地域アジア・太平洋いま、中国に目を向けよ

いま、中国に目を向けよ

この記事は、戸田記念国際平和研究所が配信したもので、同研究所の許可を得て転載しています。

【Global Outlook=スタイン・トンネソン 】

世界平和はいま脅かされている。ウクライナ、中東、アフリカでは戦争が続き、米国の貿易戦争も進行中である。ドナルド・トランプ大統領は複数の国際条約や国際機関から離脱し、同盟上の義務から後退し、他国への軍事介入にも踏み切っている。強い不安感を背景に、各国政府は軍事予算を増やしている。これだけでも深刻だが、巨大テック企業がクラッシュに向かうのではないかという懸念もある。私たちは、終わりの見えないトンネルの中で、方向を失ったコウモリのようにさまよっている。

Dr Stein Tønnesson, Director of Toda Peace Institute

その中で中国は、独立した主権国家から成るグローバルな国際システムと、不干渉原則を重視する姿勢で際立つ。中国の世界観は、個人の権利より国家の主権的権利に重心がある。国家間の戦争がない世界を望む。中国はトランプ関税の嵐に耐えつつ、4月にトランプ氏を国賓訪問として迎える予定だ。世界の将来を左右する存在になるかもしれない。

1月3日のカラカスでの米国の急襲は、国連憲章への重大な違反であった。にもかかわらず、多くの政府は非難を避け、違法性に言及するにとどめた。大統領を拘束するという行為が、他国にとって前例になり得ると批判者は指摘した。ロシアがゼレンスキーを拘束するのか。中国が頼清徳を連れ去るのか。

異なるリアリズム

米国の急襲に対するロシアと中国の反応は異なっていた。両国はいずれもマドゥロ政権に政治的・経済的に関与してきた。両国とも公式に抗議声明を出したが、プーチン大統領は沈黙を保った。自身によるウクライナ侵略は、規模と破壊性の点で、トランプが行った行動をはるかに上回っているからである。

ロシアの元大統領で、現在は国家安全保障会議副議長を務めるドミトリー・メドベージェフは1月4日、トランプの行動は違法だとしつつも、「内部的には整合的」であり、米国の利益追求として理解できるとの趣旨の発言を行った。ここには、ホワイトハウスとクレムリンの世界観の接近が示唆されている。すなわち、国際関係を利益の競争と捉え、強硬な力の行使を当然視する見方である。メドベージェフはまた、ベネズエラは米国の「裏庭」だとも述べた。

これに対し、中国の反応はより規範に根差したものだった。北京は米国の行動を国際法違反として非難し、「国際法、国際関係の基本規範、国連憲章の目的と原則を明白に違反している」と述べた。中国の公式論評は、いかなる国であれ世界の「警察官」のように振る舞うべきではないと警告した。1月5日、アイルランド首相との会談で習近平国家主席は、「一方的で覇権的ないじめが国際秩序に深刻な影響を与えている」と批判し、「すべての国は、他国の人々が独自に選んだ発展の道を尊重すべきだ」と訴えた。

こうした発言は単なるレトリックにすぎないと退けることもできる。しかし、中国がこれを本気で語っている可能性も考えてみる必要がある。主権を基礎とする国際秩序は、中国自身がその国益と合致すると見ているのかもしれない。

国益と平和

主権を基礎とする安定した国際秩序は、対外環境の予見可能性を高め、開かれたグローバル市場へのアクセスを確保するという点で、中国の中核的利益に資する。中国は世界各地で広範な経済的利害を抱えている。供給過剰傾向の産業が生み出す電気自動車、太陽光パネル、風力発電設備などの輸出が欠かせない。他方で、大豆、石油、半導体(チップ)など、さまざまな必需品の輸入にも依存している。利益率は低く、貯蓄率が過大であるため国内消費は低水準にとどまる。経済改革を進めるうえでも、中国はグローバル市場への十分なアクセスを必要としている。

地政学的安定を確保するため、中国は陸上で国境を接する近隣諸国のうち、インドとブータンを除くすべてと国境画定で合意してきた。上海協力機構(SCO)を通じて、中央アジアではロシアと影響力を分かち合う枠組みも築いている。モンゴルはかつて清の領域の一部だったが、中国はこれを主権国家として認めてきた。結果として、中国の領土紛争は、インド、海上の近隣諸国、そして台湾にほぼ限られる。

この約40年、中国は他国との武力紛争を回避してきた。ヒマラヤ、南シナ海、東シナ海での事案は憂慮すべきものだったが、衝突は限定的にとどまっている。中国は台湾周辺で大規模な軍事演習や航空・海上活動を実施してきた。これらの演習は多くの場合、事前に告知されている。一方で、中国軍機や艦艇の活動は近年、台湾側が防空識別圏(ADIZ)や周辺海域への繰り返しの進入と受け止める水準にまで拡大しており、海峡の中間線を越える事例も常態化している。演習海域が台湾の領海に接近、あるいは含まれているとの台湾当局の指摘もあるが、領空・領海への侵入に当たるかどうかについては、法的解釈と当事者の立場によって評価が分かれている。中国国内には、いずれ大国は国外で自国の利益を守るため武力を用いざるを得ない、と主張する見方がある。戦闘経験が必要だという声もある。しかし孫子の兵法の観点では、必ずしもそうではない。孫子が説くところでは、戦争に勝つ最善の方法は、戦わずして勝つことである。中国のこれまでの強硬な行動の狙いは、戦争を誘発することではなく、シグナルを発して警告することにあった。いまなお、各主体が自制を示す余地は残っている。

台湾の現状維持

台湾は中国のアキレス腱である。台湾は国際的に承認された国家ではないため、台湾への軍事侵攻は、それ自体が直ちに国連憲章2条4項に違反すると断定されるとは限らない、との見方も成り立ち得る(ロシアによるウクライナ侵攻や、米国のベネズエラ介入とは異なる)。しかし、この点は大きな論争を呼ぶだろう。

もっとも、軍事攻撃に用いられる手段は、慣習国際法やジュネーブ諸条約に違反する可能性が極めて高い。全面侵攻となれば抵抗は避けられず、米国や日本の介入を招く恐れもある。台湾をめぐる戦争は拡大し、核兵器の応酬に発展する可能性すら否定できない。

中国の2005年反国家分裂法は、台湾が独立に向けた動きを取る場合、あるいは平和的統一の見通しが失われた場合、武力行使を義務づけている。こうした「レッドライン」は、戦場の主導権を中国自ら手放す結果になりかねず、孫子の兵法の発想にはそぐわない。レッドラインは、相手に挑発の余地を与え、相手の条件で戦争を誘発する危険をはらむ。

平和の観点から理想を言えば、中国は台湾政府を安心させ、高度な自治を認める方向で備えるべきだろう。そうなれば、台湾海峡を越えた自由貿易が可能となり、中国は台湾の世界最先端の技術へのアクセスも確保できる。

中国の軍事演習、米国の対台湾武器売却、そして台湾の指導者による「独立志向」と受け止められる行動は、緊密に絡み合い、自己強化的なエスカレーションの連鎖を生みかねない。だからこそ、相互の安心供与が不可欠である。台湾問題の最も現実的な解は、実は「解を求めないこと」なのかもしれない。1979年以来、現状維持は双方にとって機能してきた。

小国の役割

勢力圏の発想で動くプーチンとトランプの反グローバリズム政策は、アジアの国々―大国から小国まで―が平和促進に役割を果たす余地を生み出している。賢明な中国であれば、北東アジアでも東南アジアでも、こうした動きを後押しするだろう。11加盟国から成る東南アジア諸国連合(ASEAN)は、ASEAN主導の首脳会合、ASEAN地域フォーラム、東アジア首脳会議などを通じ、大国の指導者を同じ場に集めてきた実績がある。ASEANは、日本、韓国、中国、さらにはインドも含め、国連を再活性化し、ルールに基づく国際秩序を支えるための持続的な努力において、新たな協力の時代を形づくる助けになり得る。

東アジアの国々が相互の安心を高める模範を示せば、欧州にとっても、ロシアという宿敵と気まぐれな米国の「保護者」の間に挟まれた圧迫感を和らげる一助となるかもしれない。残念ながら、米国とロシアは世界最大の核兵器庫を抱える。中国の核戦力も憂慮すべきペースで増大している。それでも北京は先制不使用(No First Use)を掲げている。日本も反核の立場を堅持することが望まれる。1995年に宣言されたASEAN非核地帯は、加盟国に対し、核兵器の開発、保有、配備を行わないことを引き続き誓約させている。

トンネルのアジア側には、光が差すのかもしれない。(原文へ

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