【国連IPS=タリフ・ディーン】
米ロの新たな冷戦状況が生まれるなか、核の脅威が(恐らくは政治的な美辞麗句を超えて)エスカレートし始めている。
元国連軍縮局上級政務官のランディ・ライデル博士は、核を巡る現状に関する現実的な評価として、「一般大衆は、気の毒に思います。なぜなら、大衆は核に関して、2つの全く異なる説を聞かされているからです。」と語った。
つまり一方の説は、「誰もが急いで核兵器の取得に向っている、或いは、それら(=保有核兵器)の(近代化措置を通じて)完全なものにしようとしている。」というものである。
「そしてもう一つの説は、核兵器の非人道性に焦点をあてた核軍縮を目指す動きが勢いを増すなか、核軍縮が大幅に進展するだろうというものです。」と、「大量破壊兵器(WMD)委員会」の元主任顧問で、報告書執筆の責任者でもあるライデル博士は語った。
またライデル博士は、「皮肉なのは、もし後者の説が間違っているとすれば、前者の説がこの論争に勝ち、その結果我々人類すべてが敗者になるということです。」と述べ、核兵器が使用される恐ろしいシナリオを予見した。
ロンドンに本拠を置く『エコノミスト』誌は最近、「冷戦終結から四半世紀を経た今、世界が直面する核戦争の脅威は拡大しつつある。」という非常に悲観的なトップ記事を掲載した。
「ソビエト連邦崩壊から25年が経ち、世界は今、新たな核の時代に突入しつつある。」「核戦略は、ならず者国家や地域の敵対勢力が当初の5つの核大国(米国、英国、フランス、中国、ロシア)と争う闘技場となっている。さらに、核大国自身が取り決めた協定も、疑念と対抗心に冒されている。」と記事は述べている。
ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)軍備管理・軍縮・不拡散プログラムのシャノン・カイル上席研究員はIPSの取材に対して、「世界が『新たな核の時代』に突入しつつあるかもしれないとする『エコノミスト』誌の論評に同意します。」と語った。
「しかし私は、『新たな核の時代』の意味合いについて、核保有国による核兵器への新たな支出という狭い観点から定義するのではなく、むしろ、冷戦期の二極秩序に替わるような多極の核世界が登場したというより広い観点から定義されるべきだと思います。」とカイル氏は付け加えた。
カイル氏はまた、「核兵器が東アジアや南アジア、中東の国々における防衛・国家安全保障政策の中心的要素になりつつある。」と指摘したうえで、「こうした国々では、核兵器が地域の安定や抑止に関する計算を複雑にし、予測不能なものにしているのです。」と語った。
そのために、地域の敵対構造が、核クラブが小さかった頃にはあり得なかった、核拡散や、軍事衝突にさえも、つながるリスクが高まっている。
他方、不吉な前触れもある。イランの核武装を防ぐための交渉は、依然として包括的な合意に至っていない(枠組み合意に達したものの、引き続き6月末までの最終合意を目指している:IPSJ)。
サウジアラビアは、「平和目的のため」だとして、韓国と新たな核協力協定を結んだ。一方、北朝鮮は核戦力を誇示しようとしている。
先週、北朝鮮の玄鶴峰駐英大使が、米国の核攻撃に対して北朝鮮は自らの核兵器を使用すると発言したと「スカイニュース」が報じた。
玄大使は「米国のみが核兵器攻撃というオプションを独占しているわけではない。」と指摘したうえで、「もし米国が我々(=北朝鮮)に攻撃を加えれば、我々は反撃するだろう。我々は、通常戦争に対しては通常戦争で、核戦争に対しては核戦争で応じる用意ができている。我々は戦争を望まないが、戦争を恐れてはいない。」と語った。
『エコノミスト』誌はまた、すべての核保有国が「その核戦力の近代化をはかるために多額の」支出を行っている、と指摘している。
ロシアの国防予算は2007年以降で5割以上も増加している。このうち3分の1が核兵器向けだが、この割合はフランスのそれの2倍である。
中国は潜水艦や移動ミサイル部隊に投資し、米国は核戦力の近代化予算として3500億ドルの支出を議会に認めさせようとしている。
カイル氏は、「『新たな核の時代』の副次的な側面はより技術的な性格を持っており、核戦力と通常戦力との間の作戦上の壁が低くなりつつあることと関係しています。」と指摘した。
「とりわけ、技術的進歩が著しい衛星を利用した偵察・監視システムと組み合わせた、新型かつ先進的な長距離・精密誘導ミサイルシステムの開発は、従来核兵器に割り当てられていた役割と任務が、通常兵器に対して与えられつつあることを意味します。」とカイル氏は語った。
「この傾向は特に米国において顕著だが、南アジアの文脈においても見ることができます。インドは、新たな限定戦争ドクトリンの一環として、パキスタンの核戦力を標的とした通常戦力による攻撃システムを採用しています。」
カイル氏はまた、「多くの専門家らが、こうした技術的な傾向から、危機の際に不安定性が増し、核兵器使用のリスクを拡大しかねないドクトリン上の変化が生じている、と指摘しています。」と語った。
「こうした現状が示すものは、(ベルリンの壁が1989年11月に崩壊して)冷戦が終結して以来、世界の核弾頭の数は大幅に減少しているものの、核兵器によって生起するリスクと危険の幅は実際には拡大しているということです。」
「その特異な破壊力から核兵器が極めて危険な兵器でありつづけているとすれば、核兵器が危険なものとみなされ、最終的には禁止されるような世界に到達するための集団的な取組みを強化しなくてはならないということに反対する者は誰もいないでしょう。」とカイル氏は語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between Inter Press Service(IPS) and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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