ニュース冷戦期の核抑止構想を修正

冷戦期の核抑止構想を修正

【エルサレムIPS=ジェロルド・ケッセル】

曖昧さ――特に今日のイランイスラム共和国の政情不安を鑑みるとき、同国の核兵器開発疑惑に関心を寄せている全ての人々にとって、この言葉が「合言葉」となるだろうか? 

イランの「核パズル」(=核兵器開発疑惑の真相)を解くには、先週死亡したロバート・マクナマラ国防長官(当時)の下で公式採用となった、冷戦当時における米国の国防方針を振り返ってみる価値があるだろう。マクナマラ長官の就任期間に、「相互確証破壊」という核抑止構想が一般に知られるようになった。これは米国及びソ連(当時)政府の双方が、一方が核兵器を使えば最終的にお互いが必ず破滅する、という状態を理解している(従って双方が核兵器の使用を抑制する:IPSJ)ことを指している。

 「おそらくイランはイスラエルとの間に同様の核抑止関係を構築することを目指している。」と、イスラエルのテレビ局「チャンネル2」のエフード・ヤーリ氏は推測する。ヤーリ氏は、イスラエルの安全保障当局内に「信頼できる情報源」を持っているとして知られている人物である。 

ヤーリ氏は、「イランは民生用核開発計画を諦めないだろう。それどころか、核兵器開発の野心についても意図的に曖昧な態度をとり続けている。」「彼らは、核専門家が『限界点』と定義する核爆弾製造能力を取得するポイントに到達するまで曖昧な立場をとり続けるだろう。」と語り、イランが民生用の核関連ノウハウを核兵器開発へと転用できる最終段階まで行き着くことを躊躇しないだろうとの見方を示した。 

しかしイランのこの態度は、まさにイスラエルが「我が国は中東最初の核保有国にはならない。」と宣言しつつ数十年に亘って核開発に対する態度を曖昧にしてきた政策と酷似するものである。イスラエルは、同国が既に数十基の核弾頭を配備する核保有国ではないかとの非難をかわすためにこの主張を貫いてきた。 

イランのマームード・アフマディネジャド政権は、今日に至るまで、改良を加えたミサイル計画を挑発的に誇示する一方で、核開発に関しては、イランがそのノウハウを取得する正当な権利を有しているとのみ主張し、民生用核開発計画を軍事転用するレベルに移行するか否かという点については明確な発言を避ける方針を維持してきている。 

このイランの込み入った核戦略に対する米国の態度は、バラク・オバマ大統領が米ロ2国間の枠を超えて世界の核廃絶を目指すと表明しているにもかかわらず、曖昧なままである。 

この米国の曖昧な態度は、イラン核問題へのイスラエルの対応に関する米国の懸念について、オバマ大統領とバイデン副大統領が各々見解を述べた際に明らかとなった微妙なニュアンスの違いに表れている。バイデン副大統領はABCテレビの番組で、もしある主権国家が他国の脅威に晒されていると認識している状況下で、「米国がその国に対して何が出来るか、出来ないかといった要求をすることはできない。」と発言した。 

バイデン氏のこの発言が、イスラエルに対してイランの核施設への空爆を容認したものではないことを、イスラエル政府は理解できたであろう。しかし、その点を明確に否定する必要性を感じたオバマ大統領は、翌日CNNの番組で、米国の空爆容認疑惑について「そのようなことは全くない」と断言した。 

イスラエル政府筋によると、バイデン発言の背後にイスラエルの関与はなかったとのことである。 

米国首脳の相次ぐ発言に対してイスラエル当局はその後数日間、「ノーコメント」を通してきたが、週末になってベンヤミン・ネタニヤフ首相の安全保障顧問ウージー・アラド氏が、インタビューに答える形で率直な見解を述べた。 
彼は「ハアレツ」(Ha’aretz)紙に対して「イランは既に、核開発段階における『引き返しのきかない一線』を越えている。その一線とは、自前で核燃料を生成するサイクルを完成する能力を獲得した段階と定義できるだろう。それは言い換えれば、他国に依存することなく核分裂性物質を生産するために必要な要素を全て手中にした段階を指す。イランは現在その段階にある。」「イランが全ての核関連の技術を既に修得したかどうかは分からないが、ほぼその段階にある。」と語った。 

またアラド氏は、「しかし、イランはまだ核兵器を使用できるところまで到達していない。そこに至るまでには、イランはさらに困難な壁を克服しなければならない。国際社会は自らの意思でイランの核武装を止めさせる十分な時間がある。…明らかに(国際社会は)十分な対応をしてこなかった。とられた対応策も、タイミングが遅すぎるか、内容があまりにも不十分なものばかりであった。現実問題として、イランを阻止することはまだ可能である。しかし、イランは危険水域として設定した『一線』を既に超えている。」と付け加えた。 

アラド氏は、「イランが核兵器国となるのを認める時ではないのか?」との質問し対して、「懸念されているのは、イランの核武装が契機となってあたかもダムが決壊するように一気に中東諸国の核武装化が進むという事態です。冷戦中に世界が核武装したソ連や中国と共存したように、今後も核武装したイランとの共存が可能と考えるのは間違っています。それは問題の本質が、単にイラン一国の核武装ではなく、中東地域全体の核武装という点にあるからです。」と答えた。 

アラド氏はまた、「イスラエル人でない中東専門家たちの間でも、もしイランが2015年に核保有国になれば中東全体が2020年には核武装化されるだろうとみている。まさに複数の核保有国が競合する中東地域は悪夢に他ならない。世界のエネルギー資源が眠る緊迫した不安定な地域に、5・6カ国の核保有国が存在する場合、核兵器の存在が地域の安定をもたらすどころか、著しく不安定にさせることになる。核武装した中東地域は、まさに逆さに立てられたピラミッドのようなものだ。」と語った。 

さらにアラド氏は、「イランと取引したければ必ず軍事オプションを用意しておかなければならないというのが安全保障の専門家たちの見解だ。その軍事オプションがより信頼のおける具体的なものであればあるほど、実際に使用する可能性が低くて済む。事実、軍事オプションを用意していないものが、結局は軍事力に訴えなければならない状況に追い込まれる傾向にある。」と付け加えた。 

アラド氏が述べた見解は、従来イラン核問題に関して我々が耳にしてきたものと比べるとより率直で具体的なものである。つまりイスラエルは、イランの核武装化を阻止することで、冷戦期に一般化した核抑止論「相互確証破壊」に対する修正を加えたいと考えている。また、おそらく少なくとも、核開発の意図を曖昧にして国際社会を欺いてきた自らの核兵器開発政策をイランが踏襲しないよう手を打つ必要があると考えている。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩

This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.

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