【ロンドンIDN=レベッカ・ジョンソン】
私たちがこの激動の時代を生き延びることができたなら、歴史は、2017~18年を、核時代の終わりを告げ、(望むらくは)平和構築と安全保障の始まりの時代と記録することになるかもしれない。
あまりにも長い間、つまらないナショナリズムが「男らしさ(マスキュリニティー)」という攻撃的な観念に武器を授け、暴力的な行動に対して権力や征服、物質的富という見返りを与えてきた。様々な帝国が栄枯盛衰を繰り返す中で、家父長制的な支配者たちが、本来人類が分かち合うべき地球上(陸海空)の生息環境を汚染し歪めてきた。地球のすべての生命を破壊する能力を持つ核兵器は、政治的権威や地位、そして奇妙なことに安全保障のための道具とみなされてきたのである。
今や、歴史的な核兵器禁止条約が昨年国連で交渉、採択、署名開放されたことで、私たちは、この家父長制的で大量破壊的な考え方を変え、世界を救う手段を手に入れた。もし私たちが生き延びようとするのならば、安全保障を形作っているものに関する理解を変革する必要がある。つまり、より多くの兵器や国家の分断ではなく、(安全保障のために本当に必要とされているものは)より充実した教育であり、平和的で持続可能な暮らしを可能にする資源や責任の国際的共有なのである。
2017年に採択された核兵器禁止条約は、国連総会が1996年9月に包括的核実験禁止条約(CTBT)を採択して以来初の、核に関する多国間条約である。1968年に核不拡散条約(NPT)が成立してから50年が経過した。これらと同じく、核兵器禁止条約は、その法的・道徳的・規範的効力の根拠を、核兵器がもたらすリスクや危険、人道的帰結に置いている。また、被害者の権利や核技術・放射線が及ぼす影響の性差を認識し、持続可能な軍縮や平和、安全保障に対する女性の貢献の重要性に焦点を当てている点に、この条約が持つ安全保障に関する21世紀的理解が表れている。
今日の世界は依然として戦争と暴力によって引き裂かれ、道徳のかけらもない武器製造者や武器商人が、紛争や痛み、悲惨から暴利を貪っている。しかし、様々な市民社会による運動が、国連加盟国を徐々に説得し、地雷からクラスター爆弾、生物兵器から化学兵器、そしてついには核兵器に到る、もっとも非人道的な兵器を違法化し廃絶する取り決めとメカニズムを作らせた。
これらの諸条約は、人道法と軍縮を総合的に扱うもので、当該兵器に悪の烙印を押し、軍による正当化を弱める規範的・法的圧力を生み出すことで、当該兵器を禁止・廃絶しやすくしている。(ICANは2020年までに核兵器禁止条約の批准を発効要件である50カ国から得ることを目指しているが)化学兵器や生物兵器の場合がそうであったように、ひとたび条約が発効すれば、核兵器の使用は人道に対する罪にあたるという道徳的観念が、法的現実を持つに至るだろう。
この法的現実は、条約を履行し、個別および組織的な違反者を抑止する強力なツールとなる。核兵器禁止条約は単に核兵器の使用を禁じているだけではなく、核兵器の使用や使用の威嚇、取得、拡散、配備につながるような禁止行為を「支援」することも禁じている。核兵器禁止条約は、国家であれ企業であれ個人であれ、あらゆる主体の法的責任を明確にしていることから、かつて核開発を維持していた経済的・政治的インセンティブはすでに損なわれつつある。
核保有国は条約交渉を頓挫させることに失敗したが、一部の核保有国は依然として、条約に加わることはないと明言している。新条約の価値を貶めないがしろにしようとするこうした企図は珍しいものではない。私たち民衆が、軍事的な野望を駆り立てる地位やインセンティブを弱めるような条約を使おうとするにつれ、その法的・規範的なツールは強化される、というのが経験則だ。市民が裁判所で核を拡散させようとする者を訴え、リスクを避けたい銀行や企業が投資を引き上げれば、諸政府も再考せざるをえない。
当面の最大の課題は、主要な核保有国や北大西洋条約機構(NATO)加盟国のメディアが、政府と結託して、核兵器禁止条約を無視したり、あたかもこれは真の条約ではないと取り繕っていることだ。私たちは、メディアを教育して、核兵器禁止条約は真のものであり、核軍縮という長く果たされなかった目標を達成するために、多国間で協議され実質的な法的ツールとなったことを理解させなくてはならない。
核兵器禁止条約はNPT体制を基礎とするものであるが、すべての国家に平等に適用され、核兵器あるいは核爆発装置の使用、使用の威嚇、開発、実験、生産、製造、取得、保有、備蓄を違法化している。核兵器や核技術の移転や受領を禁じる点でNPTを受け継いでいるが、さらに進んで、加盟国の領土に核兵器を配備したり配置させることを認めたり、その支援を行うことをも違法化している。
各国がさまざまな政治的・軍事的条件下にあるとの認識をベースに、禁止条約は2つの基本的な法的メカニズムを準備している。これによって、核保有国や核依存国(核の傘に依存している国)は、条約に加入して、自国の戦力や安全保障政策から核兵器を除去するもっとも適切な方法を選べるようになっている。検証手段もまた、特定の国や、変化する条件・時間・技術に対してもっとも適切な形で開発することができる。
あらゆる面からして、核兵器禁止条約は、朝鮮半島や中東、南アジア、欧州のような、解決が困難とみなされてきた地域における軍縮を前進させるきわめて効果的なツールとなる可能性を秘めている。今こそ、核兵器禁止条約を実際に機能させる時だ。(原文へ)(この文はIDN/INPSが2009年来、創価学会インタナショナルと進めているメディアプロジェクトの2018年報告書「核なき世界に向けて」に寄せた寄稿文である。)
翻訳=INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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