【コロンボIDN=スゲスワラ・デナディラ】
南アジアの安全保障環境が急速に変容している。米軍のアフガニスタン撤退、タリバンの支配地域拡大、インドとタリバンの接触説、パキスタンの警戒感、中国とロシアの慎重姿勢―。こうした要因が複雑に絡み合い、地域の専門家の間でも将来像を見通すことが困難になっている。混迷するアフガニスタン情勢は、南アジア全体の安全保障秩序に大きな不確実性をもたらしている。
インドとアフガニスタンの安全保障協力は、この10年で大きく進展した。背景には、インドと米国の関係改善がある。2011年の戦略的パートナーシップ協定は、インド陸軍とアフガニスタン治安部隊(ASF)の軍事協力の基盤となり、以後インドは後方支援や訓練面でアフガニスタン支援を強化してきた。インドは戦闘車両や野戦医療支援設備を供与し、アフガニスタン人将校に対しては、インド国内の訓練機関で特別設計の訓練課程を提供してきた。
2015年4月のアシュラフ・ガニ大統領訪印時の合意を受け、インドはチータル・ヘリコプターの供与に加え、すでに引き渡していたMI-25攻撃ヘリコプターの整備支援も約束した。さらにインド空軍は、アフガニスタン人パイロット約200人を訓練した。両国はまた、情報協力や刑事案件での連携強化を目的に、相互司法支援条約(MLAT)にも署名している。
こうした経緯から、インドはカブールでの連立政権樹立を模索するうえで、一定の影響力を行使し得る立場にあるとみられている。想定される当事者には、アシュラフ・ガニ政権、野党指導者アブドラ・アブドラ氏、タリバン、さらには部族長らが含まれる。ニューデリーは一貫して、「アフガン人主導、アフガン人所有、アフガン人統制」による平和・和解プロセスを支持してきた。
こうした中、上海協力機構(SCO)外相会合に出席するためタジキスタンのドゥシャンベを訪れていたS・ジャイシャンカル・インド外相は、アフガニスタンのモハマド・ハニーフ・アトマル外相と会談し、戦乱が続く同国情勢について協議した。SCOはすでにアフガニスタンに関するコンタクト・グループを設置しており、その会合は、タリバンが各地で急速に支配地域を広げている局面で開かれたという意味で重要性を帯びていた。
インドは7月14日、アフガニスタン情勢の収拾に向けた3項目のロードマップを提示した。その内容は、暴力と攻撃の停止、そしてテロや過激主義が地域諸国を脅かさないことを担保する政治対話の推進である。ジャイシャンカル外相はSCOアフガニスタン・コンタクト・グループの会合で、国際社会は「暴力と武力による権力奪取」に反対しており、そのような行為を「正当化しない」と強調した。
一方で、インドとタリバンの接触説も浮上している。ジャイシャンカル外相がカタール経由で移動中、タリバン幹部と会談したとの報道について、インド側は消極的な否定を行ったものの、公式な全面否定は行っていない。政府筋は「ソーシャルメディア上の報告は虚偽であり、根拠がなく、悪意あるものだ」と述べた。
しかし、著名なアフガニスタン人記者サミ・ユースフザイ氏は、アフガン・タリバン関係者の話として、ジャイシャンカル外相がタリバン政治事務所代表のムラー・バラダル師、さらに交渉団メンバーのカイロッラー・カイルクワ氏、シェイク・ディラワル氏と会談したと伝えた。インド外務省の定例会見で記者団がこの問題を追及した際も、報道官は直接答えず、「地域諸国を含む複数の関係者と関与してきた」と述べるにとどまった。その後、カタール政府の対テロ・紛争調停担当特使ムトラク・ビン・マジェド・アル・カフタニ氏も、ウェビナーの中で「インド当局者による静かなタリバン接触」があったと発言している。
インドの公式方針は、タリバンをいかなる形でも承認せず、アフガニスタン政府のみを正統な当事者とみなすというものである。しかし、こうした水面下の接触説は、現実対応としての柔軟化を示唆するものとして注目されている。
元インド高官外交官のM・K・バドラクマール氏は、ジャイシャンカル外相がロシアのセルゲイ・ラブロフ外相との共同記者会見で行った発言について、「誠実な学識外交官」としての評判にも、責任ある地域大国としてのインドの立場にも資さなかったと批判した。インド紙によれば、ジャイシャンカル外相は「アフガニスタンで誰が統治するのかには正統性の側面がある。それは無視できず、無視すべきでもない」と述べたという。
これに対し、バドラクマール氏は、インドがいつから他国政権の「正統性」を気にかけるようになったのかと疑問を呈した。さらに、2019年のアフガニスタン大統領選の投票率は、人口約4000万人の国で約100万人にすぎず、ガニ大統領が得た票もせいぜい約50万票程度で、不正疑惑も強かったと指摘し、そもそもガニ政権自体の正統性が脆弱であると論じた。
こうした中、ジョー・バイデン米大統領は先週、アシュラフ・ガニ大統領とアブドラ・アブドラ氏をホワイトハウスに招き、米軍撤退後も米国の関与が継続することを示そうとした。バイデン大統領は会談後、「アフガニスタンと米国のパートナーシップは終わらない。部隊は撤退するが、支援が終わるわけではない」と述べた。
また、数百人規模の米軍部隊が、カブール空港の警備に当たるトルコ軍を支援するため、少なくとも9月まで現地に残る見通しとなった。これは、トルコ主導の正式な警備体制が整うまでの一時的措置とされる。NATO派遣の一環としてすでに駐留しているトルコ兵約500人も、空港警備任務に再配置されるとされている。この枠組みは、先月ブリュッセルで開かれたNATO首脳会議の際に、バイデン大統領とエルドアン・トルコ大統領の間で協議されていた。
アフガニスタン情勢は、スリランカにとっても無関係ではない。両国は長い歴史的つながりと良好な二国間関係を有しており、相互利益に資する形で友好関係を強化していく意思を共有している。アシュラフ・ハイダリ駐スリランカ大使は、アフガニスタンとスリランカを「南アジアの二つの民主主義国家」と位置づけ、関係が急速に発展していると語った。
同大使はまた、アフガニスタンはスリランカの経験から学ぶことができるとの見方も示した。とりわけ、戦時下における和平仲介や、紛争後の移行プロセスは参考になるという。ただし、アフガニスタンはスリランカとは異なり、タリバンの傘の下で活動する複数の地域的・国際的テロ組織や犯罪集団と対峙している点で、より複雑な現実に直面している。
アフガニスタン政府は、外部からの侵略に対抗しつつ、タリバンとの交渉による和平を模索してきた。政府交渉団は現在もドーハにとどまり、成果志向の交渉、暴力の顕著な縮小、人道的停戦、さらに恒久停戦へとつながるタリバン側の履行を待っているという。その後の平和構築には、元戦闘員、帰還難民、国内避難民(IDPs)の社会復帰を含め、スリランカのような国際的先例から学ぶ必要があるとの認識も示されている。
一方、地域機構の役割も問われている。南アジア地域協力連合(SAARC)は、創設当初こそ地域の平和と安定に寄与することが期待されたが、1985年の発足時に安全保障のような争点的課題は議題から外された。その結果、加盟国は首脳会議の場を二国間対立の非公式協議に使うにとどまり、実効的な安全保障協力の枠組みを築けなかった。1987年の「テロ抑圧に関する地域条約」も、インドとパキスタンがテロの定義で合意できず、実効性を欠いたままとなっている。
このため、南アジアとインド洋諸国にとっては、ベンガル湾多分野技術経済協力イニシアティブ(BIMSTEC)の方が、安全保障協力を前進させるための、より現実的で魅力的な地域枠組みとなる可能性がある。
いま地域には、SCOアフガニスタン・コンタクト・グループがアフガニスタンに和平をもたらし、地域の平和と安全保障を支える主導的な役割を果たすのではないかとの慎重な期待がある。だが、それが実現しなければ、くすぶる火山のようなアフガニスタン情勢が爆発する前に、BIMSTECが主導権を取る必要があるとの見方も浮上している。(原文へ)
INPS Japan
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