ニュース遠回しにカナダが核兵器禁止条約への反対を撤回

遠回しにカナダが核兵器禁止条約への反対を撤回

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

(この記事は2020年10月30日、「The Hill Times」紙)に最初に掲載されたものです。)

【Global Outlook=ラメシュ・タクール

遠回しな形で、カナダ政府は核兵器禁止条約への反対を撤回した。現在は、条約の根拠を「認識する」としている。同条約は、2021年1月22日に発効する。(原文へ 

50カ国が批准した新たな条約を、トランプ政権は公然と非難し、また、NATOも拒絶した。カナダは、11月3日に予想通りジョー・バイデンが大統領に選出された場合、米国はより協調的な多国間の共同作業に復帰し、NATOは核兵器保有に反対する世界的規範の高まりを徐々に認識すると踏んでいる。

条約が法的拘束力を持つのは条約に参加した国のみであるが、その中核的条項である核兵器保有の禁止は、核抑止という軍事ドクトリンに真っ向から挑むものである。

カナダが条約に参加するわけではない。少なくとも歴史における現時点では。しかし、その政策は変わりつつある。条約の交渉が進行中だった2017年、ジャスティン・トルドー首相は、この取り組みを「無益だ」と言った。その後、122カ国が国連でこの条約を採択したとき、広報官はこれを「時期尚早」として退けた。それが今や、カナダ国際関係省はこう述べている。「我々は、核兵器禁止条約交渉の明確な動機となった、核軍縮に向けた国際的努力の進捗速度について広がっている不満を理解する」

これは同条約に対する明確な是認ではないと主張する者もいるだろう。しかし、カナダ国際関係省はこれまで、首相と真っ向から対立することを望まず、また、いまだに核兵器は安全保障の「最高の保証」であると主張しているNATOに真っ向から異論を唱えることを望まなかった。それを考えると、同省の声明は、政策転換を遠回しに表現したものといえる。近頃、いずれも自由党に所属する2人の元首相(ジャン・クレティエン、故ジョン・ターナー)、3人の元外相(ロイド・アックスワージー、ビル・グレアム、ジョン・マンリー)、そして2人の元国防相(ジャン・ジャック・ブレー、ジョン・マッカラム)がNATOの核政策を強く非難したことが、国際関係省に印象を与えたことは間違いない。禁止条約は現在、カナダで敬意をもって扱われている。当然考えられる次のステップは、カナダがNATOとの対話を開き、NATOの核兵器政策が禁止条約に沿ったものとなるよう働きかけることである。

政府の声明は、さらに、カナダは50年間にわたって「核軍縮に向けた実際的かつ包括的なアプローチ」を追求しており、それは核兵器不拡散条約(NPT)に「根差した」ものであると述べている。しかし、今なお9カ国が13,865基の核兵器(2019年時点=訳者注)を保有しており、NPTが核兵器なき世界をもたらしていないことは明白である。

このような核兵器削減努力の失敗を受けて、積極的な国家や市民社会のリーダーたちが新たな運動を起こし、核兵器の使用がもたらす破滅的な人道上の帰結について警告し始めた。その結果が、核兵器禁止条約である。

2017年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)が主導する禁止条約は、核兵器を廃絶するふりをしない。また、禁止条約が核軍縮の「礎石」とたたえるNPTに取って代わろうともしていない。禁止条約がしていることは、核兵器に国際人道法から外れるものという烙印を押し、NPTで求められているすべての国が参加する核兵器廃絶に向けた包括的交渉の下地を作ることである。

同時に、禁止条約は単なる公衆教育の実践にとどまらない。それは、参加するすべての国に拘束力を持つ国際的な法的実体である。条約が併せ持つ教育的価値、政治的価値、法的価値が、世界を核兵器の廃絶へと一歩進めること。それが、米国の最も恐れることである。

米国は、条約批准国に批准を取り下げるよう求める書簡の中で、禁止条約は分断を招くものであり、「核軍縮の大義を推進する、現実的かつ実際的努力に水を差すものだ」と主張している。今後25年間で1.7兆ドルを投じて核ミサイルを近代化する計画の米国が、どうやって核軍縮を推進するのか、まったくもって理解しがたい。

ジョー・バイデンが大統領に選ばれたとして、彼が法外な支出を可能にしている軍産複合体と角を突き合わせるかどうかは、まだ不透明である。しかし、彼は選挙戦で、「核兵器のない世界に近づけるよう取り組む」と述べた。また、彼は条約を尊重する姿勢を強調した。「長年にわたって米国の両党の指導者たちは、米国が核兵器を管理し、最終的には廃絶する協定や合意を締結するなどして、核の脅威を削減するという国家安全保障上の責務と道義的責任を負っていることを理解していた」

バイデン政権が核兵器禁止条約を「認識する」には、かなりのプレッシャーをかける必要がある。しかし、条約に対する米国の攻撃を止めるだけでも、禁止条約が不拡散条約を強化するものとみなされるようになるだろう。刷新された政治的雰囲気の中で、かくも長きにわたって核軍縮を苦しめてきた麻痺が解けるかもしれない。

カナダは、ふさわしい慎み深さをもって、このプロセスを推し進めてきた。

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2020年10月26日に国際関係省からダグラス・ロウチに宛てて発行された声明:

  • カナダは、世界の核軍縮を明確に支持する。
  • 我々は、核兵器禁止条約(TPNW)交渉の明確な動機となった、核軍縮に向けた国際的努力の進捗速度について広がっている不満を認識する。
  • カナダは50年間以上にわたり、核軍縮に向けた実際的かつ包括的なアプローチを追求しており、それは、核兵器のない世界の条件を整えるために最善の道であると我々は考える。
  • カナダの核軍縮および不拡散政策は、国際的な核不拡散・軍縮体制の礎石となった核兵器不拡散条約(NPT)に根差したものである。
  • NPTに対するカナダのコミットメントは、発効以来揺るぎないものである。

ダグラス・ロウチ元カナダ上院議員は、元カナダ国連軍縮大使である。

INPS Japan

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