侵害する強制売春が引き続き最も蔓延しています。」と、EWLのピエレット・パペ(プロジェクトコーディネーター)氏はIPSの取材に対して語った。
EWLは「売春のない欧州をともに目指そう」というキャンペーンを2010年に開始しました。EU最大の女性人権協会のアンブレラ組織として、EWLには欧州各地のメンバー団体からの情報提供や支援が集まっており、その多くが12月4日にブリュッセルで開催されるEWL欧州会議に参加する予定である。
「売春は女性の人権を根本から侵害するものであり、男性による女性に対する暴力の一形態です。また、欧州における現代の奴隷貿易、すなわち人身売買の主な牽引要因でもあります。もし私たちが、売春や女性や少女の性的搾取のない社会を実現することができれば、欧州連合域内における人身売買の大部分を取り除くことになるのです。」と、このキャンパーンを支持しているアンナ・ヘド欧州議会議員(スウェーデン)は語った。
EWLの友誼団体である「アイルランド移民評議会」で人身売買反対キャンペーンに取り組むヌシャ・ヨンコヴァ氏によれば、性取引に関与するようになった移民女性は、さまざまな問題に直面しているという。
たとえば、売春関連法に加えて移民法制への違反など移民としての不安定な地位、国家による犯罪化、友人の不在と孤立、各地の売春宿への頻繁な移動による方向感覚の喪失、強要や脅迫、売春業者による支配、医療サービスの欠如などである。
EWLによると、移民女性たちは、書類不足や亡命申請中であるなどの理由によってしばしば正規の労働市場から弾かれることが多いという。またそうした理由から長期に亘って就労の権利を拒否された場合、将来的にますます労働市場への参入が難しくなることも明らかになっている。
ヨンコヴァ氏によれば、数世代に亘って多くの移民を送り出してきたアイルランドにおいても、(外国からアイルランドへの)移民女性は「極めて不安定な状況」に置かれているという。
「労働許可を取得するには多額の費用が必要ですし、なによりも申請できる職種は全て、現時点で欧州連合内の国籍保持者以外は不適格とされるため、取得はほとんど不可能なのが実態です。」とヨンコヴァ氏は語った。
ヨンコヴァ氏によると、アイルランドでは売春業に従事している女性の大半は学生としての地位を確保しようと努力するという。しかし、実際には、授業料が高かったり、授業への出席を要求されたりして、この地位を維持することは容易ではない。その結果、多くの女性が「移民コンサルタント」と称する大学の偽IDや書類を手配するブローカーの餌食になっているという。
「アイルランド移民評議会」によると、アイルランドでは1日あたり平均1000人の女性が性産業で働いているという。ただし、その内のどの程度の女性が他人からの脅迫のもとで売春行為をしているのか、またどの程度の未成年者が含まれているのかといった内訳については把握できていないという。
活動家らは、「女性たちが売春でいくらかの現金を手に入れたとしても、生活をまかなうには到底及ばない程度のものです。」と語った。
「アイルランドには、移民の人権擁護を謳いながら売春を『生計の手段』として認めない移民団体があります。こうした団体は、生活のために体を売らざるを得ない貧しい移民の人権擁護を訴えますが、一方でそうした移民らに就労の可能性を提供しようとはしていません。ここには本質的に人種差別が見て取れます。」とヨンコヴァ氏は語った。
欧州で性産業に従事する移民女性の出身地は多岐にわたる。「アイルランド移民評議会」によると、アイルランドの場合、主な出身地はラテンアメリカ、東欧の最も貧しい国々等で、例えばブラジル、ルーマニア、そしてナイジェリアが挙げられるという。
EWLが本拠を構えるベルギーでは、性産業労働者の主な出身地は、ブルガリア、アルバニア、ルーマニアである。「最近では、新たにハンガリー、ギリシャ、イタリアからの移民売春婦を多く見かけるようになりました。ここにも、売春産業が、最も弱いところを搾取する構図が如実に現れています。」とEWLはINPSの取材に対して語った。
例えば、ギリシャとイタリアは両国とも近年の経済危機の影響で、前例のない規模の緊縮財政政策の導入を余儀なくされている。
他方、フランスでは、売春自体は違法行為ではない(ポン引き行為や売春宿の保有は違法)。国内2万人の売春婦のうち、約70%が外国人と推定されている。こうした外国人売春婦の出身地は主に中・東欧及びサブサハラアフリカ地域である。
こうした中、フランス議会では多くの国会議員が売春を非合法化する動きを見せており、性労働者らが反発を強めている。
この7月、性労働者や彼女たちの人権を求める活動家が、パリでデモを行った。新たに就任したナジャット・ヴァロー=ベルカセム女性権利大臣が、街頭における売春勧誘行為を犯罪化するという提案を行っており、これに反対する人々が集ったのである。
性労働者らは、売春を犯罪化すれば売春は地下化し、ただでさえ貧しい生活の糧を奪うことになってしまうと苦境を訴えた。(原文へ)
翻訳=INPS Japan浅霧勝浩
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