ニュース視点・論点|視点|核軍縮の現状(ピーター・ワイス核政策法律家委員会名誉会長)

|視点|核軍縮の現状(ピーター・ワイス核政策法律家委員会名誉会長)

【ニューヨークIPS=ピーター・ワイス】

もし精神病というものが現実との接点を失うことだとしたら、核軍縮の現状はまさに精神病と言えるだろう。

一方で核問題は、数十年にわたる休眠状態から表舞台へと徐々に現れつつある。他方で「核兵器なき世界」への核兵器国のコミットメントは、遵守というよりも違反としてとらえられている。

まずは、核軍縮に関する前進点と後退点を挙げることから始めてみよう。

Peter Weiss, President Emeritus of the Lawyers Committee on Nuclear Policy.
Peter Weiss, President Emeritus of the Lawyers Committee on Nuclear Policy.

前進点では、核軍縮問題の中心である米国において、(徐々にトーンが落ちてきてはいるが)この問題に繰り返し言及している大統領がいる。2008年6月16日にパデュー大学で行った講演でバラク・オバマ上院議員(当時は民主党大統領候補)は、「世界に対して、米国は核兵器なき世界を目指すとの明確なメッセージを送る時が来ました。…私たちは、核兵器廃絶という目標を核政策の中心的要素としたい。」と語った。

ただしオバマ氏は、その目標を達成するためにどれほど時間を要するかについては言及していない。その1年後、大統領に就任したオバマ氏
は2009年5月6日のプラハでの有名な演説で、「私は明白に、信念とともに、米国が核兵器のない平和で安全な世界を追求すると約束します。」と語った。しかし彼は「ゴールはすぐには到達できないでしょう。…恐らく私が生きている間には(難しいでしょう)。」と付け加えたのである。

オバマ氏は当時48才だった。その4年後、2013年6月19日、オバマ大統領はベルリンで行った演説の中で、「正義のある平和とは、その夢がたとえどんなに遠く見えようとも、核兵器なき世界の安全を追求することに他なりません。」と語った。

公正を期して言えば、プラハで発表された核廃絶への道のりが実行されたにせよ阻止されたにせよ、それは大統領の落ち度によるものではない。どういうことか。一方では、核兵器の大幅な削減がロシアと交渉され、米国の安全保障戦略における核兵器の役割は低減された。

いずれもオバマ政権が推奨していた、包括的核実験禁止条約の批准と核分裂性物質生産禁止(カットオフ)条約の交渉は、ひとつには米国上院によって、もうひとつには他国によって棚上げにされた。

しかし、削減は廃絶ではなく、米国国防総省もエネルギー省も、核軍縮には明確に反する政策を追求しつづけている。すなわち―

国防総省が2013年6月19日に出した「米国核兵器運用指針」は、核兵器は極限状況でのみ使用されるとしつつ、厳密に抑止にのみ使用目的を制限するのは時期尚早だとしている。

国防科学委員会が今年1月に発表した「核監視・検証技術評価」は、核時代が始まって以来初めて、米国が、水平拡散(核兵器を保有しない国への拡散)だけではなく垂直拡散(核兵器国内における核兵器保有量の増加)にも留意する必要性を認めた。

しかし、100ページに及ぶこの報告書は、核兵器のない世界における監視および検証の要件についてまったく言及していない。

2月6日、米国は、B-61核爆弾の衝撃実験(爆発を伴わない)に成功したと発表した。これは核不拡散条約の条文には反していないが少なくともその精神には明白に違反したものである。ドナルド・コック米国防次官補は、新型爆弾の検討が始まっており、「2020年代中ごろか末には」旧式モデルとの交代が可能になると語った。

こうした、核軍縮に関する米国の政策は、せいぜい玉石混淆といったところだろう。もちろん他の8つの核兵器国(ロシア、英国、フランス、中国、イスラエル、インド、パキスタン、北朝鮮)の政策が米国よりましというわけでもない。

次に良い面はどうだろうか。昨年には、非核兵器国による好ましい方針がそれ以前よりも多く打ち出された。

・2月には、北大西洋条約機構(NATO)加盟国であるドイツの外務省が、「中堅国家構想」(MPI)の招集したフォーラム「核兵器なき世界の条件を創り枠組みを築く」を主催した。

・3月には、別のNATO加盟国であるノルウェーの外務省が、「核兵器の非人道的影響に関する国際会議」を主催した。会議には128か国の政府と多くの市民団体が参加した。

・10月21日、ノルウェーのデル・ヒギー国連大使が、その多くがオスロ会議に参加していた125か国による声明を国連総会第一委員会(国際平和を主要議題とし、軍縮と国際安全保障問題を主に取り扱う:IPSJ)で発表した。この声明は、核兵器が二度と使われないように保証する唯一の道はその完全廃棄である、と宣言している。

・核軍縮に関する「オープン参加国作業グループ」が5月にジュネーブで初めての会合を持ち、8月に国連総会に報告書を提出した。報告書は、国際法の役割に関する部分など、核軍縮を達成するさまざまなアプローチについて記述している。

・9月26日には、国連総会が史上初の「核軍縮に関するハイレベル会合」を開催し、参加各国の大統領や外相、その他政府高官らが次々と、核兵器なき世界に向けた迅速かつ効果的な進展を図るよう呼び掛けた。

・最後に、そして最も重要なことに、2月13日と14日にメキシコのナヤリットで開かれたオスロのフォローアップ会議(「第2回核兵器の非人道的影響に関する国際会議」(非人道性会議))において、オーストリアのセバスチャン・クルツ外相が、「国際的な核軍縮の取り組みには緊急のパラダイム転換が必要だ」との理由を述べて、今年末にウィーンで(第3回)会議を招集することを発表した。

ウィーン会議は、筆舌に尽くしがたい核兵器の恐怖をたんに三度聞く場とはならず、重大な作業に取り組む場となるだろう。国連の潘基文事務総長が示唆したように、核兵器の使用および保有を禁止する条約の起草開始さえあるかもしれない。

しかし問題もある。核保有国はオスロ会議もナヤリット会議もボイコットした。もしウィーンもボイコットしたらどうなるだろうか? それが問題だ。またこのことは、官民双方に広がりつつある反核勢力が向き合わねばならない課題でもある。そこで(核兵器国が認識しているであろう)「後ろめたさ」は、外交の重要なカードにもなり得るだろう。

核兵器国がリップサービスをしてきた核不拡散条約(NPT)では、核兵器なき世界を達成するために全ての加盟国に誠実な努力を行うよう求めている。今こそ、核兵器国に、とりわけ五大核保有国に、この重要な義務すべてを思い起こさせるべき時だろう。(原文へ

翻訳=IPS Japan

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