【パリIDN=A・D・マッケンジー】
パリで開催された首脳級会合「ひとつの地球サミット」(12月12日)では、資金調達が気候変動対策の鍵を握るとの意見が相次いだ。この会合は、どこに資金を投資し、どこに投資しないか等、資金調達を巡る問題に終始した。
世界銀行グループは、「最貧国」において貧困層のエネルギーへのアクセスを高める明確なベネフィットがある場合を除いて、2019年以降、石油・ガス開発関連の資金供与を行わないと発表した。「この方針は今後事態を大きく変えていくだろう。」と世界銀行のジム・ヨン・キム総裁は語った。
多くの参加者が「#私たちの地球をふたたび素晴らしいものに」(#make our planet great again)ボタンを押した今回の「ひとつの地球サミット」は、気候変動に関するパリ協定の2周年にあわせて開かれ、100カ国以上から、各国元首や、産業界、市民社会、若者、世界のメディアなどが参加した。
エマニュエル・マクロン仏大統領が国連・世界銀行と協力して主導した今回のサミットには、気候変動に対してとりわけ脆弱な地域に対する資金提供を約束している官民の幅広い機関からの参加があった。
サミットは、気候変動協議であるCOP23(ボン)に続いて開催された。国連気候変動枠組条約(UNFCCC)のパトリシア・エスピノーサ事務局長によれば、COP23では、参加者の間に事態が切迫しているとの危機感が見られたという。
京都議定書20周年を記念して、サミットの前日にパリで開いた記者会見でエスピノーサ事務局長が述べたように、こうした危機感は「世界の多くの国々で極端な気候事象が大きな被害を出している現状」によって強められている。
エスピノーサ事務局長は、カリブ海諸国などに甚大な被害をもたらしたハリケーンや洪水に言及して、「多くの人々が生涯を通じて築き上げてきたすべてのものが失なわれている。」と語った。
エスピノーサ事務局長は記者らに対して、「一部の国家元首は、(こうした異常気象による被害は)あらゆる人々に深刻な影響をおよぼしていることから、これに対応する行動をおこし、被害からの復旧に取り組み、より強靭な経済を創るために支援を得る必要性がきわめて高いと訴えています。」と述べ、環境面での解決策を探るには「資金調達が中心的な課題になる。」と強調した。
国連によると、COP23に向けては、気候変動対策に必要な資金のわずか3割しか集まっていなかったという。「ひとつの地球サミット」はこうした状況を変えることを目的とし、マカロン大統領の呼びかけに応えて一部の機関や政府が新たな公約を行った。
カナダと世界銀行グループは、エネルギー利用の可能性を拡大し公害を減らすために、再生可能エネルギーのインフラ拡大で途上国の島嶼諸国に協力する意向を表明した。
他方、カリブ海諸国は、世界初の「気候変動スマートゾーン」の創設に向けた80億ドル規模の投資計画の開始に焦点をあてた。この計画は、米州開発銀行や世銀、カリブ開発銀行、企業、篤志家など官民双方の主体を含む。
この「カリブ気候変動連合」は、「気候スマートな投資の流れを妨げている制度的な障害を突破する」方法を見つけることを目的としている。
「極端な気候現象が起きる可能性が将来的に高まる中、この連合は、最近のハリケーン『イルマ』や『マリア』によって被害を受けた島々を再活性化し、地域全体でより強靭なインフラや社会を構築することを目指したものだ。」と米州開発銀行は述べている。
サミットに参加したハイチのジョヴネル・モイーズ大統領は、カリブ海地域は全体としてさらなる支援を必要としていると語った。
「私たちは『ひとつの地球』と言っていますが、『ひとつのカリブ海』についても同様に語っていく必要があります。なぜなら、カリブ海のすべての島々は気候変動に対して脆弱だからです。」とモイーズ大統領は述べ、ハイチは災害への保険に関しては「深刻な状況」にあると指摘した。
セントルシアのアレン・マイケル・チャスタネット首相は「来年も間違いなく、ハリケーンの時期がやってきます。国際社会は(復興のための)拠出を誓約していますが、私たちの手元には届いていません。」と語った。
チャスタネット首相は、「カリブ海地域の国々の一部を「中所得国」と定義している(従って、一部の財政支援の対象から外されている)現在の世銀の方針は国際レベルで見直されるべきです。」と語った。
アフリカもまたサミットの焦点の一つだった。フランス開発銀行(AFD)は、気候対策の策定に関して諸国を支援するフランスの「適応ファシリティ」の「具体化」の一歩として、モーリシャス・ニジェール・チュニジア・コモロと協定を結んだ。
同ファシリティは、「気候変動への適応に関するパリ協定の履行において、気候変動に対してとりわけ脆弱な15の途上国を支援する」ため、4年間で3000万ユーロ(約3550万米ドル)の資金供与を行う。
「本気で気候変動問題に取り組むのであれば、動員すべき道具があります。」とAFDのレミ・リウー総裁は語った。
フランスはしばしば、かつての植民地での経済・環境政策に関して批判されてきており、今回の発表も、厳しい結果に終わったマクロン大統領のアフリカ歴訪を受けてなされたものであった。
「ひとつの地球サミット」前夜に開催されたイベント「気候ファイナンスデー」で記者会見したリウー総裁は、世界は気候変動への適応に関してより多くのことをなす必要があり、また、アフリカへの支援を増やす必要があると語った。
アジアに関して、サミットに参加した政府関係者らは、中国をはじめとした国々によるアジアでの動きは「素晴らしいもの」だと述べた。中国は、全企業が環境への影響に関して情報公開を義務付けられること、国内の環境投資を促進することを発表した。しかし、中国が海外で石炭火力発電所の建設を推進している問題に、一部のNGOは注目している。
中国の「ひとつの地球サミット」への参加は、米国による欠席と好対照であった。ドナルド・トランプ米大統領は今年初め、米国のパリ協定からの離脱を発表している。
一方、サミットには、米国から様々な著名人が参加してこの空白を埋めた。例えば、マイケル・ブルームバーグ元ニューヨーク市長、元カリフォルニア州知事で俳優のアーノルド・シュワルツネッガー氏、俳優のショーン・ポール氏、ビル・ゲイツ氏、ジョン・ケリー元国務長官などである。
ブルームバーグ氏はサミット開催中、「トランプ大統領がパリ協定離脱を発表した翌日、私はマクロン大統領と会って、米国民はパリ協定を遵守し続けると伝えた」と語り、トランプ大統領の決断はかえって「人々を糾合させた」と指摘した。
「私たちが目標を達成する手助けをしてくれたという意味で、トランプ大統領にも多少は感謝しなくてはいけない。」とブルームバーグ氏は付け加えた。
ブルームバーグ氏は、「低炭素経済への転換において、経済界はカギを握っています。従業員や投資家、消費者がこぞって変化を望む中、企業には環境に対して優しい取り組みを進める以外の選択肢はありません。」と語った。
ブルームバーグ氏とイングランド銀行のマーク・カーニー総裁は、2年前のパリ気候協議の際に形成された連合である気候変動関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への支持が高まっていると述べた。
両氏は、合計の市場価値が6.3兆ドル以上にのぼる230以上の企業がTCFDへの支持を表明していると語った。他方で、気候金融情報を開示している企業は今のところ2割に過ぎない。
「市場が透明になればなるほど、経済はより安定的で力強いものになります。」とブルームバーグ氏は語った。
サミットの間、圧倒的多数の人々に目を向けたプログラムに関して、数多くの新しいアイディア、名称、略語、発表などが出された。2020年までに120億ユーロ(約140億米ドル)の環境投資を発表した保険グループ企業アクサと同じく、欧州連合も気候問題に関して公式発表を行っている。
EUは、EU対外投資計画の一環として、持続可能な都市、持続可能なエネルギーと発電網、持続可能な農業や農村での起業、アグリビジネスに関して、アフリカやEUの隣接地域において90億ユーロ(約106億米ドル)規模の資金を投じると発表した。投資は2020年までに行われる予定だ。
女性の登壇者が多かったあるイベントでは(サミットでは女性の発言者はまれであった)、投資家らが「気候アクション100+」と呼ばれる構想を立ち上げた。
発表された目的によれば、この新しい動きは、「気候変動に関するガバナンスを改善し、排出を抑制し、気候関連の金融開示を強化することを世界最大の温暖効果ガス排出企業に迫る」ことを望む225の投資家を束ねたものだ。
報道担当者によると、今回署名した投資企業は、合計で26.3兆米ドル以上の資産価値を持っているという。
サミットが企業や投資家に焦点を当てたことは、一部の活動家の批判を招いた。「マクロン大統領は、貧困国が気候変動の影響に対処し気候関連行動を強化する支援を行うために公的部門によるさらなる財政支援を具体的に発表するとの期待感を高めていました。」とアクションエイド・インターナショナルのハルジート・シン氏は語った。
「しかし、企業が話題の中心となり、一方で公的支援の発表は残念なことに少なかった。『ひとつの地球サミット』に参加した指導者らは、民衆がその安全と食料安全保障を気候変動の影響から守るために財政支援を必要としていることを忘れてしまったかのようだ。」
さまざまな宣言とともに、12歳の少年がサミットで投げかけた疑問が注目を集めた。
「気候変動の犠牲者になる僕のような子どもを助けるために、皆さんに何ができると言うのでしょうか?」と(COP23議長国)フィジーから参加したティモシーが語ったのである。
これに対する一つの答えは、国連のアントニオ・グテーレス事務総長から出された。それは、諸国が約束を守り、化石燃料を過去のものにする、ということだ。(原文へ)
INPS Japan
This article was produced as a part of the joint media project between The Non-profit International Press Syndicate Group and Soka Gakkai International in Consultative Status with ECOSOC.
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