【シドニーIDN=ニーナ・バンダリ】
オーストラリアは「核兵器なき世界」への支持を繰り返し表明しているが、軍縮支持団体「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)が入手した文書によって、オーストラリア政府が、国際社会が核兵器の非人道的な側面により注目するようになると、米国の核兵器に依存する自国の政策と「齟齬をきたす」とみていることがわかった。
ICANは、情報公開法によって機密解除された外交公電や閣僚説明メモ、電子メールを取得し、オーストラリア政府が核兵器禁止を目指す取り組みに反対する計画を持っていることを明らかにした。
ICANオーストラリアのディレクターであるティム・ライト氏は、IDNの取材に対して「情報公開法を使った調査で、国際社会がますます核兵器の非人道的影響に焦点を当てるようになってきており、このままでは核兵器禁止条約(NWC)実現に向けた交渉につながるのではないかとオーストラリア政府が懸念していることがわかりました。」と語った。
前労働党(ジュリア・ギラード)政権は、今年4月22日から5月3日までジュネーブで開かれた2015年NPT運用検討会議第2回準備委員会で80か国が署名した「核兵器の人道的影響に関する共同声明」に賛同しなかった。ICANは、自由党・国民党による現連立政権(トニー・アボット)に対して、核軍縮分野でこれまでよりも積極的な役割を果たすよう求めている。
ライト氏は、「オーストラリアは核兵器を禁止し廃絶しようとする進歩的な国々の取り組みを阻害するのではなく、歴史の正しい側に立つべきです。」と語った。
今年10月、第68回国連総会の第一委員会で、ニュージーランドが125か国(日本を含む)を代表して「核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明」を発表した。
「残念なことに、オーストラリアは声明に署名しなかっただけではなく、同日、核兵器禁止から各国を遠ざけようとする別の声明を提出した。オーストラリアによるずっと薄められた内容の声明(核兵器の人道的影響への懸念を表明する一方で、「核兵器を禁止するだけでは、その廃絶は保障されない」と指摘。核兵器保有国の関与や、安全保障と人道の両方を考慮する必要性を強調する内容:IPSJ)には、わずかな数の米国同盟国(「核の傘」の元にあるNATO加盟国や日本など18か国)が署名しただけで、ほとんど影響力がなかった。ニュージーランド主導の声明が、核兵器の使用および所有の合法性を認めないとする多数かつ多様な政府からの賛同を得たことは、喜ばしいことです。」とライト氏は語った。
核兵器廃絶賛成派は、オーストラリアが、核兵器の破滅的な影響と、核が二度と使われないようにする必要性に焦点を当てようとする多くの国々による取り組みを妨げようと躍起になっていることを残念に思っている。
戦争防止医師会(オーストラリア)のスー・ウェアハム副会長はIDNの取材に対して「オーストラリアは、自ら核兵器を保有するか、使用の可能性を前提とした政策を維持するごく一握りの『核のならず者国家』のうちに自らを見出すことになります。軍縮に向けた現実的なステップを望んでいるとするオーストラリア政府の立場には、核ゼロに向けた計画が伴ったためしがありません。つまりそのレトリックとは真逆に、オーストラリア政府は、核を『持てる者』と『持たざる者』が並存する状況を単に支持しているにすぎないのです。」と語った。
核兵器は、すべての兵器の中で最大の破壊力を有しているにも関わらず、国際協定で禁止されていない唯一の大量破壊兵器である。軍縮運動は、国際赤十字・赤新月運動が核廃絶に関する法的拘束力のある国際協定に向けて努力するとの決議を採択したことによって、大きな弾みを得た。
オーストラリア国立大学核不拡散軍縮センターのラメシュ・タクール所長(教授)は、オーストラリアがニュージーランド主導の共同声明から距離を取らなければならない状況ではないという意見だ。
元国連事務次長でもあるタクール教授はIDNの取材に対して、「反対勢力と見られることで、オーストラリアは他の点に関する現在の取り組みを阻害しています。ニュージーランドが共同声明を出したころ、ギャレス・エバンス(オーストラリア元外相)と私は、インド・パキスタン(以前には、中日韓)の政策エリートに対して、核軍備管理および軍縮に向けた強い推進力を生むために、米上院が動く前にそれぞれの国が採れる措置(たとえば包括的核実験禁止条約[CTBT]の批准)について説得を試みていました。」と語った。
ほとんどのオーストラリア国民が核兵器に反対している。ICAN国際運営委員会の共同議長であるティルマン・A・ラフ准教授は、「オーストラリア国民は、自国の政府は核軍縮に関しては『よい勢力』だと信じようとしているのです。しかし、残念な事実は、オーストラリア政府には米国の核兵器配備や標的決定、さらに米国の核の使用可能性を支持・支援する意思があるため、問題解決に努力しているというよりも、むしろ問題の一部であり、軍縮を押し戻しているのです。」と語った。
1995年当時、オーストラリアの当時の外相は、地雷の完全禁止は非現実的であり受け入れられないと主張していた。これは地雷を禁止するオタワ条約が署名開放される2年前のことだった。
核なき防衛協力は可能
核戦争防止国際医師の会(IPPNW)の共同代表でもあるラフ氏はIDNの取材に対して「より悪いことに、オーストラリアがますます米国との軍事的関与を深めると、とりわけ、アリス・スプリングス近郊のパイン・ギャップにある米豪共同運営の軍事スパイ基地(1960年代以降、アジア諸国の各種通信を監視。近年、ここの高性能衛星通信機能が米国のミサイル防衛システムに利用されるようになった:IPSJ)が、米国が中国あるいは別の核武装国との戦争に巻き込まれた場合に、より重要な核攻撃の標的になってしまう。」と語った。
ニュージーランドが健全な防衛協力関係を米国と拡大させていることを見れば、核兵器なしで米国と軍事関係を結ぶことは完全に可能であることが明らかだろう。「そうした道を追求することは、世界から核をなくすためにオーストラリアができる最善のことだ」とラフ氏は語った。
非核世界の主唱者らは、核兵器の世界的禁止は、世論からの継続的な圧力と諸政府のリーダーシップによって可能になると主張している。ニュージーランドが提出した「核兵器の非人道性と不使用を訴える共同声明」にオーストラリアが賛同しなかったことに批判的だったマルコム・フレイザー元首相は、オーストラリアの現政権は前政権にもまして米国の歓心を買うことに勤しんでいるようだと見ている。
外務貿易省の報道官はIDNの取材に対して、オーストラリア政府はニュージーランドが提出した共同声明を歓迎し、そこに盛込まれたほとんどの内容に賛同するが、「実質的に共同宣言の内容作成に貢献する機会を与えられないまま準備され、議論の安全保障面における側面を適切に認識していない声明を支持する立場にない。私たちは、長きにわたって積極的に軍縮を推進してきた国として、核兵器なき世界という共通目標の達成と維持にコミットしつづける。」と述べている。
オーストラリア政府を核廃絶に取り組ませるためにどのような圧力をかければいいかについて、フレイザー氏は、「オーストラリア国民に、いかに私たちが米国に束縛され、いかに米国の決定に影響を受けているのかを理解させることが重要です。私たちが戦ってきた過去3回の戦争は、いずれも米国との関係ゆえに参戦したものです。彼ら(米国)に対して、次の戦争には参加しないと宣言し、独立の外交政策を確立すべきです。オーストラリアはそうしてはじめて、より効果的に軍縮に取り組むことができるでしょう。」と語った。
オーストラリアは、核兵器を保有していないが、国家安全保障へのカギを握るとみられる米国との同盟下で拡大核抑止ドクトリンを採用している国として、興味深い立ち位置にある。また、オーストラリアはウラン埋蔵量が全世界の約40%を占め、ウランの重要な輸出国である。
今日、世界には少なくとも2万発の核弾頭があり、そのうち約3000発が即応可能な状態にある。これらの潜在的破壊力は広島型原爆15万発分に相当する。
核軍縮に関する国際社会の焦点は不拡散から廃絶に移りつつあり、オーストラリアは、これによって、核兵器保有国やイランから拡大核抑止に依存するオーストラリアのような米同盟国へと焦点が移ってくることを懸念している。
今年3月、ノルウェー政府が、核兵器の人道的影響に関する画期的な政府間会議をオスロで主催し、(オーストラリアを含む)128か国の政府と、主要な国際機関や国際赤十字・赤新月運動の代表らが集った。
南アフリカ政府は、NPT運用検討会議準備委員会会合につながる動きとして、NPTの全ての加盟国に対して、「核兵器を違法化し核兵器なき世界を達成する取り組みを強化する」よう全ての国家に訴えた2ページの声明に賛同するよう呼びかけた。
核兵器問題に取り組む市民社会の結束が強まっていることは、ニューヨークで10月19~20日に開かれた「人道的軍縮キャンペーンフォーラム」に現れていた。メキシコは来年2月に諸政府や市民社会、学者らを集めた会議を主催するが、この会議が、核兵器の使用がもたらす人道的帰結を認識しそれに対応するための次の重要なステップとなるだろう。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
※ニーナ・バンダリ氏は、シドニーを拠点に活動する記者で、IDN(インデプスニュース)やインドの「インド・アジアン・ニュース・サービス」(IANS)等の国際通信社や国内・国際出版社に寄稿している。
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