SDGsGoal16(平和と公正を全ての人に)『核兵器と爆発』、複雑なテーマをわかりやすく解説する書籍

『核兵器と爆発』、複雑なテーマをわかりやすく解説する書籍

マリア・エスター・ブランダンは核物理学の専門家であり、メキシコのような都市での核兵器の使用がいかに壊滅的であるかを例証している。

【INPS Japanメキシコシティー=ギレルモ・アラヤ・アラニス】

核物理学者のマリア・エステル・ブランダン氏は、核爆弾の定義や仕組み、そして地球や生物に対する壊滅的な影響といった複雑なトピックを、極めて簡単な方法で説明する手法に着想を得て、メキシコで『核兵器と爆発:人類の危機』(原題:Armas y explosiones nucleares: La humanidad en peligro)を執筆した。

このテキストは「みんなのための科学」(La ciencia para todos)というコレクションの一部として1988年に初めてFondo de Cultura Económica(FCE)によって出版された。このコレクションは、学生や科学的な訓練を受けていない一般の読者に、複雑なトピックを理解させ、友人や家族に広めることを目的としている。

この本は別の時代に書かれたものだが、核戦争の危険が非常に現実味を帯びてきている今日の国際状況を背景に、若い読者の関心を惹きつけている。ブランダン教授はINPS Japanの取材に対して、「本質的な内容は今も変わっていません…私たちは、ますます核兵器が実際に使用されるのではないかという恐怖に怯えて暮らしています。しかもそれはほんの一握りの人々に依存している構造も変わりません…人類が連綿と築き上げてきたあらゆるものが、核ボタンを押されれば一瞬して失われる可能性があるということを、社会の多くの人々に改めて認識してほしいと考えています。」と語った。

この本の着想は、ブランダン教授が、ニューヨークで1メガトン(TNT火薬100万トン)の核爆発が起きたと仮定した場合の影響と被害に関する文章を40年以上前に母国チリで読んだときに遡る。その数ヵ月後、彼女はその文献を首都サンティアゴの街に当てはめて、地元の人気科学雑誌で発表することを思いついた。

後年メキシコに移住した後、新たに本を執筆するにあたってこれを同国の首都に適応し、「メキシコシティー上空のメガトン」という章を設けた。ブランダン教授は、核爆弾がメキシコの首都の中心部から2000メートル上空に落ち、数秒以内に灼熱に輝く火の玉が形成され、衝撃波と相まって現在2200万人が住む大都市の大部分を壊滅させる様子を詳述している。

メキシコに30年以上在住し、メキシコ国立自治大学(UNAM)で核物理学の研究に専念しているブランダン教授は、「今日の方が、『オッペンハイマー』のような映画が上映されたり、核兵器に関する機密文書が公開されて関連情報も入手しやすくなっていますが、著書『核兵器と爆発』の土台となった歴史的・技術的研究は今日でも正当性と関連性を保っており、この本の出版に向けた研究を誇りに思っています。」と語った。

María Ester Brandan author of the book Nuclear weapons and explosions. Humanity in danger. Credit: Guillermo Ayala Alanis
María Ester Brandan author of the book Nuclear weapons and explosions. Humanity in danger. Credit: Guillermo Ayala Alanis

この本は52,000部以上売り上げ、「みんなのための科学」コレクションの中でも最も人気のある書籍のひとつである。ブランダン教授は、この本を広めたFCEの功績と、友人や家族の間で知識を伝えることに関心を持つ読者の存在に感謝している。逸話として、この本の要約とエッセイを書くという課題を与えられた高校生が、核兵器のテーマに関心を持ち両親や親戚に広め、数日間夕食時のメイントピックになったというケースを話してくれた。

ブランダン教授はまた、「キューバやチリなど、メキシコ以外の公立学校でもこの本を見つけることができたのは幸運だった。」とコメントしている。「私たちはチリ南部を旅していて、チランという街に行ったのですが、そこにはエスクエラ・メヒコという公立学校がありました。夫がメキシコ人なので、娘たちとエスクエラ・メヒコに行くことにしたのです。なぜなら、その場所には著名なメキシコ人画家ダビッド・アルファロ・シケイロスが亡命中に図書館に描いた壁画があったから…。その壁画とメキシコから届いた本を図書館で見たとき、自分の本があることに気づきました。同じことをハバナでも経験しました。」とブランダン教授はコメントした。

この作品の創造性は、核兵器の複雑さと核爆発が引き起こす壊滅的な被害を分かりやすく説明している点にとどまらない。表紙もデザイナーの才能と努力の賜物である。36年前の初版から3つの表紙が発表されたが、ブランダン教授は、「核爆発を再現するためにカリフラワーとオレンジ色の紙を使用して作成された最初の表紙に特別な愛着を感じています。」と説明した。

彼女はまた、最新版の表紙も評価しており、放射能のシンボルの手前で地球が綱渡りしているデザインが描かれている(下の写真中央の表紙)。

Covers of the book Nuclear weapons and explosions. Humanity in danger. Credit: Guillermo Ayala Alanis
Covers of the book Nuclear weapons and explosions. Humanity in danger. Credit: Guillermo Ayala Alanis

核戦争の将来について、ブランダン教授は悲観的であり、今は非常に深刻で危険な時期であると断言した。彼女は、今日人類が核兵器に関して経験していることを表現するのに、ガブリエル・ガルシア・マルケス氏の引用ほど適切な言葉はないと強調した:

「地上に目に見える生命が誕生して以来、蝶が飛ぶことを覚えるまでに3億8千万年、美しいということ以外に何のこだわりもないバラができるまでにさらに1億8千万年、そして、先祖のピテカントロピストとは違って、人間が鳥よりもうまく歌えるようになり、愛のために死ぬことができるようになるまでに4つの地質時代を要した。科学の黄金時代に、ボタンを押すという単純な技術によって、このような途方もない千年単位のプロセスが元の無に還る方法を思いついたことは、何の名誉でもない。」原文へ

Guillermo Ayala Alanis
Guillermo Ayala Alanis

* ギエルモ・アヤラ・アラニスはメキシコのジャーナリスト・テレビレポーター。メキシコ国立自治大学(UAM)ソチミルコ校では核軍縮を研究、国際関係学の修士号を取得。INPS Japanとは、2019年に国際プレスチームのメンバーとしてセミパラチンスク旧核実験場とセメイ、アスタナを取材。INPS Japanが創価学会インタナショナルと推進している「核廃絶」「SDGs for All」メディアプロジェクトにメキシコ特派員として参加している。

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This article is brought to you by INPS Japan in collaboration with  Soka Gakkai International in consultative status with UN ECOSOC.

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