ニュース|米印関係|原子力協力の商業化以前にそびえるハードル

|米印関係|原子力協力の商業化以前にそびえるハードル

【ニューデリーIPS=ランジット・デブラジ】

ヒラリー・クリントン米国務長官は、7月20日、前ブッシュ政権がインドと結んだ米印原子力協力(2国間民生用原子力協力協定)を前進させるための協議をニューデリーで開始した。しかし、推定100億ドル相当の協定に署名する前に、多くの障害を乗り越えなくてはならないのは明らかである。 

ロバート・ブレイク米国務次官補(南アジア担当)は先週、協定は「米国の企業にとって大きな機会を提供し、100億ドル相当にものぼる輸出をインドにもたらすことになる。」と語った。


しかし、インド議会での法案審議が原子炉や原子力技術などの輸出商機の前に立ちふさがる。法案は、米国の原子炉製造業者に事故の際の免責を与え、そのことによって保険加入を可能とするものである。 

「デリー科学フォーラム」の中心人物プロビール・プルカヤスタ氏は、「インドの原子炉運転業者にのみ責任をかぶせて米国の製造業者を免責することは受け入れがたく、人権活動家や議会の野党によって批判されることになるだろう。」とIPSの取材に対して語った。 

プルカヤスタ氏は、インドのエネルギー需要を満たすために原子力を使用することに反対ではないとしつつも、メガワットあたり約560万ドルと同氏が推定する原子力発電のコストに懸念を示した。 

GE=日立やウェスティングハウスのような米企業はすでに、フランスのアレバSAやロシアのロスアトム社のような企業と競争関係にある。しかし、アレバやロスアトムは完全国営あるいは半官半民であるため、国家免責が与えられている。 

米国製原子炉の建設候補地としてすでにアンドラ・プラデシュ州とグジャラート州の名が挙がっているが、米国製原子炉から発生した使用済み燃料をどのように再処理するかをめぐって、今週末からウィーンで米印当局間での協議が始まることになる。 

インドへの原子力技術販売を可能とするため両国が昨年署名した協定では、(核実験による制裁から)30年のときを経て、使用済み燃料の再処理が行われることになる特別保障措置施設が建設されることになっている。 

インドは、この協定によって、国際原子力機関(IAEA)による査察を容認する民生用核施設において米国の核技術を利用することができるようになる。軍事施設は除外されたが、これは、インドの軍事用核計画を原子力発電と分離する適切な保障措置が存在しないとの理由で軍備管理関係者から出ていた反対論において、きわめて重要なポイントになっていた。 

協定を進めるため、ブッシュ政権は、核取引に関わる特別の権利をインドに与えることを、45カ国からなる原子力供給国グループ(NSG)に認めさせた。NSGは昨年9月、「NSG加盟国は、原子力関係の軍民両用機器・物質・ソフトウェア・関連技術を、平和目的でかつIAEA保障措置がかけられた民生用核施設で利用するために、インドに移転することができる」と決定した。 

しかし、G8諸国は、7月はじめにイタリアのラクイアで行われた主要国首脳会議(サミット)において、核不拡散条約(NPT)に加盟していない国への濃縮・再処理の技術・機器の移転を禁止すると宣言した。インドは、不平等であるとの理由で、NPTへの署名を一貫して拒んでいる。 

このG8宣言は「濃縮・再処理に関する施設・機器・技術の拡大に伴う核拡散上のリスクを低減する」努力と、「濃縮・再処理に関する物品・技術の移転に関する規制メカニズムをNSGが強化し続けていること」を歓迎した。 

しかし、宣言は、2008年11月にNSGの専門家グループで策定された濃縮・再処理の物品・技術に関する規制強化の提案は「有益かつ建設的」であるとし、NSG加盟国に対して「各国ごとに」それを実行するよう求めた。 

米国がG8の一角を占めているため、バラク・オバマ政権がインドをNPT非加盟国として扱おうとしているのではないかとの恐れがインド国内で広がっている。しかし、プラナブ・ムカジー財務相は、「IAEAとの特別保障措置協定があるのだから、G8がどのような立場を取ろうとも我々は気にしていない」と7月13日にインド国会で述べて、火消しに回った。 

インドが今後30年間で少なくとも1750億ドルを原子力発電に費やそうとしていること、1974年に核実験を実行した直後から、原子炉供給・核技術・核燃料供給の面で国際社会から制裁を受けながらも自ら技術開発を進めてきたことが、交渉上のインドの強みになっているとの分析もある。 

他方、米国の主要な原子炉メーカーであるウェスティングハウスとGEに関する懸念もある。というのも、これらのメーカーが、インドと核協力協定を結んでいない日本との関係が深いからである。ウェスティングハウスは日本の東芝が所有しているし、GEは日立と組んで世界中で原子力プロジェクトを推進している。 

7月19日、独立のシンクタンク「イマジンディア研究所」は次のような声明を発した――「日本とインドが核協力協定を結ばないかぎり、ウェスティングハウスとGEがインドとビジネスを行うことが難しくなるのではないかと強く懸念している」。 

同研究所の声明によれば、東芝と日立が日本政府から特別の許可をもらわないかぎり、「GEとウェスティングハウスがインドの核ビジネスに関与する能力が著しく削がれることになる」という。 

しかし、米企業と核ビジネスを行うことへの最大の反対論は、ユニオン・カーバイド社の不誠実な態度を問題にする活動家からのものかもしれない。同社は、1984年12月にインドのボパールで3800人を死に到らしめた、イソシアン酸メチル流出事件を引き起こしている。これは、史上最悪の産業災害といわれている。 

6月、27人の米下院議員が、ユニオン・カーバイド社がボパールに所有していた資産を2001年に継承したダウ・ケミカルズに対して書簡を送った。跡地の土壌と周辺の水源を浄化することに加えて、事件の被害者に医療・経済支援を行うよう求めたものである。 

書簡には、「市民からの要求と世界からの抗議が繰り返しなされているにもかかわらず、ユニオン・カーバイド社は災害に関する刑事事件の被告としてボパール地裁に出頭することを拒み続けています。」と書かれている。 

全国反核運動連盟(NAAM)の呼びかけ人であるS.P.ウダヤクマール氏は、「ボパールで起きたことを考えると、原子力事故が起こった際に米国の原子炉製造業者を免責する立法を行おうとするいかなる動きにも反対します」と語った。 

NAAMはとくに、原子炉の運転業者に事故の責任をかぶせる一方で製造業者を免責する「原子力損害の補完的補償に関する条約(CSC)」をインドが批准することに反対している。(原文へ) 

翻訳=IPS Japan浅霧勝浩 

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