【アスタナINPS Japan/アスタナタイムズ=アセル・サトゥバルディナ】
世界は1945年以来、2000回以上の核爆発を目撃してきた。何百万人もの人々が今もその影響に苦しんでいる。この問題に対処することは、世代を超えてなされてきた不正義との戦いであるであると、核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)のメリッサ・パーク事務局長が、アスタナタイムズの取材に対して語った。
ICANは核兵器の禁止と廃絶を推進する世界的な連合組織である。本部はジュネーブにあり、2017年の核兵器禁止条約(TPNW)採択に重要な役割を果たし、その努力が認められて同年にノーベル平和賞を受賞した。 この連合には650以上のパートナー組織が参加している。
核兵器ほど大きな不正義はない
パーク事務局長は、非核兵器地帯間ワークショップ、核被爆者フォーラム、そして若者フォーラムに出席するため、アスタナを訪問している。
すべてのイベントは、8月29日の「核実験に反対する国際デー」を記念して開催される。この記念日は、2009年にカザフスタンの主導により国連で制定された。今年は、セミパラチンスク核実験場での最初のソ連による核実験が行われてから75年を迎える。
パーク事務局長は、紛争地域で国連と協力した経験(国際法務専門家として、コソボ、ガザ、ニューヨーク、レバノンにおいて国連に勤務)から、戦争や兵器が罪のない人々に与える影響を直接的に目の当たりにしてきた。
「私は生涯をかけて人権と正義のために戦ってきました。私は、核兵器ほど人類と地球に対する不正義はないと感じています。それが私を突き動かしているのです。私は、より平和な世界を実現するための運動に貢献できることは何でもしようと決意していました。」と、元オーストラリア国際開発大臣のパーク氏は語った。
主導的な声
パーク事務局長は、核軍縮を提唱するカザフスタンの「長く誇り高い歴史」を強調して、「カザフスタンは、450回以上のソ連による核実験が実施された場所であり、また、同時に核実験の終焉をもたらした並外れた活動が展開された場所でもあります。」と語った。
パーク事務局長は、自らの体験を語ることで、世界的な軍縮および核不拡散の取り組みを推進する上で、カザフスタン国民が多大な貢献をしていることを認めた。そして、「カザフスタンは核軍縮を推進する上で主導的な役割を果たしています。キリバスとともに、カザフスタンは核兵器禁止条約(TPNW)の被害者支援と環境修復に関する作業部会をリードしています。」と語った。
カザフスタンはまた、2025年3月にニューヨークで開催予定のTPNW第3回締約国会議の議長も務める。
「カザフスタンの核廃絶におけるリーダーシップは非常に重要であり、ICANとして非常に感謝しています。私たちはカザフスタンと協力して、世界に大きな変化をもたらすことができると信じています。」とパーク氏は語った。
高まる核兵器使用のリスク
核兵器が使用されるシナリオについて考えたくない人はほとんどいないが、リスクは蔓延している。パーク氏によると、核兵器が使用されるリスクは、これまでになく高まっている。
「私たちは、核保有国が関与する2つの大規模な紛争が進行中で、新たな核の脅威が生まれています。その中で、軍備管理協定の崩壊や新たな核軍拡競争が進行中です。」とパーク事務局長は語った。
核問題は、もはや冷戦時代のような2つの核保有国間の二元的な対話ではない。
「現在、核保有国は9カ国あり、その他のアクターも存在します。つまり非国家主体、テロリスト集団です。サイバーハッキングや軍事における人工知能の利用の可能性もあります。 これらすべてが核兵器使用の危険性とリスクを高めているのです。さらに、現在の核兵器は広島と長崎に投下された原爆よりも何倍も強力になっています。」とパーク事務局長は語った。
パーク氏は、これは世代を超えてなされてきた不公平の問題であると強調した。「私たちは、核兵器の放射能の影響が何世代にもわたって続くのを目にしています。 核保有国が毎年910億ドルを核兵器に費やしている一方で、その費用は環境保護や、より良い医療や教育、若者にとって重要な他の事柄に充てられる可能性もあります。 核保有国は、非常に無責任にも、自国が認識する安全保障の必要性を、世界の安全保障よりも優先しているのです。 そして、それは容認できるものではありません。」とパーク事務局長は語った。
核抑止力、つまり、核兵器で攻撃されれば強力かつ破壊的な核兵器による反撃が起こることを明確にすることで攻撃を防ぐという考え方は、「深刻な欠陥理論」であるとパーク事務局長は語った。
「この理論は、敵も含めたすべての行動主体が、常に100%合理的かつ予測可能であるという仮定に基づいている。敵の意図を完全に把握しているという前提だ。「これは大胆な仮定です」と、パーク事務局長は説明した。
多くのことは抑止できません。2023年12月のTPNW第2回締約国会議では、参加者はこのような理論の使用を非難し、「抑止は証明されていない賭けである」と強調した。
「過去数十年間、核兵器に関する多くの事故や誤算がありましたが、幸運にも大災害には至りませんでした。国連事務総長が述べたように、『幸運は戦略ではない』のです。抑止力は機能するかもしれませんが、それが機能しなくなる日が来れば、その時には核の傘の下に避難場所はありません。」と、パーク事務局長は語った。
一方で、市民社会によるアドボカシーも活発化している。パーク事務局長は、「世界には対話、外交、軍縮が必要です。」と強調した。また、「カザフスタンはまさにその声を代表する国です。私たちは、カザフスタンと協力できることを大変嬉しく思います。」と付け加えた。
パーク事務局長は、カザフスタンの例が他の中央アジア諸国をTPNWへの参加へと動機づけることを期待している。これまで、中央アジアの5か国はいずれも条約に署名も批准もしていない。
被爆者支援のための国際信託基金
パーク事務局長は、2025年3月にニューヨークで開催されるTPNW第3回締約国会議では、被害者支援や環境修復に関連するプロジェクトに資金を提供する国際信託基金の設立に焦点が当てられると明らかにした。 カザフスタンとキリバスは、TPNWの作業部会の議長を務めており、この構想を提案している。
この2カ国はまた、2023年10月に国連で採択された決議「核兵器の遺産に対処する:核兵器の使用または実験によって影響を受けた加盟国への被害者支援と環境修復の提供」の後ろ盾でもあった。この決議には171カ国が賛成票を投じ、6カ国が棄権したが、フランス、北朝鮮、ロシア、英国の4カ国は反対票を投じた。
「何よりも、カザフスタンは影響を受けたコミュニティーの声を中心に据え、キリバスや他の国々と協力して、これらの人々がヒーローであることを確認しています。彼らは自らの体験を何度も勇敢に語り続けてきました。(核実験に反対する国際デーを控えた)今週、私たちは彼らを称えます。」とパーク事務局長は語った。
被災地域のコミュニティーに正義をもたらすことが最優先事項です。「彼らは、自分たちが被った被害の認定や認知だけでなく、補償についても長い間待ち続けてきました。この国際信託基金は、被害者支援と汚染された環境の修復に大きく貢献するでしょう。」とパーク事務局長は語った。
ICANの主な焦点は、TPNWを「普遍化」し、「できるだけ多くの国を参加させること」である。パーク事務局長は、そのようなシナリオが核保有国に核兵器を放棄するよう圧力をかけることを期待している。
「これは、他の大量破壊兵器や非人道的な兵器、例えば地雷やクラスター弾に対して非常に成功した戦略でした。」とパーク事務局長は付け加えた。
核問題はすべての人に関係する
パーク事務局長は、これらの問題への取り組みには安全保障や軍縮の専門家だけでなく、誰もが声を上げるべきであると考えています。
「ICANでは、この問題がすべての人に関わる問題であり、誰もがこの問題について発言する権利を持っていることを人々に知ってもらうことに非常に力を入れています。誰もが政府に対して核兵器に「ノー」と言う権利を持っています。そして、その運動は広がっています。」とパーク事務局長は語った。
核軍縮は国際的な議論では後回しにされがちだが、パーク事務局長は、核軍縮は最も複雑でない問題だと指摘した。
「なぜなら、核兵器は人間が作ったものだからです。人間がだけがそれを解体することができます。必要なのは、それを実現するための政治的意思とリーダーシップだけです。それが今、必要とされています。」とパーク事務局長は語った。
核兵器のない世界は実現可能かと尋ねられたパーク事務局長は、自信を持って「イエス」と答えた。
「私は心の底から、核兵器のない世界が実現すると信じています。そうしなければなりません。核兵器と人類は共存できないため、核兵器が存在する限り、それが意図的であれ偶発的であれ、使用される可能性があり、その可能性は高まっているのです。」とパーク事務局長は語った。(原文へ)
INPS Japan/The Astana Times
この記事は、The Astana Timesに初出掲載されたものです。
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