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|平和首長会議|核兵器は安全を保証しない

【ウィーンIDN=ジャムシェッド・バルーア】

原子爆弾が広島・長崎に投下された1945年以来、核兵器は実戦で使用されていないが、1万5000発近いこの大量破壊兵器は依然として存在し、無視できないほどに大きなリスクをもたらしている。こうした脅威を及ぼす現実を視野に入れつつ、平和首長会議は、北朝鮮による度重なる核実験の事例にも明らかなように、核拡散の危険性は依然として現実のものであると警告している。

ウィーンで5月2日から12日の日程で開かれた2020年NPT運用検討会議第1回準備委員会会合で演説した広島の松井一實市長は、世界の7200都市以上が加盟する平和首長会議を代表して、核兵器国とその同盟国が核抑止の意義を強調し続けていることへの懸念を示した。松井市長は、核兵器不拡散条約(NPT)、とりわけ核軍縮を誠実に交渉する義務を定めた同第6条への強い支持を表明した。

松井市長は、「最大の非人道兵器である核兵器に依存するいかなる安全保障体制も根本的な欠陥を抱えており、仮に核抑止が短期的な問題を解決したように見える場合があったとしても、一時しのぎのやり方にすぎません。」と語った。

松井市長は5月3日の会合で、「国際社会は今後時間をかけて、この嫌悪すべき非人道的な兵器と、その保有・使用を正当化するドクトリンをますます拒絶するようになるだろう。」と語った。

Vienna International Center/ K.Asagiri of INPS

「こうした兵器は核拡散という、より複雑な危険を招きかねないとすでに広く認識されているところです。また、核兵器の存在自体が、意図せずとも、誤解、誤作動、事故により核兵器が使われる危険性や、核テロの危険性も無視できないことも認識すべきです。」

松井市長はまた、世界の為政者に対して、その鋭敏な責任感を信頼し、人々に対して信頼性のある安全保障を提供するよう強く促した。「私たちは、相互不信と脅しに基づく核抑止から脱却するよう訴えます。私たちは彼らに、相互理解や同胞意識を促進しうる新たな安全保障枠組みを追求するよう求めたい。」

そうした努力にはもちろん、長期的でグローバルな視野が必要となる。「世界の指導者の方々には、『まず隗より始めよ-何事もまず手近なことから、自ら着手せよ-』の精神のもと、核軍縮の誠実交渉義務を果たし、果断なリーダーシップを発揮していただきたい。私たちは、そうした大胆なリーダーシップによって、核抑止に頼らない、より信頼性が高く永続性のある安全保障体制をともに作り上げることができると信じています。」と松井市長は語った。

平和首長会議は、今年始まった核兵器禁止条約交渉を支持している。「本交渉は核保有国や核の傘の下にある国々が不参加のまま開始されました、これらの国々は、なぜ市民社会や多くの非核保有国が今回の核兵器の法的禁止交渉を先導しているのかを認識すべきです。」と指摘したうえで、「この問題に関する最近の世界の論調に現れているように、核抑止に依存しない大多数の国々は、事故や誤算による核兵器使用の危険性やその非人道的影響を深く認識しています。」と松井市長は論じた。

Mayors for Peace

これらの国々は、誰もが核爆発の犠牲者になりうるという現実を直視している。これだけ多くの非核兵器国が交渉を主導しているのはそのためだ。第1会期は3月27日から31日に開催された。そして第2会期は6月15日から7月7日にニューヨークの国連本部で開催が予定されている。

松井市長はさらに、「非核保有国は NPT 全締約国が負う誠実交渉義務のみならず、(核兵器の犠牲者になりうる)利害関係の当事者としての交渉参加の権利に基づいてこの交渉を主導しているのです。」と付け加えた。

平和首長会議は、この交渉によってまとめられる法的文書が現在核抑止に依存している国々にも開かれたものとなるよう期待している。また、条約に普遍的な加盟を促す具体的な提案も行っている。それは、この条約が、核兵器に依存する国が後からでも参加できるものにならなければ、核兵器の廃絶に道をひらく、実効性のある条約とならない恐れがあるからだ。

松井市長は、「この条約が将来核保有国をも拘束する、検証可能で包括的な核兵器禁止の法的枠組みへと進展していくことを心から期待しています。」と述べ、さらに「核保有国及び核の傘の下にある国々の代表の皆様には、6月・7 月の交渉会議には是非参加していただきたい。今は法的禁止の交渉に参加されないにしても、NPT 第 6 条の義務を履行する観点から、具体的な取組を大きく進展させていただきたい。」と付け加えた。

松井市長は別の重要な問題にも触れて、NPTのすべての締約国が核兵器なき世界のビジョンを共有している一方で、「残念ながら、核軍縮に向けたすべての具体的な措置は長年停滞し、大きな結果を残せずにいます。例えばCTBTの発効、核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)の採択、世界の核備蓄の9割以上を占める米ロ両国の核の大幅な削減等です。」と語った。

CTBTとは包括的核実験禁止条約のことであり、世界のほとんどの国が締約しているにも関わらず、未だ発効していない。183カ国が署名し、そのうち、核保有国の英仏露を含めた164カ国が批准している。しかし、CTBTが発効するには、核技術を持った特定44カ国(=附属書2諸国)の全てが署名・批准を済ませねばならない。

その中で、中国・エジプト・インド・イラン・イスラエル・北朝鮮・パキスタン・米国の8か国がまだ締約していない。インド・北朝鮮・パキスタンは署名さえしていない。附属書2諸国の中で最後に条約を批准したのはインドネシアである(2012年2月6日)。

核分裂性物質生産禁止条約(FMCT)は、核兵器あるいはその他の爆発装置のための核分裂性物質のさらなる生産を禁止する国際条約として提案されているものだ。条約はまだ交渉されておらず、いかなる内容が設定されるかも決まっていない。

平和首長会議はしたがって、核保有国に対して、この停滞を打破するために新しく革新的な措置を採ることによって、実質的な進展を達成するよう「一層努力する」ことを求めた。「そしてこの文脈において、核兵器の法的禁止の交渉に参加することが現実的な選択肢として浮かび上がってくるかもしれない。」

松井市長は、リスクを低減し核戦力を削減する具体的なステップを踏むことは、過去のNPT運用検討会議でも合意されたように、NPT第6条の軍縮義務の不可欠の一部を成していることを核兵器国に対して訴えた。「もしそうした基本的な義務を果たそうとしないなら、国際社会はさらに不安定なものになってしまうでしょう。」と松井市長は言明した。(原文へ

翻訳=INPS Japan

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