【ワシントンIPS=シドニー・ハーギス】
バラク・オバマ大統領が19日にベルリンでの演説で発表した米露間のさらなる核兵器削減の呼びかけに対して、さまざまな反応が出ている。
オバマ大統領は、「我々は、もはや世界絶滅の恐怖の中で生きてはいないかもしれません。しかし、核兵器が存在し続けるかぎり、我々は本当に安全とは言えません。」「我々はテロリスト網を一網打尽にすることができるかもしれませんが、過激主義を煽る不安定と不寛容の問題を無視する限り、我々自身の自由は結果として危機にさらされることになるでしょう。」と述べた。
オバマ演説は、ジョン・F・ケネディ大統領が、冷戦真っ只中の時代に行った同じような演説から50年を記念して、ベルリンのブランデンブルク門で6000人の招待客を前に行われたものである。
オバマ大統領は、米ロ両国が配備している戦略核の総数と、欧州に配備している両国の戦術核を削減することを目指すとして、ロシアに協力を求める意向を示した。
ニューヨークのアドボカシー団体「核政策法律家委員会」(LCNP)のジョン・バローズ事務局長は、IPSの取材に対して、「オバマ大統領は重要な多国間の(核軍縮)機会についても、さらなる機会創出についても語りませんでした。」と指摘したうえで、「今日の演説には失望したと言わざるを得ません。」と語った。
一方で、遅まきながら大統領は重要な提案をした、と評価する意見もある。
「ベルリンの壁は20年以上も前に崩壊したが、今回の削減提案は長く待ち望まれていたものです。」と19日に語ったのは、アドボカシー団体「憂慮する科学者同盟(UCS)」の主席科学者で、グローバル安全保障プログラムの共同ディレクターであるリズベス・グロンラウド氏である。
「大統領の方針は、今日の核兵器は資産ではなく重荷になっているということを暗に示したものです。」とグロンラウド氏は語った。
2010年の第四次戦略兵器削減条約(新START)は、米ロ両国が保有する大陸間弾道ミサイル(ICBM)、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)、核弾頭搭載可能な重爆撃機の合計を800にまで削減し、配備済みの戦略核弾頭を1550発に制限するというものである。
オバマ政権の今回の提案は、米露それぞれの戦略核弾頭をさらに3分の1削減し、弾頭数が各1000をわずかに上回るレベルに抑えようというものであった。
ワシントンのアドボカシー団体「軍備管理協会」のダリル・キンボール会長は19日、「国家安全保障に関する超党派のリーダーたちは、さらなる、より大幅な核削減で米国の安全保障は高まり、予算の節約ができ、他の核兵器国に軍縮に加わる圧力をかけるのに役立つという点で、合意している」と述べた。
高価なシステム
軍備管理協会によると、米国は、配備戦略核と関連運搬システムの維持のために年間推定310億ドルを費やしているという。
もし米国が戦略核を1000発以下に削減したら、納税者にとって今後10年間で580億ドルの節約になるだろうと軍備管理協会は推定している。
テロやサイバー攻撃が近年次第に頻発するようになる中、識者らは、大規模な核戦力がこれらの脅威に対処するためのもっとも有効な手段であるかどうか再検討するよう、米国政府への要求を強めている。とりわけ、この戦力維持のために数千億ドルを費やすとすればなおさらである。
オバマ大統領は、すべての核実験を禁止する包括的核実験禁止条約(CTBT)に米国が批准するという公約を再確認している。しかし、これまでに米議会で一度批准に失敗したことがあり、上院への再提出スケジュールについて大統領は明確にしていない。
オバマ大統領はまた、世界中の核テロ防止のために2年ごとに開催している「核安全保障サミット」の4回目の会合を、2016年に米国主催で行う計画についても明らかにした。
オバマ政権は、2010年の新STARTではカバーされていない欧州に配備された戦術核の貯蔵量を削減するための具体的な提案を、北大西洋条約機構(NATO)同盟国と協力して策定したいとしている。
一方、(劣勢にある通常兵力を補うため)米国や欧州よりも多くの戦術核を保有しているロシアは、これまでこうした削減案に反対してきている。
19日、オバマ大統領の呼びかけに対するロシアの最初の反応はあまり芳しいものではなかった。ウラジミール・プーチン大統領のある上級外交顧問は、ロシア政府は核兵器を削減する「参加国の輪を拡大したい」意向だと語った。
またロシアのドミトリー・ロゴジン副首相は、「米国がロシアの戦略的潜在戦力を迎撃する能力を開発している時に、戦略核の潜在戦力を削減するという案を、どうして真剣に受け取ることができるのか。」と、サンクトペテルブルクで記者団らに語った。
既存提案の焼き直し
一方、米国内では、オバマ大統領の新提案はこれまでの繰り返しに過ぎないのではないか、という意見が市民社会の中から出ている。
「核時代平和財団」ニューヨーク事務所のアリス・スレーター所長は、「オバマ大統領のベルリンでの提案は、これまで使い尽くされた米国の核政策を焼き直したものに過ぎません。つまり、漏れの多い『核の傘』の下で、核兵器とミサイル『攻撃』という米国の領域に他国を巻き込む同盟網において、米国の世界における軍事的優勢を維持することを意図したものなのです。」と語った。
他方、議会共和党は、2010年の新STARTを超えるいかなる大規模削減提案に対しても、米国の安全保障を棄損するものだとして反対する意向を明確にしている。
上院軍事委員会筆頭理事で保守派のジェイムズ・インホフ上院議員は19日、「我々の核抑止力を弱め、戦略的利益に対する脅威に対処する能力を今後弱めることにしかつながらない大統領の政策を、米国民が支持するとは思えない」と語った。
LCNPのバローズ氏によると、もし提案されたレベルの削減が条約化されたとしても、[憲法上批准に必要とされる]3分の2の支持を上院で獲得できるかどうかは不透明とのことである。一方でバローズ氏は、オバマ政権とロシア政府との間の政治的了解ならば、議会の承認は必要としない、と語った。
しかし、この方向に進むにしても厳しい反対論があるだろう、とバローズ氏は警告した。
またバローズ氏は、「オバマ大統領が提案している戦術核あるいは長距離戦略兵器に関連した措置は、米国が削減するにはロシアが同じ行動をとることを基本的条件としています。」と指摘したうえで、「その政治的理由は理解できます…しかし、米国は自ら率先して削減を行ったうえで、ロシアにも続くよう求めることはできるのではないでしょうか。たとえそうしたとしても、我々は全く安全なのです。」とバローズ氏は語った。(原文へ)
翻訳=IPS Japan
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