【ヌルスルタン(カザフスタン)IDN=浅霧勝浩】
2019年は、ソビエト連邦の主要核実験場であったセミパラチンスクでの核実験に終止符が打たれてから30周年、また、中央アジア非核兵器地帯条約(セメイ条約)の発効より10周年にあたる。さらに、カザフスタンが核実験に反対する国際デー(8月29日)に核兵器禁止条約に批准し、26カ国目の批准国となった年でもある。
カザフスタンは世界から核兵器を廃絶すべく熱心に取り組んできた国として知られている。同国では1949年から40年にわたり、456回の核実験が行われ、150万人以上が健康被害を受けてきたとされている。
今年はまた、カザフスタンの首都ヌルスルタン市で、「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」展(10月2日~13日)のロシア語版が初めて披露された年となった。この展示会は、長崎と並んで原爆が初めて使用された広島で2012年に開催されて以来、これまで20カ国90都市で開催されてきた。カザフスタンは21カ国目の開催国となった。
創価学会インタナショナル(SGI)と核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)とカザフスタン共和国初代大統領図書館が共催した展示会は、環境、医療、経済、人権、エネルギー、精神性、ジェンダー、世代間、安全保障等幅広い視点から、核兵器の問題点を浮き彫りにし、一人一人が解決の担い手であるであると訴えている。
開幕式(映像)は10月1日に開催され、初代大統領図書館のアメルハン・ラヒムジャノフ館長、寺崎広嗣SGI平和運動総局長、笠井達彦駐カザフスタン日本大使、カザフスタンの元副首相で大統領府人権委員会のクアニシ・スルタノフ委員長が登壇した。
かつて日本に留学したというラヒムジャノフ館長は、日本語を交えつつ、「『核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択』展がSGIというパートナーのイニシアチブで開催できることは、非常に感慨深い。」としたうえで、「今回の展示は私が現在の任に就いて以来、最大規模の展示会です。初代大統領図書館は、国内外の志を同じくする人々との協力関係を重視しています。今年、私たちはSGIとの友好関係を育んできました。今後、一層協力関係を発展させていきたい。」と語った。
第6回世界伝統宗教指導者会議(2018年10月10日~11日)に出席するため昨年カザフスタンの首都アスタナ(当時の呼称)にSGI訪問団を引率して来訪したことがある寺崎総局長は、今回の開会式に際して池田大作SGI会長のメッセージを代読して、「幾多の試練を乗り越え、貴国が進めてこられた非核化の歩みに最大の敬意を表しますとともに、『核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択』展が、美しき平和の天地の貴国で開催されますことを、私はこの上ない喜びとするものであります。」と語った。
さらに池田SGI会長はメッセージの中で、「核兵器のない世界を求める新たな希望の連帯のうねりは、カザフスタンから大きく広がった。これは、世界中の人々の心に刻まれた平和創出の輝く歴史であります。」と語った。そして世界で初めて、核兵器実験場の閉鎖を断行したカザフスタンのヌルスルタン・ナザルバエフ初代大統領の言葉を引用して、「カザフスタンの人々にとって、核兵器と放射能は、どこか遠い世界の理論ではない。それは、私たちの土地が40年以上にわたり犠牲となってきた、残酷で、容赦ない悪である。」と語った。
展示会は、国や立場の違いを超えて、遠く離れた地に住む人々を団結させる運動の「重要な部分」であり、「この地球上で核兵器の脅威と非人道性に無縁でいられる場所などない」というメッセージを力強く発信するものとなった。
池田SGI会長のメッセージを代読した寺崎総局長は、「真に対峙すべきは、『核兵器を容認する思想』、すなわち、自国の優位や安全のために、他国の多くの民衆を犠牲にすることを厭わないばかりか、人類の生存基盤を破壊することも辞さないという、究極の生命軽視の思想である。」と語った。そして、「正義感を失うな。たゆまず善をなせ。」というカザフスタンの国民詩人アバイ・クナンバエフの魂の叫びを想起しつつ、「私どもSGIは、今後も、尊敬するカザフスタンの皆さま方と力を合わせ、核兵器のない平和と共生の地球社会を目指し、さらに邁進しゆくことを固くお誓いするものであります。」と語った。
駐カザフスタン日本大使の笠井達彦氏は、長崎で被爆した祖母の経験を紹介しつつ、「核兵器なき世界への連帯―勇気と希望の選択」展開催の尽力を讃えた。
カザフスタンの元副首相で大統領府人権委員会のクアニシ・スルタノフ委員長は、同国の反核市民運動の歴史に触れながら、「人々の連帯は核兵器よりも強い」と力説するとともに、人類の英知は必ず核の脅威打開への道を見つけると確信していると語った。
10月2日、寺崎総局長を団長とするSGI訪問団はムフタール・ティレウベルディ外務大臣を表敬した。ティレウベルディ外相は、昨年10月の第6回世界伝統宗教指導者会議への出席に続くSGI訪問団の来訪を歓迎した。また、同国で開幕した「核兵器なき世界への連帯」展に触れ、核軍縮の取組みでカザフスタンは日本との協力関係を重視していると語った。
10月3日、SGI訪問団は2007年までセミパラチンスクの名称で知られたセメイ市に空路で向かい、かつてセミパラチンスク核実験場の運営を担ったクルチャトフの国立原子力センターに移動した。そこから、1949年にソ連が初の核実験を実施したポリゴンと呼ばれる旧核実験場の爆心地を訪問した後、同センター内の博物館を見学した。
翌日、SGI訪問団はセメイ市医科大学解剖学博物館を訪問した。この施設には近隣のセミパラチンスク核実験場からの放射性降下物がこの地域や住民の健康にもたらした計り知れない影響について知ることができる資料が展示されている。
カザフスタンのナザルバエフ初代大統領が1991年に核実験場を閉鎖する前に、ソ連当局が核実験関連のあらゆる医療データを持ち去ったため、出生異常や癌等の症例と核実験の直接的な関連性を断定することはできない。しかし旧核実験場周辺地域における症例は他の地域よりも圧倒的に多い。
SGI訪問団はまた、セメイ市内の核医療癌センターやボルコヴニチー島の平和公園内にある記念碑「(母の愛は)死よりも強し」を訪問した。これは核実験の犠牲者を悼む記念碑で、きのこ雲の形にくり抜かれた碑の上部にある星形の球体(核爆発の模様を表現)から、身を挺して我が子を守ろうとする母親像が彫られている。(映像はこちらへ)
これに先立ち、SGI訪問団は1997年までカザフスタンの首都だったアルマトイで、国際的な反核運動「ネバダ・セミパラチンスク」の創始者で詩人のオルジャス・スレイメノフ氏と会見した。同氏の呼びかけで1989年に始まった抗議活動は、旧ソ連圏の国々で初の反核運動として知られ、1991年のセミパラチンスク核実験場の閉鎖に主要な役割を果たした。スレイメノフ氏は核兵器のない世界という共通の目標に向けてSGIと協力していきたいと語った。
寺崎総局長は戸田城聖創価学会第2代会長の「原水爆禁止宣言」に言及し、自らの欲望のために他者の殲滅も辞さない思想にこそ核兵器の問題の本質があると語った。これに対してスレイメノフ氏は、「核兵器は『絶対悪』であり、完全に廃絶されなければならない。」と語った。(原文へ)FBポスト
INPS Japan
Video Documentary filmed by Katsuhiro Asagiri, President of INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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