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|南米アマゾン|ヤノマミ族虐殺をめぐる謎


【カラカスIPS=ウンベルト・マルケス】

ベネズエラ南部のアマゾン奥地で7月上旬、先住民ヤノマミ族の80人がブラジルから越境してきた違法金鉱採掘業者(ガリンペイロ)らによって虐殺されたと報じられている。虐殺の生存者3人が報告した。

ベネズエラ最南部のアマソナス州(175,750平方キロ、15の先住民族グループの故郷)で活動しているカトリック教会のホセ・アンヘル・ディバソン司教によると、近年、ブラジルから金の採掘者が違法に越境し、ヤノマミ族と関係を築いて便宜を図ってもらおうとしていたという。しかし、時としてその関係が崩れることがある。同地では1989年から環境保護法が施行され鉱業が禁じられていた。

 8月27日、「オロナミ・ヤノマミ機構」は、アマゾナス州都プエルト・アヤクチョの検察に対して、7月上旬にイロタテリ部落で起こった虐殺の様子について調査するよう要請した。ホロナミの指導者ルイサ・シャチヴェ氏は、森に猟に出ていて難を逃れた3人の生存者の証言として、「ガリンペイロらはイロタテリ部落に突然ヘリコプターで現れ、爆発音と銃声が聞こえたと思うと、彼らの集落(シャボノ集落:巨大な木と藁葺きの円形の家で、中央の広場を囲む形になっており、多くの家族がその中でそれぞれのスペースを割り当てられて一緒に暮らしている:IPSJ)がもう燃えていた。集落には80人のヤノマニ族が暮らしていた。」と検察当局に報告した。

後にイロタテリ部落を訪れた隣の部落(ホコマウェ)の住民も、集落が完全に焼き払われているのを発見。ある家屋では黒こげの死体や骨を見つけた。「オロナミ・ヤノマミ機構」によると、知らせを受けたシャチヴェ氏は、7月27日に、同地域を管轄するベネズエラ陸軍第52部隊に事件の報告を行った。

ブラジル社会環境協会のマルコス・デ・オリヴェイラ氏はベネズエラの日刊紙エル・ナショナルの取材に対して、「負傷したイロタテリ事件の生存者は、国境を越えてブラジル側のヤノマミ族の村落に逃れ、手当を受けた後、親戚がいる部落に引き取られた。」と語った。

世界中の部族の人びとの権利を擁護してきた国際団体「サバイバル・インターナショナル」は9月3日付の声明の中で、「事件が報告された部落はかなりの僻地にあるため、死体を目撃した部族民が最も近い集落に悲劇を伝えるまでに数日歩かなければならなかった。」と述べている。

アマゾナス地域の13の先住民族団体も「ホロナミ・ヤノマミ機構」の告発に連帯を表明し、「オカモ川(オリノコ川の支流)上流のヤノマミ族居住地域は、ブラジルからのガリンペイロの侵入によってこの4年間被害を受けてきた。」と声明で述べている。

先住民族らは同声明の中で、「2009年以来、我々はベネズエラ政府当局に対して、採掘業者らによる暴力や脅迫、女性の搾取、水銀による環境汚染(1グラムの金を採るには通常2グラムから3グラムの水銀が必要とされる:IPSJ)などで多くのヤノマニ族が死亡していると訴えてきた。にもかかわらず、ベネズエラ当局はガリンペイロを追放する効果的な対策やこの地域への侵入を取り締まる計画を策定していない。」と述べている。

その上で先住民らは、「生命・健康・文化的統合が危機に晒されているヤノマミ族の苦境に対処するための取り組みを、ブラジル政府との二国間協力の合意のもとに実施する」よう、ベネズエラ政府に要求した。また彼らは今回の事件が、(ヤノマミ族16人が採掘者に殺された)1993年のハシム虐殺(写真はハシム虐殺の犠牲者の遺灰を収めた壷を抱く生き残ったヤノマミ族の遺族達)から20年近く経過して起こった点を強調した。

1993年の6月と7月、ガリンペイロらがブラジル‐ベネズエラ国境にあるハシムで16人のヤノマニ族を殺害した(当時ニューヨークタイムズ紙は実際の犠牲者は76人に達すると報じた)。虐殺に関与したとみられた24人のうち、5人が有罪宣告を受けブラジル国内で収監された。その後15年にわたる法手続きを経て、ベネズエラ政府は、ヤノマニ族定住地域において監察、管理、保護、ヘルスケアの提供を行うべきとする、米州人権委員会の要求に合意した。

「(今回の虐殺が)ベネズエラ史上初めて先住民の権利が憲法に明記され(ウーゴ・チャベス左派政府の下で)社会主義建設に向けた革命が進行している中で起こったことは、実に腹立たしい。」と先住民と連携して環境保全に取り組む団体の責任者であるルスビ・ポルティージョ氏はIPSの取材に応じて語った。

サバイバル・インターナショナルのスティーヴン・コリー代表は、「全てのアマゾン地域に領土を有する各国政府は、「地域に蔓延った違法採掘、違法伐採、先住民居住地域への違法入植活動を停止しなければなりません。こうした違法活動が、先住民の男女・子どもの虐殺に繋がっているのです。ベネズエラ政府当局は、迅速に犯人に裁きを受けさせ、今後は先住民を殺害すれば必ず罰せらるというメッセージを地域全体に送らなければなりません。違法採掘及び違法伐採はやめさせなければなりません。」と語った。
 
イェクアナ族出身のニシア・マルドナド先住民族相は、9月1日、国営テレビの取材に対して、軍・検察官などからなる政府の調査チームが虐殺があったとされるジャングル奥地にヘリコプターで向かったが、「いかなる殺害が行われたという証拠も発見できなかった。」と語った。

タレク・エル・アイサミ内務・司法相は、9つあるヤノマミコミュニティーのうち7つにコンタクトをとったが、暴力の痕跡は確認できなかった、と語った。また、ヘンリー・ランゲル国防相も、「いわゆる虐殺というものは確認されなかった。これはおそらく数週間前に誤って報道された暴力事件と混同したものかもしれない。」と語った。

サバイバル・インターナショナルは、こうした政府側発表について「私たちは、政府の調査チームが、虐殺が行われた地域に到達さえしていないと考えています。このような状況下では、事実関係が分別を持って立証されるまでに(もし立証されればだが)長い時間がかかるのは、当たり前のことです。」と述べている。

オカモ川上流域で活動している宣教師のように虐殺の起こった地域に詳しい人々は、イロタテリ部落に到達するには歩いて数日を要すると述べている。

報道によればガリンペイロスらは、こうしたジャングルの奥地に到達する手段としてヘリコプターを使っており、上空から発見されないよう、森の木々を伐採せず、隠れ蓑にして採掘活動を行っているという。

ヤノマミ族は狩猟・採集を主な手段として生活しているラテンアメリカ最古の先住民の一つで、ベネズエラ南部の一部とブラジルのロライマ州とアマゾナス州が接する地域に、約20,000人が暮らしている。彼らがここアマゾン熱帯雨林地域に暮らし始めたのは約25000年前に遡るといわれている。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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