Multimedia世界市民運動の基礎を築く

世界市民運動の基礎を築く

【ヨハネスブルクIPS=アンソニー・ジョージ

内部の硬直した組織と、遅々として進まない飽き飽きするようなプロセス、そしてドナーに対する説明責任に縛られている組織化された市民社会は、不公正と不平等を長らえさせているグローバルな仕組みのひとつの層になってしまったのであろうか?

DEEEP
DEEEP

市民社会組織(CSOs)は、市民を引き込み、代表し、動員する広範な運動を、いかにして作り出せるのか、そして、漸進的な変化というところで妥協するのではなく、いかにして根本的な体制転換を起こせるのだろうか?

このような内省が、11月19日から21日にかけて南アフリカ共和国のヨハネスブルク市で開催された国際会議「世界市民運動に向けて―草の根から学ぶ」に世界各地から集まったCSOsによる交流プロセスの中心にあったものである。

CSOsのキャパシティビルディングを行い、世界市民および世界市民教育に関するアドボカシー活動を推進している欧州市民社会の統括組織「CONCORD」内のプロジェクトである「グローバル正義のための市民のエンパワーメント(DEEEP)」が主催したこの会議には、200人の参加者が集まった。

CIVICUS

主要な協力団体は、CIVICUS(世界最大かつ最も多様な世界市民社会ネットワークのひとつである「市民参加のための世界同盟」)とGCAP(グローバルな貧困根絶キャンペーン)である。

3日間の会議は、CIVICUSが主催した「2014国際市民社会ウィーク」(11月24日まで)に合わせて行われた会議や活動の一環である。

the “Toward a World Citizens Movement: Learning from the Grassroots” conference.

世界市民は、国連システムにおいて認知を得つつある概念であり、このことは、フィンランドの「NGDOプラットフォーム」事務局長で世界市民教育の主唱者である、リリ・ラッパライネン氏にとっても嬉しい話だ。

ラッパライネン氏は、「この概念の中心にあるのは民衆のエンパワーメントです。」と指摘したうえで、「民衆が世界レベルでインターリンケージ(相互連携)について理解することが重要です。つまり、民衆一人一人がシステムの一部であり、変化をもたらし生活をより良いものにするために、自らの権利を基盤としてシステム全体に影響を及ぼす行動を起こせるということを理解することが重要なのです。そうすることで、民衆の名の下に他の誰かに物事を決められてしまう状態をなくすことが可能となるのです。」と語った。

Rilli Lappalainen

そうした変化に繋がるような効果的な市民社会運動の構築をめぐる内省のプロセスは、1年前に同地で開催された第1回国際会議「ヨハネスブルク会議:世界市民運動を構築するで始まっていた。

そこでの議論は、自重によっていつまでも無知という望ましくない期間が続かないように、相互理解と共有、討議のプロセスに向けた新しい視点と活動方法の必要性に焦点を当てた。

今年の会議の創造的で相互作用的な形式にも明確に表れているたように、この洞察と関与の新たな精神は、「今は緊急事態です。-(だからこそ)ここはじっくりと冷静に考えよう」という、ナイジェリアの思想家バヨ・アコモラフェ氏による警句に要約されている。

アコモラフェ氏による基調講演は、プロセスにおける変化の必要性を追求したものだった。「私たちは、変化の理論を変化させなくてはならないことに気付いています。ここはじっくりと冷静に考える時です。なぜなら、暗闇の迷宮の中で疾走したところで出口を見つけることには繋がらないからです。」とアコモラフェ氏は語った。

「今こそ、じっくりと冷静に考えなくてはなりません。なぜなら、もし私たちが遠くまで共に歩んでいくならば、お互いに(同じコミュニティに存在することでもたらされる曖昧さの中に)安らぎを見出さねばならないからです。私たちはじっくりと冷静に考えなくてはなりません。なぜならそれが、私たちに対して緊急に開かれようとしている新たな可能性の輪郭を見出す唯一の方法だからです。」

2日目のパネル「世界観に挑戦する」では、相互の学びと討議の場が参加者に提供された。

ローズ大学(南ア)環境学習研究センターのロブ・オドグノー教授は、「ウブンツ」の思想について検討を加え、ブラジルの活動家で地域オーガナイザーのエドゥアルド・ロンバウアー氏は、水平的な組織活動(horizontal organising)について語った。また、仏教団体「創価学会インタナショナル」(SGI)のニューヨーク国連連絡所の桜井浩行所長は、同会の中心的な思想である「創価」について語った。

DEEEP

パネル討論にブータンから参加予定だった女性活動家がビザが発給されず参加できなかった。CSOsが活動する空間が世界でいかに狭められているかについてのCIVICUSのダニー・スリシュカンダラジャー代表による検討はまさにこうした状況に注目するものであった。

パネル討論に女性が参加しなかったことは問題だと指摘された。ある男性参加者は、「女性の声なしに、きわめて家父長制的なグローバルシステムを効果的に問題化することが、いったいどうやって可能なのか。」と問いかけた。この意見を受けて、聴衆の中から一人の女性が自発的にパネル討論に参加することとなった。

「知らないことを受け入れる」という精神の下、パネリストらは、民衆が問うべき問いを投げ掛けるよう求められた。その結果、「私たちは、自身の力をどう理解し、それをどう手に入れるか? 私たちは、民衆の関与をどう促し、よりシステム的な思考に導くためにいかにして特定の利益を打ち破ることができるのか? 複数の世界観がいかにして出会い、道徳的な指針を共有することができるのか?」といった問いが会場に投げ掛けられた。

オドノグー氏は、「ウブンツの哲学は『人は他者を通じて人になる』という言明によって定義できます。」と語った。

Hiro Sakurai/ DEEEP
Hiro Sakurai/ DEEEP

こうした観点が現在の諸問題に対して持つ含意は、社会の周縁で人々に影響を与えている問題への解決策は、外部から事前に特定できるものではなく、連帯と、闘争のプロセスを通じて見出さなければならない、ということだ。つまり、答えを持ってくるのではなく、他者との繋がりの中で問題を共有することで、はじめて解決策が社会の周縁から生まれ出てくるのである。

「創価」哲学の中心的な観点は、どのような状況下であれ、建設的な変化を生み出すために個々人が価値を作り出す内なる能力を持っているということである。桜井氏は、「数多くの人々がそれぞれの置かれている環境下でこうした理念の妥当性を証明しており、これこそが創価運動の本質です。」と指摘した。

その日の夜に開かれたCIVICUSのレセプションで故ネルソン・マンデラ氏の妻グラカ・マシェル氏が行ったスピーチでも、同じような点が指摘された。貧困や不平等が広がり、世界の指導者らが民衆の声にますます耳を傾けなくなったと思えるこの時代にあって、市民社会が直面している根本的な問題についてマシェル氏は語った。

そしてスピーチの終わりごろに彼女は、「我が友マディバ(マンデラ氏の氏族上の名前)」の晩年と、「物事は今や自分たちの手中にある」というマンデラ氏の一貫したメッセージを穏やかに回想した。

「マンデラ氏が自ら範を示すことによって私たちに教えてくれたことは、各人が自らの内に多大なる善の源を持っている、ということです。私たちがやるべきことは、自分がどこにいようと、どのような方法であろうと、毎日この内なる善を引き出し、世界でそれを実践することです。」とマシェル氏は語った。

マシェル氏の話に耳を傾けていた人々は、故ネルソン・マンデラ氏のメッセージを、明日の世界市民運動を創り出す自分たちの取り組みに対する励ましだと受け取っていた。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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