地域アジア・太平洋インド・中国は「アジアの世紀」を忘却から救う

インド・中国は「アジアの世紀」を忘却から救う

【北京IDN/INPS=シャストリ・ラマチャンドラン】

新千年紀の最初の10年で一般的となった言葉のひとつに「アジアの世紀」がある。この用語は、約束と前途、そして目標を表したものだが、かつては楽観的な意味合いを持って使われていた。暫くの間、「アジアの世紀」というフレーズは、1980年代における「21世紀」と同様に、20世紀に抑圧された人類の大半が被った貧困や剥奪、辛苦とはかけ離れた、新たな人生や暮らし、発展といった刺激的な将来の展望を喚起する言葉だった。

しかし21世紀が実際に訪れた時、こうした憧れにも似た期待の多くは、既に消え去ってしまっていた。同様に、「アジアの世紀」という掛け声も、この言葉が呼び起こした願望とともに鳴りを潜めてしまった。今や、とりわけ北京やニューデリーといった首都では、この言葉はあまり使われなくなった。

この数年、アジアに影響を及ぼす有力者らは、「アジアの世紀」という言葉とそれに付随していた約束を捨て去ってしまったかのようだ。もし今でも「アジアの世紀」という希望を抱いている人がいるとすれば、彼らはそれを隠そうとする。「アジアの世紀」を求めて努力する人々ですら、空虚な決まり文句と化したその言葉を口にすることをやめ、とりわけインドや中国などのアジアの貧しい大衆を嘲っているのである。

「アジアの世紀」は、国によって様々に異なった意味合いを持つ。しかし、それは、「アメリカの世紀」の終わりを意味し、西から東へとシフトする世界の勢力の変化を意味するということでは、一般的な合意がある。そして、世界の権力の中心が西半球から東半球に移るとき、中国やインドいったアジアの大国は、新たな国際秩序の2つのエンジンとして登場することになるだろう。

2008年のグローバル金融危機(西側資本主義はパニックに陥り、インド経済は下降状態から反転し、中国は30年に亘るターボ成長の波に乗った)は、「アジアの世紀」という野望をさらに煽った。

アジアインフラ投資銀行(AIIB)が開設され、国際通貨基金(IMF)は中国通貨の「元」を、米ドル、英ポンド、ユーロ、日本円に並ぶ第5の通貨としてSDRバスケットに加えたが、国際機関とりわけ支配的な金融機構の改革に向けた、革新的な動きは生じていない。

しかし、国際構造と同様に、大陸諸国、とりわけインドや中国が「アジアの世紀」を実現するための効果的なステップを取ることを妨げている深刻な内部からの挑戦が存在する。中国・インドは、季節的な経済の上昇・下降、市場、投資サイクル、通貨といったことに目を奪われ、貧困と不平等という両国が直面している共通の中心的な課題を見失いがちだ。

これは、アジア経済が直面している難題でもある。アジア経済は、国の内部、国々の間、そして、東南アジア諸国連合(ASEAN)のような繁栄した地域フォーラムの内部にすら存在する格差によって、悪化している。

今世紀の初めの15年でインド国内の不平等は拡大した。経済成長が利したのは、創られた富のほとんどを手にしたトップの1%だけである。世界屈指の金融企業であるクレジットスイスによれば、インド人口のこのトップ1%が、インド全体の私有財産のうち53%以上を保有している。1250万人のトップ1%のなかで、その5分の1にあたる0.2%の人びとだけで、インドの富の40%以上を保有している。

2000年にはトップ1%の富は36.8%だった。『クレジットスイス・グローバル財産データブック2015』によると、2000年には、世界のトップ1%が世界の富の48.7%を保有していたことに比べれば、インドの不平等度は小さかった。しかし、この15年間で、トップ1%の富は16.2%増えて、53%にまでなった。対照的に、世界全体では、トップ1%の富はこの間に1.3%しか増えていない。

世界の全地域を見渡せば、インドの最富裕層1%の富の保有率は世界で最大である。他方で最貧困層はほとんど保有していない。下の50%(6億2500万人)はインドの富の4%しか保有していない。トップ10%だと76%の富を保有しており、人口の大多数には24%しか残されていない。

この数値によって、インドの経済成長はトップ1%をさらに富ませていることがわかる。2000年から2015年の間に生み出された2兆3000億ドルのうち、トップ1%は1兆4000億ドル(61%)を手にし、次の9%の人口が5000億ドル(21%)を手にした。90%は残りの4000億ドル(18%)を手にしたにすぎない。

広がる貧富の格差は、社会・政治の安定にとって脅威となる。インドのような国の内部の格差や、先進的なアジアと発展途上的なアジアとの間の格差が大きく縮まらないかぎり、「アジアの世紀」などありえない。

「アジアの世紀」を目指すということは、アジアの大国が自国やアジア全体における貧困を無視して、むしろ自らを危機にさらすことを意味していた。インドや中国、国際組織と同じように、ノーベル賞受賞者のアマルティア・セン氏やマーサ・ヌスバウム氏、ジョセフ・スティグリッツ氏といったオピニオン・リーダーたちがこの問題に取り組もうとしていた時代があった。

インドや中国における極度の貧困を近い将来になくしていこうという言説は、目に見えるものであり、行動を促すものであった。また、この時代の重要な問題として注目されてもいた。しかし、もはやそんな時代は過ぎた。

今日、貧困や不平等に対する闘いを維持しようとの空気は存在しない。中印両政府は、発展するアジアの利益のために協力するという新たな可能性を阻害するこの貧困・不平等の問題に対処することが求められている。世界の力の中心を西から東に移すために、インドと中国は手をつなぎ、ともに進まねばならない。そのためには信頼感を増す必要があるが、両国間の不信を解消しようとの最近の取り組みは成功していない。

By The original uploader was Bazonka at English Wikipedia - Image based on File:BlankMap-World6, compact.svg, CC BY-SA 3.0
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両国首脳間では友好ムードがあり、相互訪問も成功し、貿易も拡大しているにもかかわらず、緊張関係と相互不信は繰り返し現れており、世界で最も人口の多いこの両国における貧困撲滅に向けた共同の取り組みは進んでいない。

中印両国は、すぐにでも、各々の国内とアジア全域において貧困を撲滅するために、二国間の紛争を解決し信頼を醸成する必要がある。両国がこのグローバルな責任を引き受けたときにのみ、アジアの「ビッグ2」が「アジアの世紀」を導く第一歩を踏み出したと言えるだろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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