INPS Japan/ IPS UN Bureau Report報道の自由と気候ジャーナリズム、危機の中の連帯(ファルハナ・ハクラーマンIPS北米事務総長・国連総局長)

報道の自由と気候ジャーナリズム、危機の中の連帯(ファルハナ・ハクラーマンIPS北米事務総長・国連総局長)

【ローマIPS=ファルハナ・ハクラーマン】

ジャーナリズムは再び危機に瀕している。報道の自由に対する挑戦は甚大かつ多面的であり、「自由」で開放的な社会においても、独裁的な社会においても、混迷の度合いを深めている。しかしこれに対する単純な解決策はない。

個人やメディア全体にとって、今日の危機は存亡にかかわる深刻なものである。

ジャーナリスト保護委員会によれば、昨年10月のイスラエル・ガザ戦争が始まって以来、100人近いジャーナリストやメディア関係者が殺害され、紛争地域における死者数としては過去数十年で最悪だという。そのほかにも逮捕されたり、負傷したり、行方不明になったりしている。またジャーナリストの家族も殺されている。ジャーナリストの中には、イスラエル軍に狙われていると考える者もいる。

生命や身体への脅威だけでなく、2023年には何万ものメディアの仕事が失われた。報道機関全体が閉鎖されたり、買収されたり、縮小されたりしている。

デジタル・カオスが強化され、偏見と偽情報のはびこるソーシャル・メディアの世界では、視聴者は、彼らが選ぶ報道機関と同様に、ますます分裂している。

Image credit: Pixabay
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ボットやAIが生成するディープフェイクは、この政治的混乱と不信感をさらに増幅させるだろう。流言飛語、微妙な脅し文句、旧来型の脅迫は、自由と民主主義を侵食する強力な組み合わせである。

ロシアではジャーナリストが多数国外に流出している。香港はかつての面影はない。ミャンマーの軍事政権は記者を殺害し投獄している。しかし、ますます二極化が進む米国では、アメリカ人の3分の2以上がマスメディアを信用していないと答えている。優れた報道も行われているが、その多くは目に触れることなく、あるいは完全に見過ごされている。

南アフリカの会員制日刊紙マーベリックは4月、市場の失敗がいかに独立ジャーナリズムを危険にさらしているかについて注意を喚起するため、丸一日休刊した。

ジャーナリズムがなければ、民主主義も経済も崩壊する」と同紙は宣言した。

こうしたまったく異なる要因がどのように組み合わさっているのかは、世界的な気候の崩壊や、環境に対するより広範な脅威に関するメディア報道を見れば明らかだ。

環境は、時に紛争報道にも似た非常に危険なテーマであるだけでなく、汚染産業(その中には巨大な国有企業もある)や、政治、学界、「非営利」財団、そしてマスメディア自身に巣食う偽情報のパートナーたちによって発せられる企業プロパガンダの巣窟となっている。

ユネスコは今年の「世界報道の自由デー」を、現在の世界的な環境危機におけるジャーナリズムと表現の自由の重要性に捧げる。ユネスコが言うように、「科学者と同様に独立したジャーナリストも、私たちの社会が環境政策を含め、十分な情報に基づいた決定を下すために、嘘や操作から事実を切り離すための重要な役割を担っている。」

「調査報道ジャーナリストはまた、環境犯罪に光を当て、汚職や強大な権益を暴き、時には究極の代償を払うこともある。」

世界最大の民主主義国家であるインドでは、ナレンドラ・モディ氏が首相に就任してから10年後に選挙が行われるが、国境なき記者団は、この間インドで殺害されたジャーナリスト28人のうち少なくとも13人が、主に土地の差し押さえや違法採掘など、環境に関連する記事を担当していたと指摘した。そのうちの何人かは、いわゆるサンド・マフィアと呼ばれる、建設業界に資金を供給する組織犯罪ネットワークの調査中に殺害された。

国境なき記者団は、2023年世界報道の自由度指数でインドを180カ国中161位にランク付けした。

グローバル・サウスでは、先住民、ローカル、独立系のジャーナリストやコミュニケーターは、十分なバックアップやリソースのない遠隔地で活動している間、暴力や 脅迫に対してとりわけ脆弱である。

しかし、世界の先進民主主義国(生物多様性の大量絶滅、汚染、地球を過熱させる温室効果ガスの排出の道を切り開いた国)では、大手メディアは化石燃料企業と提携し、積極的に協力している。

DrilledとDeSmogの報告書で明らかにされているように、多くの大手メディアは、「社説やビデオ、さらにはイベントやポッドキャスト全体を広告主のために制作する自社ブランドのスタジオ」を持っており、その多くは化石燃料会社である。

「ポリティコ、ロイター、ブルームバーグ、ニューヨークタイムズ、ワシントンポスト、ファイナンシャルタイムズのようなメディアは、石油会社のために、気候に関するジャーナリストの発表と正反対の記事を作成している。そして、広告コンテンツと報道の違いを見分けられる人は、せいぜい3分の1であることが、専門家らによる調査からわかっている。

World Press Freedom Day 2024

ジャーナリスト、特に気候危機と生態系の崩壊を取材するジャーナリストは、一般大衆の関心を引き、情報を伝えようとする努力を妨げる、ほとんど無形の矛盾にも立ち向かわなければならない。

私たちや私たちの地球が直面している危険の大きさを、すでに悲惨な出来事の数々に打ちのめされている世界中の聴衆にどう伝えるのか。ある米国の政治学者が「banality of crazy(狂気の凡庸さ)」と呼んだものに、どう抗うのか。

「狂気の凡庸さ」とは、元々ドナルド・トランプ氏の暴力的で性差別的で人種差別的な暴言を指していた。彼の暴言は頻繁に繰り返されるためそのうちメディアがほとんど反応しなくなった。このことからこの言葉は他の危険なニューノーマルを表現するのにも使われている。

この問題に対する答えはひとつではない。報道の自由はまさにそれにかかっている。それはまた、私たち自身の誠実さと信頼性にかかっているのだ。(原文へ

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国際通信社IPSが、INPS Japanが創価学会インタナショナル(SGI)と推進しているSDGs for Allメディアプロジェクトに2024年4月から参画している動機の一つは、まさに「報道の自由」と「気候ジャーナリズム」を守り、国際社会で起こっている真実を読者に伝えるためである。IPSのジャーナリストは本プロジェクトに参画しているLondon Post,Nepali Timesと共に、世界で起こっている環境、紛争、人権問題等について、他人事ではなく自らの問題意識として捉え、身近にできることから変革の主体者となる「同苦の精神」を持ち合わせたSGIメンバーをはじめとした読者の存在を励みに、世界各地から最新の分析記事を配信してまいります。

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